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第八十九話・犬王国の大神殿へ

 コーセイとサフィアに真実を話した翌日、私とコノエは猫王国を旅立つ準備を終えた。


 ちなみに、ファルザームとマトヴェイは全ての地位、財産を没収され、イチ労働者として神殿の再建作業をやるため、今朝旅立ったらしい。


 口を開けばコーセイや周囲への呪詛みたいな事しか言ってないらしいけど、誰もマトモに取り合わなくなった。


 二人ともオッサンなので労働力としてはあまり期待できないけれど、自分たちが壊した物を直すのは、心を入れ替えるにも良い作業だろう、とコーセイは笑っているそう。


 あの二人はきっとこれからも変わる事はないだろう。でも、周りが見方を変えれば、未来は変わる。ずっとコーセイを恨み続けるだろうけど、コーセイはそんな二人を上手く扱って行くだろう。


 キザリハはというと、私にやっと慣れてきたところなので、私の部屋の隅っこにキザリハスペースを作ってそこで大人しくしている。犬王国へ連れて行くのは大変なので、最後の時になったら魔法でキザリハをその場へ連れ出すつもりでいる。キザリハ本人にその話をしたけれど、とにかく「怖いのは嫌だけど、そこしか行くところが無い気がする」と言っていた。


「アーリャ、ソーニャ、ターニャのこともお願いね。コーセイの侍女として働いてもらうのが一番安心だわ。三人ともすごく信頼できるし、気が利くから。あと、時が来るまでキザリハの面倒を見ていて欲しいの。その時が来たら私が迎えに来るから」


 三人はちょっとだけ別れを惜しんでくれたけど、さすが猫、切り替えが早かった。


「ルカはもっとオシャレに気をつけるべきよ。隣にいるのが銀聖様なら尚更ね」


「そうよ、猫王国の英雄と付き合ってるなんて、びっくりしたわ! そりゃコーセイ様に傾かないはず……」


「シーっ! コーセイ様に聞こえちゃう! ルカ、安心してよね。コーセイ様のことは私達が癒すし、きっと素敵な王妃を見つけるから」


 コノエのことを銀聖様と呼んでいて不思議だったので、なんで知っているのか、どうしてコノエはこんなに有名なのか聞いてみた。


「翡翠戦争で大活躍した月光兵団の中でも、伝説と言われるほど強かったのがコノエ様なのよ。銀聖って呼ばれて味方からは英雄、敵からは死神のようと言われていたの。戦争が終わって褒章を受けた時、この美しい外見で銀聖様は一躍大スターになったの」


 アーリャは話しながらコノエに熱っぽい視線を送っていたが、当の本人はそっぽを向いて全く興味無さそうにしている。そういえばコノエって、サバディアでコノエに好意を寄せていた女の子にもめちゃくちゃ冷たかったわ。


 私はコノエがそんな有名人だなんて露知らず、ただ命の恩人だし、一緒にいるとなんだか安心する、って思ってだくらいだけど。


 こんなに人気者でモテる人に一緒にいてもらえることを、ありがたく思わなきゃダメね。


「いいんだよ、ルカは特別だから」


 私の心の声が聞こえたのかと思うくらい、コノエはほんのり笑って私の頬を撫でた。


 少し離れたところで立っていたコーセイが、咳払いをして私達の注意を集めた。


「ルカ……本当は僕もそばに居たいから、ついて行きたい。でも王は僕しか居ないから」


 本当に悲しそうな顔でコーセイが言った。私は笑って、コーセイの頭を撫でた。背が高いので背伸びしてやっとだけれど。


「コーセイは誰より立派な王になるよ。女神様のお墨付き。色々ありがとう、楽しかった」


 コーセイは最後にと、私のことをぎゅっと抱きしめた。終わってから、私は隣のサフィアにも抱きついた。


「サフィアも色々ありがとう。私の中で一番カッコいい騎士はサフィアだよ」


「それは光栄です」


 サフィアも優しく笑ってくれた。口にはしないけど、サフィアより強くて素敵な猫人と出会えると良いね。


 みんなに別れが済んだので、私はコノエと一緒に手を取り合って歩き出す。


「ルカ、きっとまた会おう!!」


 コーセイの声が背中に届いた。コーセイなりに、私のことを想ってくれたんだなと思うと、心が温かくなる。


 コーセイが、この先、幸せな日々を送れますように。私は目を閉じて祈りを捧げた。





 コノエと二人で、王宮から森を抜けて、モンティグリースの外に出る。


 コーセイは馬車を用意すると言ってくれたけれど、今の私に馬車は必要ない。もっと速い移動手段があるから。


 本当はモンティグリースの街並みも気になったし、街の様子も見たかったけれど、私を待っているウィルのことを考えて、最短でファルカスにある大神殿に向かうことにした。


「……コノエ、本当に良いの? 止めるなら、今だよ」


 人気のない平野で、私は立ち止まってコノエに話しかける。


 私と一緒に来るということは、まず犬王国ファルカスに行くことになるし、大神殿に行けば、命の保証すらない。


 こうして大地を踏みしめたり、言葉を交わしたり、手を繋げるのもこれが最後かもしれない。


 コノエは自分の頭をかいて、静かに私を見た。


「ルカがあの犬人の死んだ騎士のために、この先の道を選んだことも分かってる。あいつが蘇ってルカのそばにいられるなら、俺もいられるはずだ」


「本当に良いの? 」


 コノエは迷いなくうなずく。何度もこうして話すけど、そのたびに、コノエは迷わずついてくることを選ぶ。


 ウィルのために選んだこと、そのせいでコノエを巻き込んでしまうのに。


 私は唇を噛み締めた。コノエがそばにいるって言ってくれたことに、甘え過ぎちゃいけない。


「……ルカ、そんな顔するな。俺の幸せは、ルカと一緒にいることなんだから」


 そんな風に言ってもらえる資格が、私にあるのかな?


 ウィルを助けるのに、コノエを連れて行けば、コノエを苦しめてしまう。


 私は目を閉じて、自分を落ち着かせるために深呼吸した。


「コノエ、やっぱりダメ。あなたまで巻き込むわけにはいかない」


「ルカーー」


 コノエは私の肩を掴んできたけれど、私は自分だけを移転させる魔法を発動する。


「止めろ! ルカ!!」


 コノエの叫び声が耳に残ったまま、私はファルカスの大神殿に転移した。

遅くなりました……!

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