第三十六話・女騎士とぬいぐるみ
何とか無事に、ルゥや子供たちのお世話をするための存在を作ることができた!
本当に思ったことがなんでも叶えられるんだ。この力って、まるで神様みたいな何でもできる力なんじゃないのかな。そんな風に感じ始めてる。
女神様は何のために私にこの力を授けたんだろう。自衛のためにって言ってたけど、それだけじゃなさそうな気がしてきた。やっぱり猫王国に行って、女神様のことを妨害してる何かを調べたりした方がいいのかなあ。悩む。
ぼんやり考え事をしていたけれど、ふと気になってルゥやぬいぐるみたちを見てみた。
ルゥはベークに常にくっついていて、ヒルデは時に近くで、時に遠くでルゥを見守りながら一緒に遊んだり、言葉を教えたりしている。
二人のぬいぐるみに夢中で、ルゥはすっかり私のところには来なくなっちゃった。楽だけど、ちょこっと寂しいな。
するとウィルがスッと私の真横に来て、さりげなく私の肩に手を置いてくる。
「本当にすごい力ですね。ヒルデはルゥに言葉を教えて、話す力をつけさせようとしているし、ベークはルゥに安心感を与えて守っているし。ルカ様はすっかりお役御免で手が空きましたね。そんな時は、さあ、僕の頭をなでましょう」
横を向いてウィルの顔を見ると、ちょっと興奮気味、息遣いが早くなっていて、口が開いている。尻尾もぶんぶん揺れている。ぬいぐるみたちにそれぞれお願いした役割を見抜いたウィルは素直にすごいと思えるのに、最後のセクハラ発言でがっかりさせられる。
「ウィルの頭をなでる専用のぬいぐるみも作ってあげようか?」
「えっ、それならルカ様そっくりのやつがほしいです!」
この犬人騎士は、嫌味も通じないみたい。
「そんなの作るわけないでしょ! それより、ウィル、メイローズ団長を呼んできてほしいの。もし見つからなかったらセレスさんでもいいから」
私はウィルの体を扉のほうにグイグイ押して、部屋から追い出そうと頑張る。ウィルは不満そうにしながら、しぶしぶ外に向かって歩き出した。
「分かりましたよ、行ってきます。僕が留守の間、館を出ないでくださいね。何かあったら困りますから」
「はいはい、分かったよ! 変な人が来たら痺れさせるから心配しなくて大丈夫。それより早く呼んできて」
痺れさせる、と言ったら、ウィルはあの時の感触を思い出したらしく、ぶるっと震えた。また悪さしたら遠慮なく痺れてもらうんだからね。
ウィルは早足で部屋を出て行って、私はやっとゆっくり椅子に座ることができた。
ルゥはというと、ベークに高い高い抱っこをしてもらって、上機嫌だ。ヒルデの方は、私の方を見てる。
「どうしたのヒルデ?」
「ルゥちゃんや子供たちのために、おもちゃが欲しいんですけど、言葉を覚えたり、賢くなるおもちゃが良いんです。なので私が作ろうと思うんですが、ルカ様、メイドさんに私を紹介してもらえますか? メイドさんに材料を揃えてもらおうと思って」
「もちろん! それは楽しみだわ。メイドさんいますか?」
私が声を出すと、どこからともなくメイドさんが来てくれて、部屋に入って、ベークとヒルデに気付いた。
小さな悲鳴を上げてその場で固まっている。
そりゃ驚くよね。朝には普通のぬいぐるみだったものが、巨大化して動いてるんだもん。
「あのね、このぬいぐるみたちは、女神様がルゥや子供たちのためにって、お力を貸して奇跡を起こしてくれたの。だから怖くないよ!」
私はニコニコして安心させようとしながらメイドさんに説明する。メイドさんは女神様という単語を聞くと、すぐ警戒心を緩めてくれた。
でもまだかなり怖がってる。
「そ、そうなのですね。それなら良いのですが……」
「本当に大丈夫よ! 子供たちの遊び相手であり、良き先生になるために女神様が使わしてくれたの。それでね、あそこにいる魔法使いの女の子のぬいぐるみ、ヒルデって言う名前なんだけど、ヒルデがあなたにお願いがあるそうなの」
私が説明しながらヒルデを指差すと、ヒルデはにこりとして一礼した。
メイドさんはびっくりしてその場で飛び上がる。
「驚かせてごめんなさい。ヒルデって呼んでください。ルゥちゃんや子供たちのためにおもちゃを作りたいので、材料を用意してもらえませんか?」
