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第五十七話・コーセイという王

 サフィアに連れられて王宮の奥へ進むと、衛兵の数が増えてゆき、どんどん厳重な警備になっているのが分かる。

 そして、サフィアと同じ揃いの白い軍服を着た猫人が二人、扉の両脇に立っているところまで来て、サフィアはようやく足を止めた。


「お待たせしました、姫をお連れしました」


 ノックしてから声をかけたサフィアのセリフを聞いて、一人で吹き出しそうになった。ひ、姫って言ったよね、今。

 女神の遣いとか、ニンゲン様とか、聖女とか言われたけど、ここに来て今度はまさかの姫……。


 もう諦めて成り行きに任せよう。私一人がどうこうできる話じゃないわ。みんな好きに私のこと呼んでくれて構わない! もう好きにしてもらおう。


 ほとんど諦めに満ちた気持ちで、サフィアと一緒に扉をくぐった。そこはドーム状になったガラスの天井を有する、大きな温室だった。


「わぁ……すごい」

 思わず感嘆の声が漏れた。


 太陽の光が天井のガラスからキラキラ降り注いでいる。部屋の中は温室になっているのでとても暖かい。少し動いたら汗ばんでしまいそうだ。


 私は植物にはそんなに詳しくないけれど、温帯の植物が沢山植えられていて、色とりどりの花を咲かせている。背の高い椰子の木もあるし、たぶんバナナの木と思われる木もあった。


「素敵なところでしょう? 僕のお気に入りの場所なんだ」


 さっき会った時は白い上質な絹のローブを羽織っていたコーセイ王が、今度は黒い袖無しのローブを羽織って立っていた。

 ローブには金の刺繍が施されていて、ラフな服装なのにすごく上品に見える。


 サフィアは片膝をついて私の手をコーセイ王に差し出すと、自分はさっさと下がって行った。

 コーセイ王は私の手を取りながら、ジッと私の服を見ている。


「うん、良いね、すごく可愛い」

「こんなに短いスカート、恥ずかしいんですけど……」

「そう? 長いスカートよりずっと素敵だし、似合ってる。足もすごく綺麗だ。赤も似合ってるよ」


 足まで褒められて、私は耳まで熱くなるのを感じた。コーセイ王は上機嫌で私の手を取ったまま、温室の中を進んでいく。


 ドーム温室の中心部、円形の屋根がもっとも高くなる場所の下に、テーブルセットが広げられていた。


「さぁ、ごはんの時間だよ。お腹空いてるでしょ」


 テーブルの上にはホテルの高級ビュッフェみたいに、色んな料理が置いてある。驚いたのは、料理によっては下からアルコールランプみたいな物で火が出て温められている事だ。猫人は火を嫌うから、料理は常温で食べると思っていたのに。


 そう言えば、キザリハに捕まってから何も食べていないことを思い出した。その割には、ちょっとお腹空いたなーって位で済んでるのが不思議だわ。普通ならフラフラで立てない! ってなりそうなものなのに、これもやっぱり女神様の加護のおかげかな。


「どうぞお座りください、お姫様」


 コーセイ王が私の後ろに来てわざわざ椅子を引いてくれた。


「王様にそんなことしてもらうわけには……」

「遠慮しないで。この世界ではね、ニンゲンは二つの種属の上に立つ存在だって言い伝えられているんだよ」

「えっ、そうなんですか?」

「そうそう。だから安心しておもてなしされてね」


 悪戯っぽく微笑むコーセイ王の横顔が、椅子に座る私の真横にある。見れば見るほど端正な作りで、伏せ目がちなまつ毛も綺麗だし、鼻もすごく高い。見た目は私より年上に見えるのに、話していると子供っぽく感じることが多くて、どうしていいのか困惑してしまう。


「せっかくだから食べながらお話しようよ。この料理はとっても美味しいよ」


 コーセイ王が合図すると、そばに控えていた給仕がサッと来て、美しい手つきで料理を取り分けてくれた。ナイフとフォークもあるけれど、見ればコーセイ王は手掴みで食べ始めている。建物や服装は中世ヨーロッパの王侯貴族制みたいなのに、マナーはあるようで無いみたい。さすが人型犬猫の世界だわ、知識が全くない私でも安心して食べられる、良かった!


「美味しそう……」

 見れば赤身の魚のステーキ、しっとり焼き上げられた鶏肉のグリル、美味しそうな香りの澄んだスープにはお決まりの猫草、それにマッシュポテトにサーモンらしきピンクの魚。


 野菜がかなり少なくて、肉と魚メインの食事だ。白くてふんわりしたパンも出てきた。


「美味しいでしょ? 僕らは実は美食家なんだけど、その前に生来の面倒臭がりの方が前に出てきちゃってね。手の込んだ料理を食べるのは大好きなんだけど、作るのは大嫌いなんだ。だから、この料理は犬人のシェフが作ってくれているよ」

「え? 犬人が猫王宮の中で働いてるんですか?」


 私はステーキを口に運ぼうとした手を止めて、聞き返した。犬王国の首都や王宮には猫人は一人もいなかった。国境付近の町で見かけることはあっても、そこを越えればそれぞれの国で姿を見ることはないと思っていたんだけれど。


「うん。働いてるよ。奴隷としてね」

「!?」


 私は声にならないほど驚いて、手に持っていたフォークを落とした。カラカラと音を立てて落ちるフォークを、給仕がすごい反射神経で拾う。そして新しいフォークをすぐに出してきた。


「犬人を奴隷にしてるんですか?」

「そうだよ。戦争の捕虜をそのままね」

「和平交渉が結ばれたんだから、捕虜を国に返したりはしなかったんですか?」

「返せと指定された奴は返したけど、指定されなかった犬人は奴隷としてここで使ってる。だって、犬人ってよく働くし、体力もあるし、僕らみたいに飽きっぽくないし、料理も美味しいしね」


 悪びれもせず言うコーセイ王に、それまで持っていた好感度がグーンと下がって行くのを感じた。それが顔に出ていたんだと思う、コーセイ王は私の顔を見て悲しそうに眉を下げている。


「そんな顔しないで。奴隷って言っても衣食住はきちんと保障してるし、差別や虐待からちゃんと守ってあげてるよ」

「……私が、犬人の奴隷たちを解放して下さいって言ったら、そうしてくれますか?」


 私が言った言葉に、コーセイ王は鶏肉のグリルを持つ手を止めて、じっとこちらを見てきた。怒っているとか気分を害したような顔はしていない。


「僕の出す条件を飲んでくれるのなら、奴隷を解放してあげても良いよ」


 交換条件が出てきた。私はスープを一口なんとか飲み込んで、もうフォークを置いた。食欲が無くなってしまったのだ。


「どんな条件ですか?」

 緊張から声が硬くなる。


 コーセイ王は大きな耳を少し寝かせ気味にして、瞳をキラキラさせながらにっこり笑った。吊り上がった唇からは尖った犬歯が覗いている。堂々とした笑顔はやっぱり王の威厳を感じた。


「ルカが王妃になること。少なくともワンシーズンは」


 ワンシーズンって、何?


更新遅れてしまいました、すみません。

猫王国の王様は自由奔放な方です。

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