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第四十八話・ウィルとルーカス

 目が覚めると辺りは暗くて、ランタンの明かりがぼんやりとテーブルの上で光っていた。

 宿木の館の自分の部屋とは違う……ぼんやりしていた頭がだんだんはっきりしてくる。馬を飛ばしてバルトーに辿り着き、神殿で重傷者に回復魔法を使った。その後体調が悪くなり、この宿で頭痛に耐えながら眠ったんだった。


 あれだけひどかった頭痛はもう治っていた。頭を動かすとまた痛くなるんじゃないかって不安がよぎったけど、そっと頭を動かしても大丈夫だった。

 ふと気付くと、ベッドサイドでウィルが突っ伏して寝ている。片手は私の手を握ったまま。


 寝ているウィルはすごく可愛い。綺麗な顔立ちに、ブルーマールならではの鮮やかな髪色、おじぎをしているような先折れ耳。

 私のわがままに付き合って、バルトーまで来てくれた。感謝の気持ちが溢れてきて、気付けば無意識のうちにウィルの頭を撫でていた。


 窓の外も暗いので、もう夜らしい。部屋を見回してもルーカスの姿はなかった。まだ町長と話しているのか、それとも別の部屋で休んでいるのだろうか。


 ふと、ぱたぱたという音が聞こえてきて、ふっと音の鳴る方を見る。ウィルのふさふさの尻尾が、小刻みに揺れていた。


「ウィル、起きてるんでしょ」

「……たった今、目が覚めました」


 ウィルが笑顔で起き上がった。すぐさま私の額に手を当てて、熱がないかを確認したり、私の顔をじっと見ている。


「もう大丈夫なんですか?」

「うん、頭痛も治って、今はどこも辛くない。完全回復だよ」

「良かった!」


 私が元気をアピールするために拳を作って胸元に持っていくと、ウィルは丸ごと私を抱きしめた。ふんわりと犬の匂いがして、懐かしさに顔が綻ぶ。元の世界に残してきた私の犬たちのことが思い出された。

 いつもならなかなか離れないウィルが、今日はすっと離れてくれた。


「ルカ様、神殿では気が利かず、申し訳ありませんでした」

「え? ずっと支えてくれてたの、助かったよ」

「でも、ルカ様の喉の渇きに気付けなかったじゃないですか」


 ウィルの顔が悲しそうに歪んだ。ああ、ルーカスが私に水を飲ませたこと、やっぱりショックだったんだ。私はいつもなら絶対やらない、ウィルの手を握って、ゆっくり言葉を選びながら話し始めた。


「ウィル。私ね、ルーカスから学院時代の話、聞いたよ。ウィルがどうしてルーカスを嫌うのか知りたかったから」

「あいつ! 聞いたんですね……情けない話でしょう。何度も振られて、決闘にも負けて」

「情けなくないよ。ウィルは昔から一途で一生懸命なんだって知れたから。でも、ルーカスは好き好んであなたと決闘したわけじゃないと思う」

「あいつの肩を持つんですか?」


 ウィルが、初めて私に見せる、疑いを含んだ視線を私に投げてよこした。ウィルにこんな目で見られる日が来るなんて。ショックだけど、それだけウィルの心の傷も深いんだって自分に言い聞かせる。


「ルーカスは妹さんのためにやっていただけでしょ。それに、ルーカスから話を聞いて分かったの。ウィルと友達になりたかった、って思ってるよ、彼は」

「友達!? そんなわけないでしょう。ルカ様も見たでしょう、彼の僕に対する冷たい態度や言葉。友達になりたいのにあんなことしますか?」

「そうなんだよね、そう思うよね。でも、本当なの。ウィルと距離を縮めたくて、あんな態度になってしまうのよ」


 ルーカスはとんでもなく不器用な性格なんだと思う。ウィルと仲良くなりたくて、つい言いすぎてしまうんだろう。普段から王の近衛騎士をしているということは、仕事も孤独、プライベートも妹さん以外は親しい人は居なそうだ。


