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第八十五話・断罪されるファルザームとマトヴェイ

「覚悟は良いか、ファルザーム公爵及びにマトヴェイ宰相」


 扉を勢いよく開いて、よく通る声で広間中に呼びかけるコーセイ。まるでドラマのワンシーンのようで、私はドキドキしていたし、これから起こることに少しワクワクもしている。


「これはこれはコーセイ王。お早いお戻りで。お元気そうで何よりです」


 ファルザームが芝居がかった口調で返してきた。けれどーー。


「何をやっておるのだ、ファルザーム公爵?」


 驚きと呆れが入り混じった声でコーセイが話しかける。


 ファルザームは赤い絨毯の上で横になりながら侍女にふくらはぎをマッサージされていた。高級そうな刺繍入りのブーツを脱ぎ捨てて。


 その横でマトヴェイ宰相も大きなお腹を投げ出して倒れている。必死に足首を持って、おそらく足を伸ばそうとしているんだろうけど、怖くてできないみたいでピクリとも動かない。


 コーセイは私がこむら返りの呪いをかけたことを知らないから、二人のこの姿を見てかなり訝しげにしてる。私がこっそり耳元で、


「逃げないようにこむら返りがずっと起きるよう魔法をかけておいたの」


 と囁いた。コーセイはぶっ、と吹き出しかけて慌てて口元を手で覆い、必死に笑いを堪えている。


「ファルザーム公爵及びにマトヴェイ宰相、貴様らが行った僕への数々の不敬罪、そして王の暗殺未遂、神殿の破壊、全て証人がいる。その罪を今ここで裁いてやろう」


 広間には他に数十人の猫貴族達がいて、中には私が一夜漬けして覚えて挨拶した猫人もいた。あ、家庭教師に言ったのに結局バタバタして会えなかったメルロー子爵もいる。


「ふっ、バカな王だ。我々がそのような罪を犯したとどう立証するのだ。証人なんぞいくらでも仕立て上げられるだろう。貴様のような若輩者の言うことは信用できん」


 絨毯の上で足をさすられながらなのに、すごく偉そうなファルザーム。私はこほん、と咳払いをした。


「笑いが止まらないと困るので、そろそろお二人に立ってもらいましょうか。はい、どうぞ」


 私はこむら返りの呪いを解いた。二人ともハァーとため息をつき、足を指先まで伸ばしてから、恐る恐る立ち上がる。これまたおかしくて笑いを堪えるのがしんどい。


「ニンゲン! 貴様の呪いだったのか!!」


 マトヴェイが顔を真っ赤にして私を睨んできた。と、私の背後にキザリハがいるのを見て、理解不能という顔をしている。


「私はこの世界の唯一の神である女神ファトゥム様の遣いです。だから私は嘘は言わないし、誰かを陥れたり、傷つけようとすることは絶対にしません」


 私は、自分がこんな声を出せるんだってびっくりするくらい、堂々と話し出す。


「ファルザーム公爵、マトヴェイ宰相。あなた方は、ズーアスを平和に導こうとするコーセイ王の失脚を狙い、暗殺を試み、私のことも消そうとしましたね。ですが、この世界の住人が束になってかかってきても、私を消すことは不可能です」


 私は話しながら、掌を上に向けて差し出し、そこに炎を作り出した。ボン! と大きな音を立てて炎が弾け、ファルザームもマトヴェイもビクッと体を硬らせた。


「この猫王国はコーセイ王が守り導くべきです。あなた方のような邪な考えを持つ猫人は、力を持ってはいけません。全ての財産、地位、権力を剥奪し、二人には神殿の再建のため働いてもらいます」


「小娘が……何を勝手な事をほざきおる……!!」


 ファルザームは懐から銀色に輝くナイフを取り出し、私に向かって走って来た。


 私は掌をファルザームに向け、止まれと念じる。ピタリと動けなくなったファルザームの手から、ナイフを落とさせ、落ちたナイフを私の手元に引き寄せた。


「こんなもので私を傷つけることはできません」


 私の手の中で、ナイフがサラサラと粉になって消えて行く。隣にいるコーセイは、おぉーと声を上げて楽しそうに拍手している。マジックショー気分だよね。


「クソッ! このガキよりずっと、猫王国のため働いて来たこの私と宰相だぞ!? 許せん、断じて許せん」


「そうだ! ファルザーム公爵閣下の方が王に相応しい!」


 マトヴェイまで元気になって騒いできた。


「黙りなさい! 誰が王に相応しいか決めるのは女神と私です。ファルザーム、あなたのような争いを好む者に国を任せることはできません。マトヴェイ、あなたのような、身内を騙してこき使うような卑怯な者は、人の上に立つ資格はありません!」


