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第四十四話・面倒な駆け出し

 ウィルとルーカスは同い年で、騎士になる者が通う学院も一緒に通っていたらしい。ちなみに碧騎士団の副団長セレスさんも一緒だったそう。


 ウィルがぶつぶつ言うには、ルーカスとの相性は最悪、ルーカスの態度も物言いも一番嫌いなタイプだそうだ。

 そんなウィルに対して、ルーカスもズバッとキツい事だけを返すものだから、ウィルはイライラしっぱなし。


 それにしても、喧嘩をふっかけられても飄々としていそうなウィルなのに、ルーカスにだけはやたらと突っかかる。これは、学院時代に何かあったんじゃないかなあ、なんて予想してしまう。


 そんな事を考えながら、私たち三人は足の速い馬を駆って夜闇を駆け抜けていた。

 この世界に来るまで馬にもろくに乗れなかった私だけど、犬王国滞在中に何度かウィルと乗馬をしているうちに上達した。


 馬の気持ちがぼんやり伝わってくるし、私の気持ちも分かってくれるのか、動きが分かるようになって、それにより乗馬してからの動きも自分の体みたいに感じられるようになった。ウィル曰く、ありえない速さで上達してると言っていたけれど。


 馬たちの蹄の音、風の音、体に伝わる激しい揺れ、馬の様子を見ながらスピードを変えつつも、私たちは夜が明けるまで走り続けた。




 朝日が上り、小鳥のさえずりが聞こえるようになった頃。先頭のルーカスがスピードを落として街道を逸れて行くので、私も従うと、目の前に小さな川が見えてきた。


「馬を休ませて、僕たちも食事をとりましょう」


 ウィルは軽やかに馬から降りる。私が降りやすいようにそばに来て手を貸してくれたので、私も馬から降りた。

 何時間も馬の上だったから、自分の足で立つと変な感じがする。

 一瞬、視界がぐらっと揺れた。


「おっと! 危ないですよ!!」


 揺れたのは視界ではなくて私自身だったらしい、ここぞとばかりにウィルが抱きしめて支えてくる。


「わ、ありがとう……まだ揺れてる感じがするわ」

「それよりお尻は太ももは大丈夫ですか? 僕でもさすがに痛いですよ」

「そういえば、その辺は全然平気みたい」


 ウィルでも痛いなら、不慣れで鍛えてない私の方がひどいことになるはずなのに。ウィルは尻尾の周りをさすっているけれど、私は全然痛みがなかった。ウィルは、そうか! と言って私の両肩を掴んだ。


「ルカ様には女神様の加護があるから、怪我が治るのと同じように、疲労や擦り傷、筋肉痛もたちまちのうちに治ってしまうのでは? 想い人がつらい思いをせずに済むから、僕はすごく嬉しいです」


 瞳をキラキラさせて笑顔でウィルが言ってくる。私の体は確かに疲れにくい。精神的な疲労でなければほとんど感じないほどだ。女神様には感謝しなきゃいけない……のかどうかは微妙な所だけど。こんな大変な社会情勢の世界に転生して来て、落ち着いて暮らすことなんかできやしないもの。


 それはそうと、ウィルはまだ私の肩を掴んだまま、ニコニコしている。ここぞとばかりにお触りしてくるので、もう注意するのも疲れてきた。私が呆れ顔をしていると、いつのまにか近くに来たルーカスが、


「嫌がっている女性に、いつまでもベタベタしているから嫌われるんだ」


 と無表情に呟いてから、馬を連れて川に向かって行った。ウィルの耳はピンと立ち、尻尾が膨らんでブンブン揺れている。怒ってるなぁ。

 ウィルは私から手を離して、大股で馬の蔵についている荷物のところへ行き、中身を探っている。


「あった! ルカ様、これ二人だけで食べちゃいましょう」


 ウィルが取り出してきたのは、美味しそうなマフィンだ。昨日調理場からもらってきたものだと思われる。

 夜通し走って来たのでお腹ぺこぺこ。ウィルからマフィンを受け取る。でも。


「二人だけっていうのはやめてね。ルーカスも一緒に旅する仲間なんだから」

「いいえ、あいつは仲間なんかじゃありません。勝手について来てるだけです。マフィンは二つしかないので僕たちだけで食べます」


 つーんとしてるウィル。新鮮だけど、正直、心の狭い男って見てて気持ちのいいものじゃないね……。マフィン片手に困って立ち尽くしていると、馬に水を飲ませ終えたルーカスが、木のコップ片手にそばに来ていた。


「ルカ様、水を汲んできたのでどうぞ。それから、俺はパンを食べるので」


 水を受け取ると、ルーカスはさっさと少し離れたところに行ってしまった。かなり無愛想で寡黙なタイプみたい。

 ウィルはしっしっ、とか言ってるし。


 ウィルが馬に水を飲ませてる間に、マフィンを食べて水を飲んだ。

 なんでか知らないけどウィルはルーカスのことを嫌ってるし、ルーカスもウィルのことを相手にしなかったり冷たくあしらったりで、せっかく三人で旅してるのに全然楽しくない。私は長いため息をついて、支度の終わった二人と一緒にまた馬にまたがった。

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