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第八十八話・ヴァイスの成長

 コーセイとサフィアはお葬式のように暗くなって、ほとんど無言で私の部屋を出て行った。


 交代で三姉妹がやって来て、コノエを見てキャーキャー言うので、「うるさい」とコノエがさっさと追い出してしまった。


「コノエ、ずっと気になってたんだけど、ヴァイスはどうしてるの?」


 兄ちゃん! と言っていたヴァイスの明るい声が蘇る。甘えん坊の可愛いヴァイスが、コノエと離れて生きていけるのかしら。


「ヴァイスは独り立ちしたから平気。あいつも自分の力でどこまでやれるか試したいって言って出て行ったんだ」


 コノエは淡々と話してるけれど、じっとコノエの心の中を見てみると、少し誇らしげに思っているのが伝わってきた。弟の成長を嬉しく思ってるんだわ。


「あんなにお兄ちゃんにべったりだったのに……どこでどうしてるかは、分かってるの?」


 私は、コノエがもし本当に私についてくるつもりなら、ヴァイスにその事を伝えて欲しい。二度と会えなくなるかもしれないし、本当にどうなるか分からないから。


「ああ、ちゃんと把握してる。今は北の砦で化物相手に戦ってる毎日だよ。猫王国の辺境伯のところで世話になっている」


「会いに行って、ちゃんと話をしてきて欲しい」


 私は隣に座るコノエの手をぎゅっと両手で包み込んだ。私の気持ちを込めて、強く。


 コノエはふっと笑って、私の手を握り返してきた。


「大丈夫。ヴァイスも大人の猫人になったから、わざわざ会いに行って説明しなくても分かる。行ったら逆に笑われるかもしれないな」


「えっ? そうなの?」


「ああ。そんな軟弱な男は兄じゃない、って言うだろうな」


 えー、そんなの全然想像できないよ。あの甘えん坊のヴァイスはどこに行ってしまったの?


 コノエは私にしか見せない優しい笑顔で私の顔を覗き込み、そのまま額を私の額にこつんと当ててきた。


「ルカ、なんでもできるなら、俺の記憶を見ることは出来ないか?」


 もうすぐキスしそうなくらい顔が近くにある状態で話しかけられて、ドキドキしてしまう。


 私はしどろもどろになりつつ、「たぶん、できる」と答えた。


 コノエはずっと目を閉じてじっとしている。私が記憶を見るのを待ってくれてるんだ。私は触れ合っている額から、コノエと繋がり合うイメージをして、コノエの記憶に触れる。


 ふわっと浮かび上がってきたのは、背が高く痩せ型の猫人だ。白い髪に白い耳、短毛の白い長い尻尾。勝気そうな水色の瞳。


 痩せているけれど筋肉質で、腰に下げたナイフをなれた手つきで抜き放ち、一瞬体を丸めたかと思うと、すごい速さで跳躍した。


 私と同い年くらいに見えるけど……まさか、この猫人がヴァイス? 顔をよく見ようとコノエの記憶にもっと深く触れる。


 私の知ってるヴァイスの面影は、たしかにある。兄ちゃん! と騒いでいたあの可愛い少年の顔つきがしっかり残っている。今はもう少年というより青年だけど。


「こんなに大きくなったの? 離れてからそんなに経ってないのに」


 1年離れていたって、普通こんなには成長しない。そう考えていると、コノエが何故かふっと笑った。


「すごいな、俺にもルカの記憶が流れ込んできた。猫人はニンゲンと違うんだ。成長期になると一気に体が成長する。ヴァイスはたまたま成長期が来たんだ」


 えっ、私の記憶? 私は焦ってコノエから離れた。コノエはうっすらと笑っているので、不快な記憶とかではなさそうだけど。


「ニンゲン達の成長は緩やかなんだな。ルカの思い浮かべたニンゲンの成長速度が見えた」


 私はヴァイスの姿を見ながら、兄妹の成長していく姿を思い出していたらしい。言われて初めて気付いた。


「ヴァイスがすごく大人っぽくなっててびっくりした……」


「ルカに子供を産んでもらうって張り切っていたぞ」


「え!?」


 私は成長したヴァイスを思い出して、体も中身も成長してしまったのかなと恥ずかしくなって口元に手を当てた。


 ヴァイスが私のことをそんな風に思っていたなんて。


 私が動揺していると、コノエは口元に当てていた私の手を掴み、そのまま下に下ろしていく。


「ルカのことは譲れない。誰にも触れさせないーーヴァイスでも、だ」


 コノエの金色と水色の瞳を見ていると不思議な気持ちにさせられる。ドキドキするけど、吸い込まれそうで不思議な心地良さを感じる。


 じっと見つめ合っていると、コノエの感情が流れ込んできた。コノエは、弟に対して嫉妬しているようだ。


 見てはいけなかった、と気付いて慌てて目を逸らす。私にその力があるからって、いつでも誰でも気持ちを盗み見られたら良い気はしないだろう。


「ルカ、こっちを向いて」


 コノエの柔らかい声がして、私はゆっくりと顔を再びコノエに向けた。


「俺が嫉妬するんだってことは、知っておいてくれた方が嬉しい」


 そう言って、両腕でしっかり抱きしめてきた。


 すっぽりとコノエの腕に包まれながら、私は目を閉じる。


 愛されてるんだって実感が湧いてきて、すごく嬉しい。ただ、この先どうなるのか、少し不安……。


 私は女神様の顔を思い浮かべた後、笑顔のウィルを思い出し、複雑すぎる心境に陥って、そっとため息を漏らした。

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