 私はぴしゃりと言い放った。

 すっかり女神様みたいに偉そうに話すのが板について来てしまった。


 まだ納得がいかない様子の二人だけど、コーセイが私の方に手を置いて、僕に任せてと言ってきた。


「二人には、先代の王の時世には大変な苦労をかけたとは思う。女神不在の不安定な情勢で、戦争が起き、その指揮も政策も全て二人が執り行ってきたと言っても過言ではないだろうね。そのおかげで、たくさんの猫人が死に、代わりに得たのはわずかばかりの犬人奴隷だけ」


 ぞくっとするような鋭くて冷たい目つきで、コーセイはファルザームとマトヴェイを見ている。マトヴェイがゴクリと生唾を飲む音が聞こえてきた。


 私の後ろで洋服の裾を掴んでいるキザリハもやたらと震えてる。可哀想なのでポンポンしてあげた。


 コーセイの耳はぴんと立ち、まっすぐ前を向いている。尻尾は少し膨らみながら立っていた。


「お前達がその失態を取り返そうと、再び戦争を起こそうと躍起になっているのはよく知っている。なんと愚かなことか。ここに女神の遣いルカがいる以上、万に一つも戦争が起こることなどあり得ない! 悪あがきはやめて、いい加減諦めろ。今まで好き放題してきたのだから、今後は責任を取るべきだ」


 コーセイの言葉にファルザームは毛を逆立てて顔を真っ赤にして叫んだ。


「愚か者がーー!! 私の偉大さを理解できぬ愚かで無知なメインクーンも、女神の力を与えられただけの高慢な小娘も、許せん!! 私を認めぬ者は誰一人として許せん!!」


 どんなに正論で追い詰めても、力を見せつけても、こんな風にずっと悪足掻きする人って本当にいるんだね。


 私は怒りを通り越して哀れになってきた。こんな性格じゃあ、まともな人生送れないだろうな。17年しか生きてない私でもそれくらい分かるのに、このおじさんは自分の悪い性格をそのままにして生きてきちゃったんだ。


 ファルザームがまた武器を手に暴れそうな怪しい雰囲気なので、私は諦めて掌を彼に向けた。


「魔法を使えば精神を破壊したり、改心させることもできるんだけど、それはもうしないって決めたの。理由は、ほらーーキザリハを見れば分かるでしょ?」


 私は震えてしがみついているキザリハを、ファルザームとマトヴェイに見えるように体を動かした。キザリハは顔を隠してマトヴェイの方を見ないようにしている。


「ごめんね、怖かったね。もうあのおじさんは何の力もないただの土方のおじさんになるから安心してね」


 私がキザリハに優しい声をかけているのを見て、マトヴェイは信じられんと呟く。


「キザリハ! 何をやっておる?! 儂を守るためにその女を殺せ! くそっ、魔法で頭がおかしくなったのか」


「えーーん、嫌だ! おじさん怖いから大嫌いだよ。約束守ってくれたこともない。嫌だ、ルカ様、ぼくのこと守ってください!」


 キザリハは泣き声を上げ、呆然とするマトヴェイを見もせず、私の胸に飛び込んできた。


 別人に成り果てた……と思われるだろうけど、キザリハの生い立ちを知っている私から見たら、本当のキザリハの姿がこれなんだと思う。ちょっと幼児退行してるっぽいけど。


「さぁ、断罪が随分長引いてしまったが、もう終わりにしよう。騎士達よ! 二人を連行しろ」


 コーセイの掛け声と共に、サフィアを先頭に騎士達がぞろぞろ入ってきて、ファルザームとマトヴェイを捕まえる。


 貴族達は遠巻きに見ているが、みんな、どこかホッとしているようだ。


「これで終わったと思うなよ! コーセイ! 必ず貴様を殺して王になってやーーぐは!!」


「うるさいので黙らせますね」


 サフィアがファルザームのお腹に強烈なパンチを食らわせて、黙らせている。顔はいつものようにクールビューティだけど、内心、うふふ、と楽しそうに笑っているのが見えて、私もクスッとしてしまった。


 マトヴェイはすごすごと大人しく連れられて行った。キザリハがあんな風にされたら、儂とて……と考えて怯え切ってる。


 すっかり静かになった大広間で、コーセイは両手を広げてぐるりと一回転した。


「今日からやっと、コーセイ王としての一歩を踏み出すことができる。貴族達、より自由で気ままに生きられる、陽だまりのような猫王国を共に作り上げようぞ」


 貴族達は声援と拍手を送ってコーセイを支持した。私はその騒ぎの中こっそりと大広間を抜け出し、自室に向かった。

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