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第三十二話・王と宰相と大司教

 ウィルに連れられて、王宮の会議室にやって来た。私とお揃いのドレスを着たルゥは王宮で働く犬人たちの注目の的になった。

 私自身もすごく見られるし、挨拶もされるし、かしずかれるけど、ルゥは違う意味で話題になりそう。可愛い可愛いとすれ違う犬人みんなに言われて、ルゥも少しびびりながらも悪い気はしないみたい。

 褒められるたびに私が、可愛いね、ルゥが褒められてるよ、美人さんだね、と重ねて伝えると、頬が赤く染まってとても嬉しそうにはにかんだ。


 ウィルが私をエスコートして、私が反対の手でルゥと手を繋いで歩いてきたんだけど。ウィルは、


「ルカ様と子供ができたらこんな感じですね! ああ、楽しみすぎる」


 って妄想が止まらないらしい。後でセクハラ発言の罰として魔法の実験台にしてやる。


 さて、会議室にはマゼラ大司教とイエーツ宰相は来ていて、ガウディ王はまだ来ていない。


「おはようございます、皆さん。今日は、この子も同席することをお許しいただきたいと思いますが、良いですか?」


 私がルゥを指し示すと、マゼラ大司教は、もう好きにしてくださいと言わんばかりに首を振る。対してイエーツ宰相はというと、怒るか呆れるかどっちかなと思いきや、ほんの少しの笑顔を浮かべて私とルゥを見ている。


「碧騎士団メイローズ団長から報告は受けています。誰にも慣れないと思われていた孤児を、短時間でそこまで変身させるとは。ルカ様が特別だという事が、私にもよくよく分かりました」

「お、怒られるかと思ってました」


 私がびっくりしてイエーツ宰相に言うと、彼はフンと鼻を鳴らした。


「ルカ様のされている事は、王国の孤児たちを助ける素晴らしい行為です。安易な思いつきでされたのか、それとも確信があったのかは解りかねますが、結果的に、素晴らしい行為であることは疑いようもない」

「それ、褒めてるんですか? それともけなしてます?」

「分かりづらいですか? 褒めているんですよ」


 はぁ。イエーツ宰相とはいつも言い争いみたいになっちゃうけど、私が悪いだけじゃなさそう。ツンケンしたこのスタンダード・プードルは、いつもこんな感じなのかなあ。スタンダード・プードルという犬種は家族の前では甘えん坊でやんちゃな面もあるって聞いてるけど、イエーツ宰相がそんなふうにしてる姿が想像できないよ。


 ルゥはイエーツ宰相を真ん丸の目で見てから、自分から近寄って行く。え、ルゥ、大丈夫? メイローズ団長より怖い人だよ。

 やっぱり、クンクンとイエーツ宰相の匂いを嗅いだ後、ウーと唸ってすぐ私のところに戻って来た。そうよね、ウィルともまだ打ち解けてないのに、イエーツ宰相は無理でしょ。


 そうこうしていると、近衛騎士が来て、ガウディ王の到着を告げた。

 足音もなく、優雅に美しい金髪を揺らして、ガウディ王が会議室に入ってきた。先日会った時はゆったりとしたガウンのようなものを羽織っていたけど、今日はピッタリとした制服のような服を着ている。たぶんあれが王様用の服なんだろうな。


 相変わらず、彫刻みたいに整っていて、恐ろしいほど綺麗な顔をしてる。私を見てふわりと微笑んだ顔は、さっきの無表情とのギャップの破壊力が凄すぎる。ルゥは好奇心いっぱいの瞳でガウディ王を見ている。


「みな、待たせたね。せっかちですまないが、まず、三十年ぶりに女神ファトゥム様がご降臨なされたとの方向から、聞かせて欲しい」

「ははっ。私マゼラ・セイルド大司教がその場に立ち会っておりましたので、間違いはございません。女神様が語られたのは、猫王国にて女神様のご降臨を妨げ、お力を奪っている何か良からぬ策謀が起きているというお話し。それから、ここに座すニンゲン、ルカ様に魔法の力を授けるというものでごさいました」


 魔法、と聞いて、ガウディ王は「ほぅ」と優雅な感嘆を漏らして、イエーツ宰相は疑うような視線で私を見てくる。ルゥが「まほう! まほう!」と私の隣の椅子の上で嬉しそうに呟く。


 マゼラ大司教は言葉を続けた。


「その後、女神様は唐突に去られてしまいました。ルカ様が大神殿を訪問してくださったおかげで現れることができたと仰られていたのですが、今後またいつお姿を拝謁させていただけるかは分かりません……女神様は! ルカ様にお力を授けることで、問題を解決するようにと仰いました!」


 最後のほう、めっちゃ語気強めに言ってる。そうだよね、マゼラ大司教の生きる意味みたいな女神様が、私に任せまーすって感じで居なくなったんだもんね。そりゃ頼りたくなるよね。分かるけど。


 視線は私に集まっているので、私もぺこりと一礼して話を始めた。


「女神様はお元気そうには見えましたが、力が弱っていると仰ってました。それから、魔法についてですが、まだ言われてから時間がそんなに経っていないので、自分でもよく分からないんです。ただ言えることは……」


 私は掌を上に向けて広げる。


「色々なことができるかもしれません。この力の1番の目的は自衛のため、ですけど。御覧ください、炎よ」


 私が呟くと、ぼぅっと炎が掌から上がった。私はちょっと熱いかな? くらいだけど、周りの空気は歪んで見えるから、ちゃんと熱い炎なんだろう。その場にいるルゥ以外の全員が、炎を見て一瞬どよめいた。でも一番分かりづらかったのはガウディ王かな。一瞬だけ目が大きく見開かれたと思ったけど、すぐまた彫刻顔に戻ってる。アフガンってポーカーフェイスなのかな?


