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第六十五話・期末試験

 その後もコーセイと話し合い、神殿の破壊の実態を掴む事と、これ以上破壊されないようにするためにどう動くかを決めた。


『女神の遣いが猫王と結ばれる。だから王国内の神殿を周り、清めて供え物をし、祈りを捧げよう』ーーという事を宣言して、王国内の各地の神殿に使いを出し、神殿の状況を確認すると共に破壊を抑止する。


 破壊された神殿が見つかれば、誰がそんな事をしたのかと問題になる。その時こそコーセイが待ち望んだシナリオ通りになる日なのだそう。


「それから、貴族達から僕の支持派を増やすため、ルカに覚えてもらいたい事があるんだ」


 私たちはブランチを終え、暖かい日差しが差し込むテラスで食後のお茶を飲んでいた。犬王国ではガウディ王もイエーツ宰相も常に忙しそうで、こんな風にいつまでもまったり過ごすなんて事は無かった。


 私はふと不安になる。猫王国の政治を取り仕切っているのは誰なのか。王であるコーセイがこの生活で、宰相は自分のことしか頭になさそうなマトヴェイ。だ、誰がこの王国を導いているんだろう……。


「ルカ? 聞いてる?」


 無意識に目が泳いでいたらしい。コーセイが手を振っているので、慌ててコーセイを見て作り笑いを浮かべた。


「ごめん、何だっけ?」


「だから、覚えてもらいたい事があるの。サフィア、持ってきて」


 テラスの入り口に控えていたサフィアが、分厚い書類の束を持ってやって来て、私の目の前のテーブルにそれをドンと置いた。


 見れば、私が知っている紙と違ってかなり分厚くゴワゴワした紙が折り重なっている。上の方を革紐で綴じられていた。


「これはね、王国の貴族名鑑から、僕が味方に付けたい貴族だけを抜粋したもの。この貴族達の名前や書いてある情報をできるだけ覚えてほしい」


 明日婚約発表だから、それまでにって事だよね……ちょっとめくってみたら、不思議な文字なのに、きちんと読めることに自分で驚いた。女神様のお陰で言葉文字も不自由しないようになってるんだわ。


「明日、皆んながルカに好かれたくて寄ってくるだろうけど、僕の支持者にしたい貴族を優先して話してほしいんだ。好かれようとして来ない奴らは、マトヴェイやファルザームの一派と思って間違いない」


 はぁ。本当に覚える必要あるのかな? そう思いつつも、書類の束をまじまじと見ると、けっこう面白い事が書いてある。


『アルテスター侯爵家/アビシニアン/領地・デックス荘園とイーストウッド領/当主アルフレッド・アルテスター/長男・カナード/長女・サフィア/荘園では茶葉の栽培、高級猫草の栽培を行なっている』


 私は思わずサフィアを見た。錆色の赤髪の美女は、口の端をわずかに上げて応えてくれた。

 この資料、顔写真まで付いていたら人型猫図鑑みたいで最高に楽しめそうなのに。


「分かった。明日までにやるだけやってみるわ」


 このくらいの量なら一夜漬けできるはず。何たって私は女子高生なんだもの。これが期末試験と思えば、一科目しかない上に大好きな猫に関わる話なんだから楽勝でしょう。


「お、これは期待できそうだね」


 私がやる気を出したのが伝わったみたいで、コーセイが嬉しそうに笑っている。そのまま椅子から立ち上がって、私の横に立って資料をめくっている。


 私がその横顔を見ていると、目が合って彼の方から頬をすり寄せて来た。


「明日成功したら、ご褒美をあげるよ。何が良い? ドレス? 宝石? それとも別の物?」


 ドレスだ、宝石だ、この男は何を言ってるんだろう。頬ずりされていることを全力で無視して心の平穏に努めながら、私は小さく笑った。それが喜びからでは無く、嘲りのような笑いだと気付いたコーセイは、少し離れて私の顔をまじまじと見つめた。


「嬉しくないの? 欲しくないの?」


 心の底から不思議そうにしている。


「私はドレスなんて年に一回着れれば十分だよ。普段は動きづらいから着たくないかな。それに宝石も興味ないなあ」


「じゃあ、どんな物が欲しいの?」


「欲しい物なんて無いよ。もしコーセイが私に何かしたいと思うのなら……」


 私はこの見た目は美青年、心は子供な猫人をしっかり見つめた。コーセイも耳と尻尾をしっかりと立てて私の言葉に全身を傾けてくれている。

 私は少し溜めてから、口を開いた。


「打算のない、心からのありがとう、って言葉を、あなたの口から聞きたいかな」


 私の言葉を聞いた瞬間、コーセイは目をまん丸にして私を見つめてから、気恥ずかしそうに顔を背けた。気分を害したとかではないと思うんだけど。


「……じゃあ、暗記頑張ってよね。僕は政務を済ませてくるから」


 小さな声でそう言うなり、そそくさとテラスを出て行った。

 コーセイの気分を測りかねて、首を傾げて彼の背中を見ていると、サフィアが口元に手を当てながらコーセイの後をついて行った。あれは、笑いを隠しているようだったけれど。


 よし、私はこの貴族名鑑の暗記を頑張ろう。

 猫貴族達のハートを鷲掴みにして、コーセイの地位を確固たるものにする。一刻も早く! そうしないと本当に結婚する羽目になっちゃいそうだからね。


 テーブルの上に並べられたクッキーを摘んで口に入れた時に、ふとルゥのことを思い出した。寂しい思いをしてないかな。ヒルデとベークはちゃんと動いてるかな。あの愛らしいルゥのことを思い出すと胸がぎゅっとして早く会いたくなる。


 バルトーで怪我人の治療をするつもりが、猫王国の王宮まで来てしまった上に、フリだけど猫王と婚約することになってしまった。

 ウィルとルーカスがどうしているかも心配だ。そもそも二人の喧嘩はどうなったんだろう。仲直りできたのかな。ちょっと心配になりながらも、クッキーのホロホロ感と甘さににっこりしてしまった。

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