第六十四話・コーセイと今後の作戦会議
コーセイはメインクーンなだけあって、体がとても大きい。と言ってもすらりとした高身長で、大柄な感じはしない。私より絶対大きい切れ長な瞳に、彫りが深い整った顔。
まるで雑誌で見るモデルのよう。こんなイケメンに好かれてるんだ、私。
好かれていると言っても、私が人間だからとか、魔法が使えるからとか、権力を掌握できるからとか、打算がかなり入っているからだと知っている。だからコーセイにどんなに愛を囁かれても、優しくされても、どこか冷めた目で見ている自分がいた。
そんなわけで、コーセイが用意してくれた「婚約者のための」豪奢な部屋で一泊した後、ブランチでまた呼び出された私は、コーセイと食事を共にしていた。
猫人は朝食は食べずに、のんびり好きなだけ寝てから、ブランチをとる。コーセイはそうやってのんびりと王の生活を甘受しているそうだ。もちろん、下働きの猫人達はそうはいかない。渋々朝から働いているらしい。
「僕の愛する婚約者ルカ。今日は今後の予定について相談しようか」
猫草のサラダをフォークでつつきながら、コーセイが笑っている。半分ふざけているような感じもするし、嬉しくて仕方ない感じも多少なりとも伝わってくる。
「そうだね。あ、もし他の人に話を聞かれたくないなら、言ってくれれば音漏れ防止の魔法をかけてあげる」
私は涼しい顔で言った。昨日の浴場での大騒ぎも、盗聴を恐れてのことだと言われたけど、あの後気付いたの。私が音漏れ防止の魔法を使えばどこにいても話せるんだから、浴場に一緒に入る必要は無かったんじゃないかって事に!
「それなら、二人でいるときは常にそうしようか。僕たち二人の時間を誰にも邪魔されたくないしね」
「分かった。音漏れを防止する、と」
私は話しながら魔法を発動した。透明の皮膜みたいなものが私たちを一瞬覆って、すぐに見えなくなった。
コーセイは興味津々に見ていて、ワクワクを隠さずに話しかけてきた。
「もう大丈夫ってこと? 僕たちの会話は誰にも聞こえないの?」
「うん、そうだよ。例えこのテーブルに一緒に座っても、その人には何も聞こえないの」
「それはすごい! 盗聴防止のために今まで色んな苦労をしてきたけれど、ルカがいればこんなに簡単なんだね。ますますルカを手放せなくなるよ」
私がまるで生活便利グッズのような言い方だ。
「そういう見方しかできないから、好きになれないのよ」
私は小さく呟いた。ネコの聴力なら聴こえているだろうに、コーセイは聞こえないフリをしてにこにこ優しく微笑んでいた。
「さて、僕らの今後の話。まず、明日、王宮の上級職員と貴族連中を集めて、僕らの婚約を発表する。その時にルカに挨拶してほしい猫人がいるんだ」
「誰?」
「メルロー子爵。子爵という立場上、権力も無く、今は敵対勢力の支配下にある。だけど、かなりの博学で、かつ真面目で誠実。僕は彼をマトヴェイ排除後の宰相にしたいと考えている。そこで君に活躍してもらうよ」
ふぅーん。ちゃらんぽらんで狡猾な王様だと思っていたけれど、自分のそばには真面目な人を置きたいと思ってるんだ。
「私は何を話せば良いの?」
「そうだな……この王国の歴史やしきたりに詳しくないから、教えてもらいたいって言って近付いてよ。そこから先は僕に任せて」
「分かった。ねえ、その婚約発表の時って、マトヴェイも来るの?」
私は血まみれのキザリハと、私を殺そうと意気込んでいたマトヴェイを思い出しながら聞いた。
コーセイは私が不安で言ってるのではないと気付いて、ニヤリと口の端をあげながらうなずく。
「そりゃ宰相だもん、来るに決まってる。それと、マトヴェイ以上の曲者……僕と対立している、ペルシャ、ファルザーム公爵が来るからね。対策を練っておかないと」
「マトヴェイには挨拶しても良い?」
私が何を考えているのか分かったらしく、コーセイは笑ったままうなずいた。
そう、私は、王様の婚約者になりました! 魔法も使えるし王の後ろ盾もある、それなのにまた何かしようとしても無駄ですよ、バルトーの町で犬人にした事を謝るなら今のうちですよ、って言ってやりたいと思ってるのだ。
あと、キザリハは元気になりましたかーって聞いてやりたい。あの耳障りなキンキン声のロシアンブルー。結構な怪我をしたとは思う。粘着質なキザリハのことだ、絶対根に持っていて私を殺そうとしてくるだろう。それをマトヴェイが止めざるを得ない状況に追い詰めてやりたい!
「ルカが意気込んでるところ悪いんだけど、神殿の破壊の事でマトヴェイとファルザームを牽制したいんだ」
私はマトヴェイいじめの妄想をやめて、コーセイの顔を見た。優しく見えて実は意地の悪そうな笑顔を浮かべている。
「そのファルザーム、公爵? っていうのが、あなたの反対勢力?」
「そうそう、覚えててくれたんだね。ペルシャの白い猫人、ファルザーム公爵は王位継承権のある一族なんだよ。僕のメインクーン、ウィスカセット一族の方が位は高いけどね。僕を排除して自分が王になろうとしてる奴」
コーセイの顔が曇る。イライラしているのか尻尾がバタバタと揺れている。
「マトヴェイとその人は繋がってるの?」
「うん、二人で共謀してバルトーの町で戦闘を起こしたり、神殿を破壊したり、僕を暗殺しようとしてる」
暗殺。権力を奪い失脚させるだけではなくて、暗殺まで。コーセイはこの若さで必死に自分の命を守りながら生きて来たのかな。だから実年齢より大人びて見えるのかな。
コーセイは椅子から立ち上がり、私のところへやって来た。私の手を掴むと、自分の頬に当てて、その手に優しく頬擦りした。
猫の甘える仕草よね。高身長のイケメンがやると全く別物に見えるけれど……。
「コーセイの事は私が守ってあげる」
「え? 僕がルカを守るんじゃなくて?」
「だって、魔法があれば誰も私に敵わないもん。コーセイが戦争を起こさない事と、女神様との繋がりを大切にするって約束してくれるなら、私がコーセイを守ってあげる」
この世界に来て初めて年下の異性に言い寄られているからなのか、コーセイのことがなぜか放って置けない。ちょっと不思議な感情が胸に宿っている気がする。
「嬉しい。信頼できる騎士がサフィアしか居ないから、とても心強いよ」
コーセイはそう言って私の掌に頬をすり寄せ、うっとりと目を閉じた。
私はと言うと。この世界に来て初めて、自分の力の事を素直に喜んでもらえた気がする。コーセイがすんなり受け入れてくれたことが、私の心を軽くしてくれた。
気付けば私も笑顔になって、コーセイの顎を撫でまくっていた。