「あと、私はどんな怪我をしてもすぐ治るそうです。病気も、たぶんかかりません。そういう加護を女神様が授けてくださったそうです」

「素晴らしいルカ様、女神様のお使いよ……」


 マゼラ大司教が、私と同じ高さのテーブルと椅子は申し訳ないと言わんばかりに、椅子を降りて私の方を向いてひざまづいた。私は居心地が悪くなって、大司教に「お願いします、座ってください」とお願いする。大司教は「ありがたき御言葉です」と座ってくれた。これ、私の言いなりなのかな、もしかしなくても。


「ルカ様はもはや我々ジーアスの住人の理解の範疇を超えた存在であることは、よく分かりました。まず、ルカ様が魔法を使えることは、なるべく隠しておいた方が良いでしょう。その力を利用しようとする輩も出てくるかもしれませんので。ルカ様は御自身で身の安全を確保できるようになったのでしょうが、ご判断力などはまだ幼い女性のままでしょうから。ルカ様を騙したり、陥れようとする輩から保護することは、我が王国の務めと思います。よろしいでしょうか、王よ」


 考えをバーっと話してから、王に同意を求めるイエーツ宰相。ガウディ王はうなずいて見せた。


「ではルカ様のお力に関する事項は国家機密として保護させていただきます。各騎士団の副団長までを限度にして通達いたします。口外したものには罰を与えることにいたしましょう。ですから、ルカ様。今後は魔法を使われる際には、外部から遮断されている場所で行ってください。蒼騎士団の練習場は見通しが良すぎて噂になってしまいますのでもうおやめ下さい」

「は、はい……すみませんでした」


 私はウィルに言われてあの練習場に行っただけなのにー、と思うけど、イエーツ宰相にそういう言い訳は通じないよね、面倒なことになる前に謝るのが一番だわ。

 仕切り屋宰相の話は続く。


「そして最重要課題として、猫王国で行われている策謀、女神様のお力を弱めている原因を探るという問題ですが、緋騎士団を送り込みたいと思います」


 緋騎士団って、確かビーグルの男の子がいたところだよね。ウィルが、極秘任務をこなす秘密の騎士団だって言ってた。騎士ってそういう仕事はしないもんじゃないの……と突っ込みたいけど、この世界の騎士と、私の世界の騎士の概念が違うのかもしれないよね。


 マゼラ大司教は私を見て、


「女神様が、ルカ様がお調べになるようにと仰っていたのですが、実は、大神殿から王へお願いが御座います」

「なんですか」


 イエーツ宰相はいつも冷たい目をして周りを見てるなぁ。私はひとごとみたいに会話を聞きながら思ってたんだけど、次のマゼラ大司教の言葉に吹き出しそうになった。


「ルカ様を、女神様と同じように神殿で祀る存在としたいのです、そう、私共と同じジーアスに足をつけて生きてくださっている聖女様として!」


 な、なんだそれ……。ただの珍しい人間、から、聖女って、ずいぶん出世してるよね。私は黙っていられなくて声を上げる。


「私の意思は関係なんですか? 大司教! 私はそんな祀られるなんてごめんです! もっと普通に生きて行きたいのに……」


 やれやれと私に同情するようにイエーツ宰相が首を振る。


「マゼラ大司教が、女神様の加護を受けた特別な存在のルカ様を尊く思うお気持ちは分かります。が、ルカ様も、話してみればただの十五、六の小娘となんら変わりはありません、あ、これはけなしているのではなく事実を述べたまでです。ですので、聖女として祀るには、いささか不相応でしょう。これからルカ様が何か、偉業を成し遂げた時に、聖女として認めるかどうかについてはまた再検討するということで。この件については以上です」


 ズバズバ! って音が聞こえてきそうなくらいぶった斬りだったわ、イエーツ宰相閣下。小娘って。私は十七歳なんですけど! でも聖女だなんだをきちんと断ってもらえて助かったかも。これは、一応助け舟を出してくれたってことかなあ。


 マゼラ大司教はとてもとても残念そうに、「では再検討の時を心待ちにしております」と呟いた。


 あー良かった。祀られるなんて、そんなの一ミリだって望んでないんだから。イエーツ宰相を見ると、むすっとしていたけど、目が合うとフッと笑っている。

 笑った! 珍しい。やっぱり助け舟だったんだね。宰相の気遣いに感謝して、もうマゼラ大司教が変なことを言い出さないのを祈るばかり。

やっと書き慣れてきた感じがします。後書きに何を書けば良いのか分からず書かない日もありましたが。

うちの犬たちはへそ天で寝ています。

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