 ウィルはじっと私を睨むように見ていて、胸が痛かった。


「ずいぶん、ルーカスと仲良くなったんですね。たった数日旅をしただけなのに」

 ウィルは瞳を落として呟いた。


「ウィル。私の話を信じてほしいの。あなたが抱えてる気持ちを楽にしてあげたいんだよ」

「……僕の気持ちを楽にしたいなら、慰めてください。ルーカスの名前なんて、あなたの口から聞きたくもない」

「それじゃ前に進めないでしょ。過去のことをいい加減乗り越えて」

「黙ってください」


 有無を言わさない、強い口調でウィルが言って来た。威圧に押されそうになるけれど、ここで折れたら何も変わらないままだ。そう思って口を開こうとする。


「ウィルも分かってるでしょ、済んだことーー」

「黙ってって言いましたよね」


 ウィルは私の言葉を遮って、私の頭を掴んで自分の方に引き寄せて、強引にキスをした。

 一瞬のことで動揺したけど、我に帰って慌ててウィルを押し除けようと手で押した。でも、びくともしない。こんな乱暴にキスされても、何も嬉しくない、悲しい気持ちになってしまう。涙が溢れて肩が震え始めた、次の瞬間。


 ウィルの体が後ろに吹っ飛んだ。

 ウィルは壁にぶつかって大きな音を立てて倒れる。何が起きたのか分からずびっくりしていると、ベッドの傍らにルーカスが立っていた。


「そういうことをするから嫌われるんだろうが、ウィリアム」


 冷ややかにウィルを見下ろしている。ウィルはばっと勢いよく顔を上げ、ルーカスを睨みつけると、次の瞬間、全身をバネのようにして飛び上がってルーカスに掴みかかった。


「お前に邪魔される筋合いはない!」

「いいや、未来の王妃様の純潔を守るようにと王に言われている」

「王妃!? ルカ様が受けたのか?」


 取っ組み合いになりながら、二人が私の方を見た。私は慌てて首を横に振った。


「王妃になるとは一言も言ってないよ」


 私の叫びを聞いて、そら見たことかと言いながらウィルがルーカスを殴ろうとし、ルーカスはかわしながらウィルの足を引っ掛けて転ばせる。ウィルは受け身をとりながらルーカスに蹴りを繰り出し、ルーカスが蹴りを食らって数歩、よろめいた。


「ふん、学院の頃とは違うんだよ」

「たった一回、軽い蹴りが入っただけでその自慢か。弱い犬ほどよく吠える」

「なにを!」


 またしても始まる喧嘩。私は魔法で止めようかと考えたけど、やめた。昔の気持ちにケリをつけるために、もう少し喧嘩させておこう。男は拳で語り合うとかって聞いたことあるし。

 しばらくしても喧嘩が続いていたら、止めれば良いよね。そう思い、二人が存分に喧嘩できるよう、そっとベッドから抜け出した。


 壁にぶつかったり、窓が割れたり、すごい音がしている。ウィルは押され気味で、身長も高いルーカスに翻弄されていた。ウィルよりしなやかで速い動きだ。

 私は心の中で、ウィルが全力を出し切れるよう祈った。


 部屋の扉を開けると、びっくりした顔の女の子が立っていた。お仕着せを着ているので宿の従業員だろう。


「す、すいません! すごい音がするので見に来たんですが、失礼しました」

「ごめんなさい、壊したものは弁償します……ちょっと二人とも親睦を深めていて。あの、喉が渇いたので、飲み物がほしいんですが」


 廊下に出て女の子に飲み物を頼むと、にっこり笑って、

「こちらへどうぞ、お飲み物をご用意いたします」


 とついて来るように言われたので、後ろを歩いて行く。部屋の中からは変わらずすごい騒音が聞こえて来る。二人とも、終わったら回復魔法も必要かな……。


「こちらです、ルカ様」


 女の子が示したのは、宿の奥の一室だった。食堂は宿に入ってすぐにあったので、逆方向なんだけど、なんの部屋だろう。そう思いながら部屋を覗き込むと、後ろから突然口元に布を当てられた。

 声を出そうと思っても、出せない。しかも、変な匂いのする布で、どんどん意識がぼんやりする。


 女の子が「ごめんなさい」と泣きそうになりながら謝る姿が見えた。

 大丈夫、怒らないから泣かないで。

 そう声をかけてあげたかったけど、私の意識はその前に途切れた。

拳で語り合う。犬も喧嘩するのに何故か仲良しって、ごく稀にいますね。

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