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第七十九話・キザリハ再び

 コーセイと湖に寄って、さんざん水遊びを楽しみ、連れてきた従者達が作ってくれた豪華なバーベキューを楽しみ、のんびりしながら神殿の近くの村に向かった。


 正午過ぎになって、ハリーから、


(二人とモ、助けタ。馬に乗って逃げタ。コノエ、頑張っタ)


 と念話が飛んできて、私は心の底から安堵した。ハリーはまだマトヴェイの兵士達を相手にしているらしく、それ以上は何も伝えて来なかった。


 これで魔法も使える。何が起きても対処できるはず。私の顔色を見てなのか、コーセイがニヤッと笑いかけてきた。


「その様子だと、君の騎士達は無事逃げおおせたようだね」


「うん、ハリーが伝えてくれた。ありがとう、コーセイ。もう大丈夫よ」


 二人に何かあったらと死ぬほど悩んだけれど、コノエのお陰で救われた。二人の命もだし、私自身が救われた。コノエは怪我してないかな、大丈夫かな。早く戻ってお礼を言いたい。


 ウィルとルーカスにも会いたい。きっと衰弱したり怪我もしてるかも。会えるなら私の魔法で治してあげたい。マトヴェイとファルザームの事を片付ければ、二人に安心して会えるし、きっとそれは数日中に叶うはず。


 ウィルとルーカスは多分バルトーの街に向かうはずだ。猫王国から最寄りの犬王国の街だし、ついこないだ怪我人の治療に行って顔を知られているから、二人のことを助けてくれるだろう。


「また考え事? これで不安も取り除かれたわけだし、せっかくだから楽しもうよ」


 コーセイは色々考えていた私の隣にぐいっと腰を下ろして、私の腰を抱いて頭を持たれかけてきた。この旅に出てからとにかくスキンシップが多い。それどころじゃないから気にしなかったけど、今なら分かる。これはセクハラだ。


「まだ襲撃の危険が残ってるよ! 私が魔法を使えるからって油断しちゃダメ」


「分かってるよ。護衛に近衛騎士団を丸ごと連れて来てるし、襲撃の可能性も把握してるから大丈夫。斥候を出して敵が潜んでないかも調べながら進んでるから」


 さすがコーセイ。私の魔法を頼りにするのではなく、自分の力できちんと対処しようとしてる。聡明な彼のことだから、私が頼れない状況を想定して準備を整えたのかもしれない。


 私は丁寧にコーセイの手を腰から引き剥がし、窓の外を見た。もうかなり暗くなってきてる。


 懲りないコーセイが、今度は私の耳元に唇を近付けて、というより私の耳に唇を当てて、囁いた。


「もう村に着くよ。宿も無いような小さな村だからね、騎士団にテントを張らせてそこで休もう。神殿は明日見に行こうね」


 私はコーセイの顔を押し除けて、赤くなった顔を伏せて隠しながら座り直した。


「村の名前はなんていうの?」


「ディシュ村だよ。ほら、見てごらん。村の入り口が見えてきた」


 コーセイが窓を指し示して教えてくれた。大きな篝火が焚かれているのが見える。奥の方にも点々と炎が見える。薄ぼんやりと平家の建物も見えてきた。


 サフィア達騎士に先導されながら村の中に入っていく。村と言っても囲われた中に家々があるのではなく、ぽつんぽつんと平家の建物が点在しているようだ。


 馬車が止まり、扉がノックされる。


「コーセイ様、着きました」


 サフィアの声だ。コーセイが扉を開けるとサフィアがいた。コーセイが馬車を降りたので私も降りようとしたら、コーセイが手を出して待っていてくれたので、その手につかまって降りることにした。


 村の中の開けた平地に、馬車や馬を止めているようだ。馬屋みたいなものは見当たらないが、たぶん井戸や馬を繋ぐ場所は近くにあるのだろう。騎士達も続々と馬から降りて、テント設営の準備を始めている。


「村長からコーセイ様にご挨拶したいとのことです。通常でしたらテントができてからお呼びするのですが、ただならぬ様子で……」


 サフィアが口ごもり、私は違和感を覚えた。見れば少し離れた場所に、その村長らしき猫人が立っている。小柄で丸い顔の猫人で、白い髪にの真ん中だけ縞模様の髪が生えていた。歳は暗くてよく分からないけど、皺が沢山あるのは見える。


