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第三十七話・乙女に戻る女騎士

 私が魔法で生み出した動くぬいぐるみ、ベークとヒルデを見たメイローズ団長。警戒しているのかと思いきや。


「すごいすごい! 本当に可愛いすぎるー! ヒルデちゃん!!」


 まるで少女に戻ったかのようなメイローズ団長の姿に、私とウィルは顔を見合わせる。ベークと遊んでいたルゥも動きを止めて目を丸くしてメイローズ団長を見ている。


 メイローズ団長はきゃあきゃあ言いながらヒルデの手を取り、ふわふわだね! とか、なんて可愛い魔法使いさんなの! と騒いでいる。

 私は側に立っているウィルに小声で話しかけた。


「メイローズ団長があんなキャラだって、知ってた……?」


 ウィルは左右にぶんぶん首を振って、見てはいけないものを見てしまった、というなんとも言えない顔になっている。


「知らなかったですよ、まさかあのメイローズ団長が。だって、王都の守護者って呼ばれている、気高い女騎士団長ですよ? それが、まさかあんな……」


 私たち二人、見てはいけないものを見てしまったんだわ。メイローズ団長は、ヒルデちゃんぎゅー! って言いながらヒルデを抱きしめてる。笑顔が無邪気すぎて、メイローズ団長じゃない犬人なんじゃないかとさえ思ってしまう。


「あの、メイローズ団長? 大丈夫ですか?」


 私が控えめに話しかけると、メイローズ団長はハッとして私を振り返った。


「こ、これは失礼! 取り乱したところを見せてしまって。実は、私は可愛いものが大好きで、特にぬいぐるみは本当に好きで、たくさんコレクションがあるのです」


 嬉しそうに顔を赤らめて言うメイローズ団長。そ、そうか、メイローズ団長は乙女趣味な方だったのね! さっきはギャップに混乱したけれど、納得してしまえば、もう大丈夫。

 私もささっと気持ちを切り替えて話を進めることにした。ウィルだけはついて来れずに変な顔してメイローズ団長見てるけど、放っておこう。


「この二人が、ルゥをはじめ、子供達のお世話をします。私が留守でも、いつでも子供たちに寄り添ってあげられるし、警戒心を解いたり、言葉や社会生活を学ぶ手助けができます」

「夢のような話ですね! こんな可愛い子たちがお世話してくれたら、荒んだ孤児院の子たちも癒されるでしょうね、間違いなく。仕事に追われ疲れ果てた私の心も癒してくれるに間違いありません」


 メイローズ団長は本当はこのぬいぐるみたちを自分のものにしたいんだろうなあ、なんて思いつつも、そこは気付かないフリをしておこう。ずーっと彼女の白くて綺麗な尻尾が揺れている。


 ルゥがベークに抱きついたまま、一緒にメイローズ団長のそばまでやって来た。あれだけ嫌っていたメイローズ団長のところに自分から来るなんて、珍しい。メイローズ団長はベークを見て満面の笑みを浮かべて、両膝をついて手を広げた。


「大きなテディベアが! ふわふわもこもこが! 動いてる! なんて可愛いの!」


 キャラ崩壊したメイローズ団長が、ベークを見て叫ぶ。ルゥはベークにしがみついているけど、メイローズ団長を見る目が、恐怖や怯えではなく好奇心になっているのが分かる。いつもの仕事モード、メイローズ団長だったらルゥは怖がって近づかないんだろうけど、今の乙女モードはまるで別人だもんね、怖がる必要ないんだってことはルゥが一番よく感じ取ってるはず。


 ルゥはベークに抱きつきながら、じっとメイローズ団長を見つめて口を開いた。


「……ベークに、触りたい?」


 ルゥの可愛らしい声を聞いて、メイローズ団長はぶんぶんと首を縦に振る。触りたくて、両膝をついて手を広げて待ってるんだもんね。


「ルゥちゃん。ベークくんを触らせてくれたら、とっても嬉しいし、お礼に美味しいチーズケーキを食べさせてあげるよ!」


 なんと、あの真面目そうなメイローズ団長が、ルゥを餌で釣る作戦に出るとは。しかもチーズケーキ。私も食べたい!

