第八十七話・コーセイに伝える真実
朝起きると、隣にコノエがいた。先に起きていたらしく、優しい笑顔を浮かべている。
「おはよう」
照れ隠しに朝の挨拶をすると、「おはよう」とコノエも返してくれつつ、私の額にキスをしてくれた。
あまりに恥ずかしいので、ベッドの反対側から出て、顔を洗おうとボウルの方に向かった。ドレスの下に着ていたシルクのキャミソールで寝ていたので、かなり露出も高めで恥ずかしい。
クローゼットからガウンを出して羽織って、寝起きの顔を水で洗ったら、少し気持ちが落ち着いてきた。
ふと、コノエがいるか不安になって振り返ると、ベッドの上で服を脱いで上半身が裸になっているところだった。
「わあ! ごめんなさい」
裸を見たことを謝って、慌ててそっぽを向く。何かあったわけではないけれど、一緒に朝を迎えるって何だかすごく恥ずかしい。
「ルカ、これからはもう離れない」
声が真後ろからしたので振り返ると、上半身が裸のままのコノエがすぐそばにいた。
恥ずかしくて、とっさに顔を拭いていたタオルで顔を隠す。
その時、部屋の扉がノックされた。
コノエが部屋にいたら驚かれちゃうんじゃないかと思って振り返るけれど、コノエは涼しい顔をしたまま動かない。
「……いいの?」
私がおずおずと聞くと、コノエはうなずいた。
「せめて服は着てね」
細いけれど鍛えられてしなやかな筋肉がついた体は、三姉妹が見たら大喜びしそうな気がする。
私はコノエがシャツを着るのを待ってから、扉を開けた。
「ルカ! 会いたかっ……た?」
私はてっきり三姉妹がいるものと思って開けたんだけど、なんとそこにいたのはコーセイだった。
挨拶しながら部屋に入ってこようとしたが、部屋の中のコノエに気付いて、動きが止まる。
「これは……誰かが協力しているのは分かっていたが……」
コーセイの声は小さくてよく聞き取れない。コーセイはサフィアと共にさっと部屋に入って来て、扉を閉めると、ソファに腰掛けた。
「月光兵団の銀聖……コノエ殿」
コーセイの口からコノエの名前が出たのでびっくりした。月光兵団って、翡翠戦争の時にコノエがいた傭兵団の事だよね、たぶん。
二つ名みたいなものを持っているくらい、有名なのかな? しかも王であるコーセイまで知ってるって、凄い人ってことだよね。
コノエは王であるコーセイをちらりと見たけど、全然気にしていない感じで、私の方がヒヤヒヤする。
「コーセイ、コノエと知り合いなの?」
「ああ、コノエ殿は猫王国の英雄だからね」
えっ、英雄? コノエってそんな感じしないけど……。気になってコノエを見るけど、全然興味なさそうに、水差しからグラスに水を入れて飲んでる。
視線をコーセイの方に戻すと、視界の隅で何故かサフィアがキラキラした瞳でコノエを見ている。あっ、もしかして、自分より強い猫人だからかしら。
「ルカはどうしてコノエ殿と?」
「えーと、ズーアスに来てすぐ助けてくれたのがコノエだったの。それから犬王国に行くまでお世話になったし、猫王国に来てからもずっと助けてくれてたんだよ。私の騎士二人を流してくれたのもコノエだし」
コノエは私を見てこくんとうなずいてくれた。
「なるほどね。それで……なんで朝から一緒に居たの?」
なんか、しつこく聞いてくるなあ。コーセイを見ると、目は伏せてるけど、両手を組んで無表情に尻尾をバシバシ叩きつけてる。苛ついてるみたいだけど、なんでだろ。
私が返答に困って立ち尽くしていると、コノエが隣に来て私のことをぎゅっと抱きしめながら、コーセイの事を冷たく見下ろしている。
「部外者にどうこう言われる筋合いは無い」
部外者って……コノエの言い方もキツい。
「コノエ殿、お言葉ですが、ルカは僕の婚約者なので部外者ではありません」
コーセイが立ち上がってこっちに来て、私の手をぐいと引っ張る。コノエに抱きしめられたままだから、いくら引っ張られても痛いだけなんだけど。
「ふん、婚約者のフリ、だろう。今まではルカを尊重して手出ししなかったが、これからは片時も離れない。そうやって何かにつけてルカに触れるのはやめろ」
コノエがぐいーっと抱きしめた私を引っ張り、コーセイは私の手をぐいーっと引っ張る。
痛いんですけど。手はこれ以上伸びません。
二人とも睨み合って動かない。私は頭を巡らせて、サフィアの方を見た。
サフィア! 見てないで助けて! と視線で訴える。
サフィアはため息をついてからこっちに来て、そっとコーセイの肩を掴んだ。
「失礼致します、コーセイ様。ここはお控え下さい、相手は銀聖様ですから」
「……分かったよ」
コーセイは渋々私から手を離し、サフィアに促されるまま再びソファに落ち着いた。
何故か満足げなコノエも、私から手を離しソファを見て目配せして来たので、コーセイの向かいに座る。
するとべったりと密着してコノエが隣に座って来た。
何なの、この変な空気。私がサフィアを見ると苦笑いしている。
「……僕はルカを引き留めようと思って話をしに来たんだけど」
コーセイはちらちらとコノエを見ながら話し出す。
コノエはというと、ソファに持たれて片手は頰杖をつき、反対の手は私の背中に回している。ついでに足も組んで、なんていうか、偉そう。
「私は、すぐにでも犬王国に発たなきゃいけないの。最初の約束通り、コーセイの地位を揺るぎないものにできたんだから、それで良しとしましょ」
「嫌だ。ルカがいない生活なんて考えられない」
私は話していて頭を抱えたくなった。
「コーセイ。あなたは猫王国の王だから、本当のことを話すね。私は犬王国で暮らすわけじゃ無いの」
「ではどこへ? 女神はルカに何をさせようとしているんだ?」
「それは……」
私はコノエの横顔をちらりと見ながら、意を決して口を開いた。
「私がーーーーになるってことなの。それなら……分かるでしょ?」
コーセイもサフィアも、すごく複雑そうな顔をして私を見ている。私も不安しかないけれど、もうこの道を行くしか選択肢はない。
「それは、最初から決まっていたことなの?」
コーセイは私の目を見ずに悲しそうに呟いた。そんな悲しそうな顔して欲しくない。
「分からない。他の選択肢もあると思うけど、私が選んだことだから」
ーーウィルのために。口にはできなかったけれど、頭の中で呟いた。私がそうしなければウィルに二度と会えないままになってしまうから。
コーセイとサフィアはそれ以外何も言わなかった。
私はコノエを見ると、にこっと穏やかな笑顔で私を見てくれている。肩に回した腕で私をぎゅっと抱きしめて、
「俺はどこまでもついて行く。もう離れない」
って囁いた。
もうすぐ完結です!
ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございます。あと少しだけお付き合いいただければ幸いです。
あんまりハーレムハーレムできなかったなーとか後悔もたくさんありますが、うまく締め括りたいと思います!




