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第六十七話・婚約発表準備

 その日の朝、私は改めて三姉妹から自己紹介を受けた。


 三姉妹は王都に住む男爵の娘で、実際三姉妹だそうだ。ただし、それぞれの母親は違う猫人らしい。前にヴァイスから聞いた話の通り、基本的に猫人は子作りをして、出産、子育てをカップルでした後に、別れてまた自由に恋愛を楽しむらしい。


 ごく稀に、ずっと同じカップルで過ごす猫人や、政略結婚によって夫婦になる者もいるが、その場合は愛人を作って複数の恋愛を楽しむ者も少なくないそうで……恋多き種属なのかな、猫人って。


 長女のアーリャは茶色い髪に白い耳、次女のソーニャは茶色い虎模様の髪と耳、三女のターニャはほとんど白髪に茶色の斑がほんの少し。みんな父親である男爵の茶色が入っているらしい。


「そういうわけで、私たちがルカの専属侍女になったから、よろしくね」


 アーリャが気さくに、というか馴れ馴れしいくらいに話しかけてくる。コーセイの前だと敬語で様付で呼ぶのに、誰もいないとこんな感じ。


「私たちは身分の高い方の侍女になるために王宮に勤めているんだけど、やーっとコーセイ様のお相手が見つかって良かったわ」


「ねー、そろそろ最初の妻を娶らなきゃいけない時期だからみんなで心配してたのよね。コーセイ様ってモテるけど誰にも気を許さないから」


 そりゃ、あなた達も含めて、本当に信頼できる女性が周りに居ないんでしょう……サフィアだけは大丈夫って言ってたけど、彼女は恋愛対処ではないみたい。


 この三姉妹はファルザーム公爵の息がかかっているらしく、情報が筒抜けになるので気を付けて欲しいとコーセイに言われている。


スパイというほどのものではなく、三姉妹が王宮に勤めるのに口利きをしたり、父親である男爵の後ろ盾になっているのがファルザームなのだそうだ。


 コーセイが王になる以前からマトヴェイとファルザームは猫王国の重鎮だったため、コーセイより支持者が多いのは仕方のないことらしい。


 知れば知るほどコーセイの置かれている状況が過酷なものだと分かって来て、彼が王として正しい行いをするのなら出来る限り力になってあげたいと思ってる自分がいる。


「それで、今日の貴族集会で婚約を発表するのよね?」


 アーリャが私の髪をセットしながら鏡越しに聞いてくる。私の黒い髪を編んでからアップにして、宝石のついたヘアアクセサリーを付けている。


「そうみたい。急な話で何がなんだか……でも、コーセイとの出会いは運命だと思うから、たぶんね、だから早く発表してもらえて嬉しいの」


 嘘をつくのは苦手。運命とか言っちゃう自分に引きながら、うふふ、と嘘っぽく笑っておいた。


「素敵だわ。女神の事を信じないって猫人も増えてきてる中で、女神の遣いであるルカとコーセイ様が婚約されるなんて、これぞ神の思し召しって感じよね」


「まぁ、面白くない奴らもいるでしょうけど」


 ターニャの最後の呟きが、かなり暗い声に聞こえたので、私はそっと鏡越しにターニャを見た。彼女はちょうど私のために靴を準備しているところで、キラキラのミュールを足台の上に置いていた。その横顔はなぜかひどく暗くて真剣そうで。


「ターニャ? 大丈夫?」


 思わず名前を呼んで声をかけたら、ターニャはハッとして私を見て、慌てるように笑って見せた。


「大丈夫よ。ルカをしっかり美しく仕立てて、みんなにしっかり印象付けなくちゃと思って」


 そう言ってまた作業に戻って行く。

 ターニャが言ってた面白くない奴らって、自分たちの雇主であるファルザーム公爵の事だよね。


 もしかしたら、ファルザームのことをよく思って無いのかな。でも何の確信も無い今、その事を聞くべきじゃ無いということくらいは私でも分かった。


「今日のドレスはこれ! すごく素敵でしょ」


 ソーニャが持ってきたのは白いベアトップのドレスで、刺繍と小さなパールが縫い付けられ、近くで見ると本当に細かい仕事で作られた物なのが分かる。


 丈は前側はミニだけど、後ろに行くに従って長くなっている。テールカットって呼ばれているタイプのドレスだ。足がよく見えるんだよね……猫人は足を見せるのが好きなのかしら。


「白いからウエディングドレスみたい」


 私が呟くと、三人は首を傾げてから、「もしかして結婚式専用の白仕立てのことじゃない?」と話し合っている。横文字だと伝わらないことがあるんだよね。こっちの世界では白仕立てって言うらしい。


「婚約発表だから白にしたのよ! ルカの言ってるウエディングドレス? と同じ意味ね」


 そっか、私は十七歳にしてウエディングドレスもどきを着るのか……嬉しいより複雑な心境になった。でも三姉妹は嬉しそうで、この刺繍が綺麗、パールの数がすごい、とドレスを見て騒いでいる。


「ルカ! このドレスはねぇ、今日のために職人が徹夜で仕上げたらしいわよ。コーセイ様が無理を言ったんだって。今まで誰に対しても無理な要求をされなかったコーセイ様が、なんとしてでも、って言ったらしいの。それって愛よね」


「そ、そうだね……もし会えるなら、後でその職人さんにお礼とお詫びを言いたいわ」


「そんなことより! 今は、ドレス着ましょ!」


 職人さんのことはどうでもいいらしい。私としては今すぐにでもお詫びとお礼を伝えたいところだけれど、それじゃあ婚約発表に遅刻しちゃうもんね。

 心のどこかで、遅刻したい、むしろ行きたくない、という感情も芽生えてきていて、これがマリッジブルー? とか訳わからないことを思ったりする。


 ドレス用の下着はコルセットになっていて、アーリャにギュッと締め付けられた。

 ストッキングやタイツといった類のものは存在しないらしく、ドレスの下は生足のみ。代わりにこれでもかとオイルを塗られるのでそれでテカテカしてる感じはある。


 ドレスを着ると、自分が十七歳という年齢よりずっと大人びて見えた。


 それがドレスのせいなのか、この世界に来て色んなことを経験したからなのか、それは私には分からない。ただ、私がこうしてここに居られるのは、私一人の力じゃないことは痛いほどに分かる。


 私を助けてくれたみんなのため、世界がもっと暮らしやすくて温かいものになるように、私頑張る。


「あら、いい顔してるわね。ちょっと凛々しすぎるけど」


 私の顔を見たアーリャが笑っている。心から笑ってくれているのが、耳と尻尾を見て分かった。


「ありがとう、アーリャ、ソーニャ、ターニャ。頑張って来るね」


 ターニャが用意してくれたミュールを履いて、準備は万端だ。まばゆいほどの宝石が散りばめられたミュールには、コーセイの瞳の色である水色が花の模様で散りばめられていた。たぶん私の瞳をイメージしたのか、黒に近い鳶色も入っている。


 この靴もわざわざ作ってくれたんだ。偽りの婚約ではあるけれど、今は、ドレスや靴、そして今日の場を用意してくれた方みんなに感謝して、精一杯頑張ろう。


 頭から抜け落ちそうな、貴族の資料を必死で思い出しながら、私は部屋を出た。

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