 ルゥはよだれを垂らして、「食べたい」と呟いてうなずいた。すると、ベークがルゥを小脇に抱き抱えながら、メイローズ団長の方へ歩み寄り、彼女のことをぎゅっと抱き締めた。


 ベークを中心に、ルゥとメイローズ団長が三人で抱き合っている形になっている。


「きゃああ! ふわふわの天国! ぬいぐるみから抱きしめてくれる日が来るなんてー!」


 乙女になったメイローズ団長の叫びを聞いて、ウィルが頭を抱えている。


「僕はなにも見てないし聞いてませんよ。こんなことセレスには絶対言えない……」


 言えないよね、そりゃ。こんな乙女な団長の姿を見たらみんな卒倒してしまうのでは? 私もちょっとショックだもん。でもショックより、こんな可愛い一面があるんだって分かった喜びの方が少し大きいかな。

 ルゥはメイローズ団長に抱きしめられる形になって目を白黒させていたけれど、だんだんと慣れていって、今やメイローズ団長のことをぽんぽんしている。


「ルゥちゃん、ありがとう。今まで、怖い思いをさせてごめんね」


 すっかり乙女な声でメイローズ団長がルゥに謝っている。ルゥは首を横に振ってるから、許してあげるよって言ってるようだ。

 我ながらすごい! ぬいぐるみたちの魔法で、メイローズ団長とルゥまで仲良しになっちゃった!


「さぁ、メイローズ団長。この子たちの力を借りて、孤児院の子供たちを助けてあげたいから、協力してください」

「そうですね、いつまでも戯れていたいけど、今は勤務時間内。そろそろ真面目にお話ししなくては」


 辛そうに呟くメイローズ団長。もしかしてこの犬人、休日はずっとぬいぐるみと遊んでるとか……まかさね、そんなことないよね。

 メイローズ団長はベークとルゥから離れて、私の向かいにやって来た。やっといつものキリッとした顔に戻ったよ。


「国営の孤児院が、王都のはずれにあります。この子たちをそこに常駐させるのですか?」

「そうですね。この子たちを送り込む前に、設備や環境のチェックしに一度行かせてください。きちんと手入れされているか、衛生管理されているか、食事は栄養バランスが整ったものか、子供たちは毎日どんな生活を送っているのか、孤児院で働く人はどのくらいいて、どんな業務をこなしているのか」

「ちょ、ちょっとお待ちください」


 私が気になることをバーっと話し出したら、メイローズ団長は慌ててメモを取り始めた。


「ルカ様、孤児院は現状、お見せできるような状況ではありません。というのも、ルカ様がご想像されているような場所ではないのです。ルカ様が仰っているのは学校のようなイメージがおありのように感じましたが、孤児院は収容所ですから」


 やっぱりそうなんだ……そうなんだろうなとは思ってた。けど、私は前にいた世界で言う幼稚園や小学校みたいな機能と、温かい家庭になるべく近づけた孤児院にしたい。それについても色々相談しなきゃいけないんだなあ。


「メイローズ団長。私は孤児院を学校のようにしたいし、温かい家庭のような場所にもしたいんです。そのために必要なものがあるなら言ってください。イエーツ宰相に掛け合ってみますから」

「ルカ様のお気持ちはよく分かりました。それでは、私の方で孤児院の改革に取り掛かりますので、少しだけ時間をください。この子たち二人がいられるような環境に整えて参ります」


 メイローズ団長も私がやりたいことを分かって、応援してくれるんだ。私はほっとして息を吐いた。

 そんな私に優しく笑いかけて、


「ルゥちゃんの変貌には驚かされました。臆病さがこんなに改善されるとは。騎士団でもこの事例を共有し、今後は子供たちを助けるように動きたいと思います」


 と決意を口にしてくれた。ルゥはベークから離れて私のところに来て、私の腕を取ってその中に収まる。甘えてくっつきたくなったんだろう。


「見てください、メイローズ団長。こんなに可愛いんですよルゥは。外で出会った時は、殺されるんじゃないかってくらい怖かったんだと思います。こうして安全な場所で愛情を伝え続ければ、こんなに穏やかで甘えんぼさんになるんです」


 私が笑ってルゥを撫でながら話すと、メイローズ団長も笑って、そうですねとうなずいた。


「ルカ様はすごい。私たちが知らなかった事を知っているし、我が身を張ってやり遂げてくださる。知恵と勇気に感服しております。私もルカ様に恥ずかしくないよう、孤児院の改革、全力で取り組ませていただきます。では、そろそろ失礼致します」


 キリッとしたメイローズ団長はカッコいいなあ。同性でもドキドキするくらい。美しい動作で一礼した後、ドアに向かってかかとを鳴らしながら歩いて行ったけど、ふと立ち止まる。ん? どうしたのかな?


 なんと、くるっと向きを変えてヒルデとベークそれぞれのところに歩いて行き、ぎゅーっと抱き締めて、それからまた何事もなかったかのようにドアから出て行った……。


「二重人格ですかね、あれ」


 ウィルが呆れた様子で呟いたのだった。

昨夜は気絶したように眠ってしまいました。遅くなって申し訳ありません。

楽しんでいただけたら嬉しいです!

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