ヒルデが礼儀正しくお願いすると、メイドさんは少し怯えつつも、なんとか受け入れようとうなずいてくれた。良かった! パニックにならずに済んでほっとした。
「じゃあ、木の板と絵具を用意してもらえるかしら? それで絵合わせのおもちゃを作ろうと思うんです」
ヒルデが欲しいものを伝えると、メイドさんはうなずいてすごい速さで部屋を後にした。この部屋を立ち去りたい気持ちと、頼まれた仕事をやらなきゃっていう使命感のダブルであんなに早く歩いて行ったんだろうな。
きっとこれから、館で働く他の犬人たちみんなの間で、ベークとヒルデのことが噂になるんだろうな。私にとっては好都合だよ。いちいち驚かれたり怖がられるより、先に知っておいてもらった方が楽チンだもん。
私はヒルデを見て、ニコッと笑いかけた。
「ヒルデが作るおもちゃが楽しみだよ。私も子供の頃、パズルいっぱいやったし、いろんなおもちゃで遊んだなぁ、懐かしい」
ヒルデはそんな私の言葉にしっかりうなずいて、私のところにトコトコ歩いてやって来た。巨大ぬいぐるみが動くって、自分でやっておいてなんだけど、やっぱり不思議な光景だわ。
「ルカ様の子供の頃の記憶やイメージが、私の中にあるんです。それを元におもちゃを作るので、きっとルカ様にとっては懐かしいおもちゃですよ。楽しみにしていてください」
わぁ、そうなんだ。私が作ったヒルデだから、私の記憶や経験を元にして動いてるのね。
「それから、ルカ様がやるべきと思う子供たちの社会化の勉強も、私がこれからやって行きます。安心してお任せください。私とベークに何かあったら、作り手であるルカ様のところに報せが行くようになっています。なのでルカ様の目が届かない場所でもルゥちゃんや子供たちのお世話が可能です」
私が思い描いた通りのスペックだわ。便利すぎて、逆に不安になりそう。何か見落としや抜けてるところはないか、とか、本当にこれで上手く行くのか、とか。
そう思っていると、ドアがノックされた。
「ウィルです。ルカ様、メイローズ団長をお連れしました」
早い! もう連れてきてくれたのね。私は「どうぞ」と声をかけた。ドアが開いてウィルとメイローズ団長が入ってくる。
長身で抜群のプロポーションのメイローズ団長。
入ってくるなり、ルゥとじゃれているベークと、私の向かいに立っているヒルデを見て、凍りついた。
「あ、大丈夫ですよ。私が魔法でぬいぐるみを動けるようにしたんです」
私は慌ててメイローズ団長に声をかけて、安心してもらえるように説明した。ギギギって音がしそうなくらいぎこちなくメイローズ団長が私の方を振り向いた。
「……こんなことが現実に可能なのですか?」
「驚かれるのはもっともだと思いますが、現実にできちゃったんです」
「それは、本当に夢のような力ですね」
メイローズ団長はため息をついて、それから私をジッと見た。綺麗な瞳に、誰が見ても分かる美人。こんな美人がいるのに、私が可愛いって騒ぐウィルやイエーツ宰相の気持ちが全然分からないなあ。もし私が男だったら、メイローズ団長のことを好きになっちゃうよ。
メイローズ団長はぬいぐるみたちを警戒してるみたいなので、早く安心して欲しくて、ヒルデを見てアイコンタクトした。自己紹介して、って合図。
さすが私が生み出した生命体。ちゃんと察して、トコトコ控えめにメイローズ団長の方に歩いて行き、ちょこんと一礼して見せた。
「メイローズ団長、はじめまして、ヒルデと申します。私とあそこにいるベークは、ルカ様のお力によって生み出されました。ルゥちゃんや子供たちを守り、安心させ、笑わせて、社会化できるように教えるための存在です。よろしくお願いいたします」
メイローズ団長は耳をピンと立てて、尻尾も真ん中あたりで止めて、ただ大きく目を見開いてヒルデを見ている。
ヒルデから視線を外さないまま、メイローズ団長が口を開いた。
「なんと、しゃべれるのですね! ヒルデちゃんに、ベークちゃん!!」
あれ? 今、ぬいぐるみたちをちゃん付けで呼んだよね? クールなメイローズ団長が。
メイローズ団長は頬を赤く染めて、きゃああ、可愛い! と叫ぶと、ダッシュしてヒルデに駆け寄った。
「ヒルデちゃん! 私のことはメイローズちゃんって呼んでね!!」
ん?
メイローズ団長……?
キャラの豹変っぷりに、私とウィルは思わず顔を見合わせた。




