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第九十八話・天候管理と病気平癒

 私は掌にファトゥム様を乗せて、自分の部屋からリビングことコントロールルームに戻った。


 テーブルにはウィルとルーカスがいて、二人で何やら話し込んでいる。コノエの姿は無く、キザリハは……視線だけで探していると、ウィルがキッチンカウンターの向こう側を指差している。


「キザリハ、いるの?」


 キッチンの向こう側から覗き込むと、シンクの下あたりで、無垢の床に座り込んで小さくなっているキザリハがいた。


「おいで。ほら見て、ファトゥム様がこんな可愛らしい姿になって助けに来てくれたんだよ? 怖くないから大丈夫、こっちおいで」


 私が手を差し伸べると、キザリハはビクビクしながらそっと私の手に触れた。でも視線の先はファトゥム様だ。


「ぼ、ぼくが神殿を壊して回っていたこと、怒ってない……?」


 キザリハの告白に、ファトゥム様は腰に手を当ててうーんと言ってから、


「怒りませんよ。貴方のことを怒る人はもう居ないから、安心しなさい。ルカはとっても優しいですし、私も優しくしてあげますからね」


 ちびファトゥム様、ばっちりウインクまでしてる。キザリハは「可愛い……」と嬉しそうに呟いて、ほっとしたように私の手を掴んだ。


 キザリハと手を繋いでテーブルに戻り、キザリハも大人しく座らせる。後はコノエだ。


「ねぇ、コノエはどこ行ったの?」


「さぁ、無言で立ち去ったから分からないですね」


「ルカ様の力を持ってすれば分かるのではないですか?」


 ウィルもルーカスも、居なくて清々するって顔してる。けど、よく考えたら、二人の命の恩人じゃない、コノエは?


「二人とも、コノエにお礼は言ったの?」


「ぎくり」


 ウィルが明らかに視線を逸らして、知らんぷりしようとしてる。ルーカスは、


「一応、その場で言った気が……」


 って声めちゃくちゃ小さいんですけど。


 私はため息をついた。二人とも私より大人なんだから、ちゃんとして欲しいわ。


「ルカ、これから時間はたーっぷりありますから、大丈夫ですよ。それから、コノエの事も、願えばすぐ呼び出せますよ」


 ファトゥム様が可愛くひらひら揺れながら教えてくれる。女神だった頃と違って、可愛くて明るくて、こんな風に生き生きするのなら、もっと長く生きてくれたらなあって思っちゃう。でもたぶん、女神を辞めたからこんなに楽しそうなんだよね。


 そう考えると、女神の仕事って大変そう……。気が引けるけど、とりあえずコノエを呼び出して、女神としての初仕事を始めなきゃ。


「コノエ、集まってくれるー?」


 とりあえず空中の上の方に適当に声をかけると、私の頭の中にコノエの返事が届いた。


「分かった」


 声とほぼ同時に、コノエが椅子に腰掛けた状態で現れる。瞬間移動してきたみたい。


「えーと、これから女神としての初仕事をします。みんなが揃ってないと出来ないみたいなので、協力してね。今日は、天候の管理と、病気で苦しむ犬人の治癒をするそうです」


「するそうです、じゃなくてルカがやるのですよー」


 ちびファトゥム様が私の掌からふわりと飛び立って、妖精のようにふわふわ浮きながら話しかけてくる。とっても失礼で口が裂けても言えないけれど、新しいペットができたみたいですごく可愛い。


「天候の管理ってどうやるの?」


「液晶テレビにズーアスの過去現在未来の天候を映す事ができるから、それを見て下さい。気候を変化させないとトラブルが起きる地域は赤く囲われてるから分かりやすいでしょう? 昔はいちいち現地の気候や風土を住んでいる者に聞いて判断しなくちゃならなくて大変だったんですよ。今はここからデータがすぐ見れて本当に便利でしょ? ね、すごく便利でしょ?」


 なんで二回も言うのかしら。私は苦笑いしながら液晶テレビを見た。我慢にズーアスの地図が表示されてみんながそれぞれビックリしてる。


「これは神の力ですか? 紙ではない板に突然地図が浮かび上がるなんて」


 うーん、神の力なんだろうけど、私的には電源とテレビの力、それにファトゥム様が頑張ったらしい。


 猫王国のモンティグリースあたりが赤く囲われている。雨が少なくて乾燥気味らしい。


「雨マークがあるでしょう? それを押して、いつ降らせるかも選べますから。降雨量と時間も選べるけど、面倒ならお任せ機能もあるんですよ、うふふ」


「なんかすごく便利だけど、なんでこんなシステムなんですか?」


「それは、私がこの世界に呼ばれる前はそういう仕事をしていたからなんです。その知識と経験で、女神によるズーアスの運営を分かりやすくしました」


 神秘的な女神ファトゥム様が、今私の中でキャリアウーマンファトゥム様に変化した。私はただの高校生だから、分かりやすくしてもらえたのは有り難い、けど、なんか神っぽくない……。


「とりあえず雨を降らせれば良いんだろう?」


 コノエは興味なさそうにさっさと画面の雨ボタンを押して、その後表示されたお任せボタンもすぐ押した。


 あんな崖の中の葉っぱの扉の家に住んでたのに、タッチパネルをすぐ操作できるとか、コノエって適応能力高いのね。


「この作業は毎日やっても良いけど、やり過ぎも良くないですし、未来の天候まで見れるから、時間のある時に何年分かやっておくと良いでしょう。さ、次は犬人達に奇跡を起こしに行きましょうね。こっちは今はルカ一人でしか行けないから、頑張ってきて下さい」


「どうやってやるのか教えてもらえます?」


 私はファトゥム様のせっかちに頭を抱えたくなりながら、方法を聞いた。


「まず神殿に降臨します。来て欲しい、って呼ばれている神殿は引きがあるからすぐ分かりますよ。それから病気の者は治癒しますって言えば集まって来るので、そこで力を使って下さい」


「来た人みんな治して良いんですか?」


「ルカがそうしたければ、そうして下さい」


 ファトゥム様は、治す治さないも女神が決められます、と言ってきた。私のさじ加減で何もかも決まるのね。これが女神の仕事なんだ……。


「ご一緒したいですが、ダメならお帰りをお待ちしています」


 ウィルは待てをされた犬のような切ない顔でこっちを見ている。コノエの方を見ると、声は出さずに唇だけで何かを言ってきた。


(心はいつもそばにいる)


 私が赤くなって照れていると、ウィルとルーカスから嫉妬のエネルギーが立ち上ってる感じが伝わってくる。このままここに居て、まとまりがないみんなと居ると何もできなくなりそうなので、私は慌てて椅子から立ち上がった。


「じゃあ、行ってきます」

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