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第七十五話・コーセイの快諾

 昨夜、コノエはこっそりと訪ねてきて、ウィルとルーカスの事は任せろと言ってくれた。


 私とコーセイ王が出掛けている時の方が、二人を救出するチャンスがあると言ってくれたので、一刻も早くコーセイを説得して神殿へ向かう必要がある。


「少しでも早くコーセイに会いたい」と言ったら、アーリャとソーニャはニヤニヤしながら私の身支度を整えてくれた。助かったけど、二人とも何か勘違いしてそう。


 今日はコーセイの瞳の色と同じ、金色の刺繍が施されたドレスを着せられた。水色の艶やかな生地に、バラを象った金色の刺繍がすごくゴージャスだ。正直、黒い髪に黒い目の私には似合わないんじゃないかと思ったけれど、着る物を用意してもらえるだけでもありがたいと思わなくちゃ。


 ドレスは相変わらずミニ丈で、これだけどうにかならないのかなって頭を悩ませてしまう。丈が長いロングドレスは、夕方以降に着るのがマナーだそう。だからって夕方にまた着替えるのはバカバカしいので、毎回着替えは丁重にお断りしている。


「さぁ、できたわよ。ルカの髪って艶のある黒髪でとっても綺麗ね。私たちの髪はもっと柔らかいから、珍しくて綺麗」


 ソーニャが私のヘアセットを終えて褒めてくれた。今日はハーフアップにして、水色のバラの花が髪飾りとしてついている。私は平凡な黒髪なのに、褒めてもらえるのは正直嬉しい。


「じゃあ、コーセイのところに行って来るね」


 私が立ち上がると、アーリャが先に立って案内してくれる。コーセイのいる場所が王宮内でも色々だから、その都度侍女の誰かかサフィアが連れて行ってくれるのだ。私が女だからか、侍女かサフィアがいつも案内してくれて、王宮にいる兵士たちとはあまり関わりがない。


「今日は北の塔にいらっしゃるわよ」


 アーリャが歩きながら教えてくれた。王宮内ですれ違う猫人達は、ほとんどが私を見ると軽く会釈してくれる。ただ、中には会釈せず睨んでくる猫人もいて、どうもファルザーム侯爵やマトヴェイ宰相の部下がそういう態度を取っているらしい。


「王の婚約者に挨拶もできないなんて、ろくでもない奴ら。バカの下にはバカしかいないのよ」


 アーリャが小さく呟いたのが、私の耳にも聞こえて来た。


「アーリャ、そんな事言っていいの?」


 アーリャたち三姉妹はマトヴェイやファルザームと繋がりがあったはずだ。私の行動を見張って逐一報告しているはずだし、マトヴェイも侍女を使って私に指示を出すって言ってたのは、三姉妹のことだと思うんだけど。


「ほら、あそこの部屋にいるわ」


 私の質問には答えないで、階段の先にある扉をアーリャが指し示す。答えたくないんだろうな、と思い、私もそれ以上聞くのはやめた。


 扉をノックすると、目の前にコーセイがいた。いつもは扉の開け閉めなどはサフィアか侍従がやっているので、かなりびっくりした。


「待ってたよ、ルカ。さぁ、中に入って」


 コーセイが私の肩を抱いて部屋の中に招き入れる。部屋の中央に来たところで、コーセイは私のことをギュッと抱き締めて来た。


「ちょっと、コーセイ……」


「離さないよ。マトヴェイに何かされるんじゃないかって、すごく心配したんだから」


 コーセイの大きな体に包まれて、私はほっとして息を吐いた。心配^_^してくれてたのは素直に嬉しい。マトヴェイにウィルとルーカスを捕らえている事を聞いた後、平常心ではいられなくなり、コーセイには会わなかったのだ。夕食の誘いを断り、無事だと伝えて欲しいとサフィアに言って、そのまま部屋に篭っていたから。


「ごめんね。その事で話があるんだけど」


 私はコーセイの背中をぽんぽんと叩いてから、そっと彼を押し戻して離れた。

 名残惜しそうにしながら、コーセイは離れて椅子に腰掛ける。私も座るように手をあげて示してくれたので、向かいの椅子に腰掛けた。


 コーセイは少し元気がないように見えた。目が重たそうに半開きになっているし、耳も尻尾もだらんとしている。


「まず、マトヴェイと何を話したのか聞かせてよ」


 コーセイに聞かれて、私は唇を噛んだ。ウィルとルーカスの話は彼には出すべきじゃない。コーセイにとっての二人の命の重さが分からないからだ。私がどんなに二人を絶対助けたい、と言っても、コーセイは自分が不利になる可能性があれば二人のことを簡単に切り捨てるだろう。


「……コーセイは、私のことを信用してくれる?」


 私の言葉に、コーセイはじっと私の目を見ている。私も真っ直ぐに彼の金色の目を見返した。


「ルカのことは、信じているよ。僕を罠に掛けたり、裏切ったりするような事は絶対にしないって」


 私はその言葉を聞いてすぐ、真っ直ぐにうなずいた。コーセイの言う通り、そんな事は絶対にしない自信がある。ただ、マトヴェイの要求通りに動くしかない、それが結果的にコーセイを罠に掛けるような事になるかもしれないけれどーーその時は私の命をかけてでもコーセイを守ろう、と思う。


「あのね、各地の神殿を周るの、私とコーセイで行かない?」


「ああ、別に良いよ」


 思っていた以上に、あっさりとコーセイが承諾してくれた。

 私は拍子抜けして、目を見開いてコーセイを見る。コーセイはにこりと笑ってくれた。


「婚前旅行にしようか。本当は新婚旅行にしたかったけどね!」


 いつもの掴み所のない態度で、コーセイは笑いながら言ってくれた。私の方が動揺しているくらい。


「コーセイがここを留守にして大丈夫なの? ファルザームとマトヴェイが何かするんじゃ……」


「そこはサフィアに任せる。サフィアの父、アルテスター侯爵は絶対に僕の味方だから。それに、ルカが婚約発表の時に頑張ってくれたお陰で、挨拶を交わした貴族の多くが王派、つまり僕を支持しようと動き始めているからね」


「それなら良かった……」


 ほっとして全身の力が抜けた。


「それじゃあ、準備に取り掛からなきゃね、サフィア! 旅の支度を頼む」


「少しでも早く出ることってできるかな?」


 おずおずと聞くと、コーセイはニヤッと笑って、


「そんなに僕と旅に出たいの? 嬉しいな。急げば、一番近い神殿なら半日でいけるよ。馬を飛ばせば」


「その距離なら日帰りか、一泊くらいかな?」


 私が必死に出掛けたがっていることに気付いているはずなのに、コーセイはにこりとして穏やかで。


「うん。テントで一泊になるけど、平気かな?」

 

 私は一生懸命うなずいた。


「じゃあ、明日行こう!」


「えっ、そんな早く良いの?」


「だって、ルカが少しでも早くって顔してるから」


 コーセイの言う通りだ。とにかく少しでも早くコーセイと神殿に向かって、その間にウィルとルーカスを救出してもらわなきゃ。そう思う気持ちが全面に出ていた。


 あの計算高くて狡猾なコーセイが、こんなにすんなり私の提案に乗ってきて、しかも話を合わせてくれるなんて。私の様子から、マトヴェイと何かあったのは分かってるだろうに。


「ありがとう、本当に」


 私は頭を下げた。これで、ウィルとルーカスが助かる。私は死ぬ気でコーセイを守らなきゃ。

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