 村長はコーセイと私を見て深々とお辞儀をしてから、着いてくるようにと手で示して、歩き出す。近くの木造の平家の建物の中に入って行った。


「無礼をお許し下さい、陛下」


 村長は家の中で青ざめた顔で立っていた。コーセイの後ろから家の中に入った私は、村長の表情を見てただならない気配を感じた。


「……脅されているのか?」


 コーセイが低い声で村長に話しかけた。その直後、外から大きな叫び声がして、金属がぶつかり合う音、怒号、風を切る弓の音、悲鳴が聞こえてきた。


「コーセイ様!」


 サフィアがコーセイの前に立ちはだかる。次の瞬間、家の中に隠れていた猫人の刺客達が姿を現した。その数五人。村長は震えながら小さくなって隅に隠れてしまった。


 まさか、村の中で襲撃するなんて! 村中に刺客を潜ませていたって事よね? 相手の人数がすごい数だったらどうしよう。


「王、お下がり下さい。すぐに始末致します」


 サフィアは落ち着いているように見えた。腰の細剣を抜いたと思ったら、反対の手には短剣を持っている。二刀流なのね。


「何が始末だ。皆殺しにして王の首を取れ」


 刺客達をよく見ると、見覚えがある。思わず私は声を上げた。


「キザリハの傭兵団の!!」


 刺客こと傭兵達が、声を上げた私を見て一瞬たじろいだ。きっとキザリハが私にやられて大怪我したのを知ってるんだわ。捕まってる時は無力だったけど、今は違う。魔法使い放題だしね。


「コーセイ様、ルカ様。この程度の数でしたら私一人で充分です」


 サフィアが男前だ。めちゃくちゃ美人の猫人女性だけど、言ってる事が男前。剣の腕も相当なものらしい。コーセイはうなずいて落ち着いている。


 とはいえ狭い平屋でこの人数で剣を抜いての戦闘なんて危ない。私はコーセイ、サフィア、私の3人に、怪我予防の防御結界を張ることにした。


「コーセイ、魔法で怪我を予防したから大丈夫よ。サフィアも、安心して戦ってね。私たちは外の様子を見に行くわ」


 私はコーセイの手を取って、家の外に出た。一緒に来た騎士達が無事かどうか確かめたかったのと、もし不利な戦いをしているなら魔法で加勢しなければと思ったのだ。


 夜闇の中、戦闘が続いていた。私は魔法で夜目が効くようにした。猫人は元々夜目が効くらしいから、私もそうしないと危ない。


 やっぱりキザリハの傭兵団達だ。見覚えのある顔が何人もいる。騎士達と剣を交えて戦っているけれど、実は高台の上や色んな方向から弓での攻撃もあり、弓兵をなんとかしないと全滅してしまいそうだ。


「コーセイ、あちこちに弓兵がいてあれをなんとかしないとーー」


「待ち侘びたぞ、ニンゲン!」


 なんと、思い出したくも無いのに覚えてしまった、あの耳障りな甲高い声が響き渡った。


 少し離れた高台の上に、数人の弓を持った傭兵を引き連れて立っているのは、キザリハだ。


 自分だけ華やかな服に鎧を付けているが、頭にはまだ包帯が巻かれている。私がやった怪我だよね、たぶん。


「貴様のせいで俺がどんなに痛い思いをしたと思っておるのだ。死をもって償わせてやる」


 キザリハの瞳はギラギラと光っていて、私への恨み辛みが相当溜まっているのがよく分かる。よーく見たら杖も付いてるみたい。まだ怪我から回復してないのにマトヴェイにこき使われたのかな、かわいそうに。


「私の魔法であんな目に遭ったのに、懲りずにまた挑んでくるなんて、すごいね!」


 私は口元に手を当てて大声で叫んであげた。だが、キザリハは怒らずにニヤニヤしている。この展開は、またしても嫌な予感しかない。


 キザリハは背後の部下から子供を受け取り、その小さな喉にナイフを当てて、それを私に見せつけてきた。


「この子供の命が惜しければ、魔法は使わない事だ。もし魔法を少しでも使えば、即座にこの喉を掻き切るぞ」


「……村の人を人質にしているのか。ルカ、あんな脅しに従う事はない。僕と君の命は何よりも重たいのだから」


 コーセイが小声で私に何か言ってきたけれど、私はただ震えて泣いている子供に釘付けになっていた。


 私を殺すために子供を人質にするなんて、許せない。子供があんなに震えて怯えて切っているのに罪悪感も無いキザリハ。それに傭兵達。


 それからコーセイ。子供の命より私たちの命の方が重い? そんな言葉を彼の口から聞きたくはなかった。


 怒りで体が震えた。

私はキザリハは意外と好きです。ボツになりましたが、キザリハがルカにメロメロになる話も考えていました。

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