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第七十話・婚約発表が終わって一息

「無事、婚約発表が終わって嬉しく思う。ルカの振る舞い、素晴らしかったよ」


 私はコーセイと一緒に軽食を食べながら、婚約発表の反省会をしていた。


 隣ではサフィアが私にお茶を注いでくれながら、少し微笑んで、


「本当に、ルカ様の記憶力と集中力、素晴らしかったです」

と褒めてくれた。


 コーセイに褒められるより嬉しいな。サフィアはいつも落ち着いていて、すごく綺麗で、王の近衛騎士というからには相当強いんだろう。天は二物を与えたんだわ、と一人で納得してしまう。


「ちょっと、ルカ。サフィアばっかり見てないで僕を見て!」


 どうやらちょっと焼きもちを妬いているコーセイが、大騒ぎしている。はいはい、と言って見てあげることにした。黒地に金の華やかな刺繍と飾り紐がついた立襟の礼服に、紺色のマントを肩から掛けている。マントにも刺繍と宝飾が付いていて、すごく華やかでカッコ良い。


 今までは無造作に流していた、銀色に所々黒縞が入っている髪も、今日はしっかりとセットされていた。見た目が大人っぽいぶん、こうしてキッチリおしゃれしているところを見ると、すごく格好良く見える。


「コーセイは中身は子供なのにねー。外見だけ取り繕っててもなぁ」


「素直に、今日の僕がカッコ良すぎて惚れそう、って言って良いんだよ?」


「それより、マトヴェイの言葉が気がかりで……」


 先ほどマトヴェイに言われた、薄情、という言葉が頭から離れない。私の行動の何かを指して言ったんだと思うけど。キザリハを攻撃したのは正当防衛だし、もし非難されるとしても「薄情」って言葉は当てはまらないと思うんだよね。


「そんなに気になるなら、マトヴェイを呼び出して白状させたら?」


 どこか投げやりにコーセイが言ってくる。私の魔法を持ってすればそれも出来なくは無いと思うけど、今までコーセイがマトヴェイと敵対しながらも手出し出来なかったのに、私が首を突っ込んで良いのだろうか。


「魔法を使えばできるけど、いいの? 遠慮せずやっちゃうよ?」


「今までは僕が強く出てもファルザームの力で揉み消されていたけれど、ルカなら女神の力も名もあるからね。僕はルカのやりたい事を止めるような真似はしないよ」


 そっか、私のことを尊重してくれるんだ。やり方や接し方は違えど、ガウディ王も私のことを尊重してくれていた。この世界の二人の王がどちらも他者を尊重できることは素晴しいと思う。


 私はちょっと考え込む。コーセイは向いの席でサンドイッチを食べている。飲み物はワインだ。私より若いのに飲酒なんて、と思うけど、もう体は大人だから関係ないのかなあ。


 マトヴェイを捕まえて問い質せば、あの発言の意味がわかるだろうか。このまま悶々と一人で悩むのは嫌だ。もしかしたらマトヴェイの狙いはそれなのかもしれないけど。狙い通りになんてなりたくもない!


「決めた! マトヴェイを問いただしてみる」


 私が意気込んでいると、コーセイは少し困った顔をして、


「もしかしからルカをまた傷つけようとしてくるかもしれないから、気をつけるんだよ。サフィアを一緒に行かせよう」


「それはダメ。コーセイを守る人がいなくなっちゃうもん。私なら大丈夫だよ。もし心配なら……」


 私はちょっと考えてから、笑いながらコーセイにお願いした。


「ぬいぐるみをもらえる?」


 は? とコーセイに聞き返されたので、「だから、ぬいぐるみだってば」と言い返す。このタイミングで何を言ってるんだ、と思われるのは重々承知している。


「サフィア……侍女に頼んで何かぬいぐるみを用意させて。ーーそれで、ぬいぐるみでも持ってマトヴェイとやり合いに行くつもりなの?」


 呆れ顔のコーセイ。そりゃ、ヒルデとベークのこと知らなかったら、こんあ反応にもなる、かな? きっとコーセイのことだから、ぬいぐるみが動くようになったらびっくりするだろうな。そう思うとだんだんワクワクしてきて、その時までコーセイには秘密にして驚かせようと思い始めた。


「さて、ぬいぐるみが届くまでに、ドレスを着替えて来るね」


 椅子からさっと立ち上がると、いきなりコーセイが手を伸ばして私の手に触れてきた。


「何? どうしたの?」


 私がコーセイの手を見て、それから顔を見て聞くと、なんだかムッとしているように見える。耳は少し外向きになっていて、尻尾は……覗き込むと、バタバタと大きく揺れて床を叩いていた。


「せっかくの白いドレスをもう脱いでしまうの?」


 上目遣いに、子供のように甘えた声で聞いてきた。私はちょっと困りながら、コーセイの手を掴んで私の手から引き剥がした。そんな可愛い顔したって、ダメなんだからね。


「だってマトヴェイを問いただしに行くのに、このドレス着て行ったら動きづらいもん。万が一、こないだみたいに襲われたら、ドレスじゃない方が動きやすいし」


「そりゃそうだけど……じゃあ、髪は僕がほどいてあげるよ」


 そう言ってコーセイは立ち上がり、私のところに来て、私を鏡台の前に座らせた。私とコーセイの姿が鏡に映って、見ていると、コーセイは嬉しそうに私の髪を撫で始めた。


「王様に髪をほどいてもらうなんて、恐れ多いんだけど」


「大切な婚約者にしか、こんなことしないよ」


 コーセイは器用に私の髪に留められたピンや宝石のついたクリップを外していく。私の髪はコシのあるストレートなので、解かれると同時に髪は流れるように下に落ちた。


 コーセイは私の髪を掌で掬い上げると、自分の口元に持って行って髪にキスをした。

 恥ずかしさがピークになって、私は自分の手で髪をまとめると、慌てて立ち上がった。


「ありがとう! じゃあ、着替えて来るね」


 コーセイは何故か口が少し開いたままになっている。ちょっと間抜けな表情で固まっているので、私は、あれ? と思って彼の顔をよく見た。


 あ、これもしかしてフレーメン反応……? 猫がフェロモンや特定の匂いに反応して口が半開きになるやつだ。まさか私の髪の匂いでなってるのかな。


 問いただすのも恥ずかしいので、固まっているコーセイに手を振り、そのまま早足で部屋を出た。部屋の外ではアーリャが待っていた。


「見たわよ、仲睦まじい事で!」


 私の髪をコーセイがほどくところを見ていたらしい。部屋の外にいたはずなのになんで……と思ったけど、この明るく自由で活発な猫人のことだから、退屈しのぎに部屋をのぞいていたのかも。


 私は顔が熱くなるのを感じながら、早足で自室に向かった。


「とりあえず、用事があるからドレスから動きやすい服に着替えたいんだけど、服を準備してもらえる?」


「もちろん!」


 元気な返事と一緒に、足音も立てずにすごい速さでアーリャは私を追い抜いて行った。しずしずと後ろから付いて来ていたのに飽きたのかな。本来の猫人の足の速さは本当にすごい。


 遠ざかっていくアーリャの背中を見ながら、マトヴェイをどう問いただそうかぼんやりと考えていた。

楽しく読んでいただけるよう、後書きを書く回数を減らしております。

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