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第九十六話・共にゆく者

 ウィルとコノエ、そしてこの場にいるルゥ、キザリハ、ルーカス、マゼラ大司教。みんなが私を見ている。


「ウィルは、私と同じ神の世界に行くことが条件で、生き返らせてもらったの。だから、もうこの世界では暮らせないの、ごめんね、ウィル。勝手に決めて」


「それは、大好きなルカ様とずっと離れずに一緒に居られるという事ですか?」


 私は申し訳ない気持ちで説明してるのに、ウィルは明るくて嬉しそうだ。私は控えめにうなずいたけど、それを見たウィルは「やった!!」と大袈裟に声を上げた。


「喜んでご一緒します。僕が望んでいた未来を勝ち取れて、本当に嬉しい。ずっと一緒ですよ、女神ルカ様」


 ウィルはそう言って、私の足元に跪くと、優雅な仕草で私の手に口付けた。それから私の手を取ったまま立ち上がって、「さぁ、参りましょう」と意気揚々としている。


 そこへコノエがやってきて、無言のまま私の横にぴたりとくっついてきた。猫人なので、音もなくしなやかにまとわりついて来る。


「俺も行く」


 私はコノエの目を見て、その決意が本当に固い事を悟った。隣でウィルが「お前はここで暮らせば良いだろ! お呼びじゃないぞ! 僕とルカ様の世界に割り込んでくるな!」と大騒ぎしているけれど、見つめ合う私とコノエは、二人だけの世界に居るみたいな感じがした。


 コノエは絶対私と離れないって決めてくれたんだ。私が猫王国に置き去りにしても、諦めずにこの大神殿まで来てくれた。コノエの想いを、私がちゃんと受け止めなければ。


「ありがとう、じゃあ、コノエも一緒に来て。それから、キザリハ、おいで」


 ルゥの後ろに隠れていたキザリハを呼び寄せる。猫背になって小さくなりながら、こそこそと歩いて来る。ウィルのこともコノエのことも怖いらしく、二人に睨まれてビクビクしながらなんとか私の足元まで辿り着いた。


「僕も連れて行って……この世界で生きていくのは怖くて耐えられないから」


 そういう風にしてしまったのは私だ。そう思うとキザリハが不憫でならなかった。彼の可哀想な生い立ちを思い出すと、怒りに任せて自分がかけた恐ろしい魔法の事を今でも後悔する。


 私はキザリハの手を取った。小さく震えている。震えが落ち着くようにと想いを込めて、ギュッとしっかり握り締めてあげる。


「そろそろ時間だから、行くね。ルゥ、きっとまた会いに来るし、私に会いたくなったらいつでも呼んで、きっとどこにいても駆けつけるから」


 ルゥは満面の笑みで笑っている。また会える事と確信しているような、自信に満ちた笑顔だ。


「ルカにはこれからも、いつでも会えるって分かってるよ。だから寂しくないの」


 ルゥの方が私より落ち着いていて堂々としてる。一緒に行く、っていつ言い出すだろうって思っていたのに、結局最後まで言わなかったね。私よりルゥの方が大人かもしれないわ。私は今度はマゼラ大司教の方を見た。


「マゼラ大司教、これからは私が女神として、ズーアスを守り導いていきます。よろしくお願いします」


「ルカ様……いえ、女神様。新たな女神様が誕生する貴重な場に立ち会う事ができ、至福の時でございました。どうか、これからもズーアスと私達の事をお守り下さい。私達も女神様の御力になるべく、より一層の祈りを捧げさせていただきます」


 マゼラ大司教のように純粋に女神を信じてくれる犬人が居てくれるから、これから先の事もあんまり心配していない。猫王国もきっとコーセイがまとめ上げてくれてるだろうしね。


「ルーカスも、今までありがとう。貴方の大切な親友を連れて行く事を許してね」


 私は最後にルーカスを見た。長い黒髪の、憂いを帯びた瞳の美しい騎士は、少し迷ってから、私を真っ直ぐに見つめてきた。


「ルカ様……女神様。どうか、俺も連れて行って下さい」


え? 私はルーカスの言葉を聞き返した。今、連れて行って下さいって聞こえたけれど、気のせいよね?


「迷いましたが、俺もご一緒させて下さい。お願いします」


「ルーカス……本気で言ってるの? もう二度とズーアスで暮らせないのよ? 妹さんにも会えるかどうか分からないし。まさかそこまでウィルの事を……?」


 私は驚きで思わずフラッとした。すかさずコノエが抱きとめてくれたけれど、反対側でウィルが私をぐいぐい引っ張って来る。もうこの二人は煩わしいなあ! そう思ったら、私の黒い髪から生えている一対の小さな翼がバサッと広がり、二人の事を追い払うように動いている。


 煩わしい二人が大人しくなったところで、私はルーカスを見た。ルーカスはいつになく真っ直ぐな目で私を見ている。


「ルカ様は何か勘違いされているようですが、俺は、ただルカ様のそばに居たいだけです」


「ルーカス! お前、親友の想い人なんだから控えるべきだろう」


 ウィルが私の隣でぷんすか文句を言っている。私は予期せぬ告白に頭痛がしてきて、額を抑えた。たぶん告白のせいではなく、一刻も早く神の世界に戻らないといけないから頭痛が起きてるんだと思うけれど。


「ずっと迷っていたんだけど、俺はルカ様の力になりたい。女神様としてこの先も頑張り続けるルカ様を、そばで支えたい」


 な、何でルーカスがそんな事を言い出すのかしら。私は困ってコノエを見たけれど、彼は静かな首を横に張っている。諦めろと私に言ってるんだ。


 頭が痛くて、私はこめかみの辺りを片手で押さえた。もう時間だわ、行かないと。


「こんな慌ただしい形で決めたくないんだけど、ルーカス、本当に良いのね?」


「はい、お願いします。そばに居させてほしい」


 私は小さなため息をついて、ルーカスがそばに来るのを許した。


「……では、神の世界へ行きましょう」


 光に包まれて周りの景色が消失してゆく中で、ルゥの明るい笑顔が最後までよく見えた。


「ルカ、大丈夫だよ。楽しくできるよ!」


 そんな可愛い声が聞こえてきて、私は思わず笑顔になった。

意外なところから立候補。

ルーカスの魅力はこれから明らかに……なるかもしれません!

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