第二十八話・この世界唯一の人間は、唯一の魔法使い
女神様……犬と猫が人型なのはこの世界だから分かるとして、魔法は存在してないって、聞いてるんですけど。それなのに、私が魔法を使えるようになる?
「ルカのイメージに合わせて力を使えるようにしますので。他の人間だと、超能力とか、武器とか、仙人とか、超人になるとか、そういうイメージの方もいらっしゃるみたいですよ」
「そ、そうなんですね」
「力があっても使い方やイメージがないと使えないですからね! その力で、身を守ることもできますし、ルカが望むのなら、猫王国で起きていることを調べていただいても構いません。ただ無理強いをするつもりはありません。マゼラ大司教、そして、ウィル、ルゥ。あなた方が、今日起きたこの奇跡の証人となってくださいね。ルカはこの世界で唯一の魔法使いになったのです。もう誰もルカには勝てませんよ」
話の流れが早すぎて、驚きすぎて。何を聞かなきゃいけないかとか、分からなくなる。でもまた会えなくなっちゃうなら、最低限の事は聞かないと……!
「魔法って、どんな魔法が使えるんですか?」
「あなたが望むなら大抵のことはできます。ゼロから世界を作るようなイメージで、色々な魔法を編み出してみて下さいね、そろそろ時間が来てしまったようです」
女神様は明後日の方を向くと、だんだん姿がぼんやりしていく。わー! またしても唐突に居なくなってしまうのね。
「女神様! どうか、私たちをお導きください!」
マゼラ大司教が必死にすがりついてる。女神様はそれをちらっと見て、
「世界中が、平和で穏やかな暮らしになるよう、私も尽力いたしますが……」
そしてちらっと私を見る。
「力不足で申し訳ありません。それではまたいつか」
その視線はもう、私になんとかしてもらえってそんなふうにしか見えないんだけど。
女神様の姿が消えた後、マゼラ大司教は泣きながら私に寄ってきた。
「ルカ様、どうか、どうかそのお力で王国を平和に導いてください!!」
ルゥがまた私の足にしがみついていて、マゼラ大司教に、これ以上近寄ってきたら咬むぞ! という顔で威嚇してる。なのでマゼラ大司教は近寄りたいのに近寄らず泣きべそをかいている。
ウィルは頭をかきながら、いやー、大変なことになりましたね、と笑っている。
「ルカ様が魔法使い! これはすごいことですよ」
「王国では魔法とか魔法使いってどんなイメージなの?」
私が聞くと、ウィルはにこにこ笑ってルゥを指差して、
「これくらいの子供までが信じてる、絵本の中のおとぎ話、ってイメージですね!」
爽やかに言い放った。それって、私が元いた世界とほとんど同じレベル……。ルゥを見ると、耳がピンとして、尻尾はふりふり、瞳をキラキラさせて私を見てる。
「魔法! 見たい」
まぁ、ルゥの方がはしゃいでるわ。普段ほとんど喋らないのに、こんなに嬉しそうに話してる。
ウィルもわくわくしてそう。マゼラ大司教だけが、女神様ロスでまだメソメソしてる。
私はマゼラ大司教が可哀想になってきて、ルゥが咬みつかない程度に近づいて元気付けようと声をかけた。
「あの、マゼラ大司教。ひとまず女神様に会えたことは喜ばしいですよね。このことを王様やイエーツ宰相にお伝えしなくてはと思うのです。皆さんの知恵を借りて、どうしたらいいか考えていきましょう」
「うぅ、ルカ様……」
くりくりの大きな目に大粒の涙が浮かんでいる。
私はニコッと笑いかけて、精一杯マゼラ大司教を励ました。
「私もいますから、ね。マゼラ大司教も一緒に、猫王国で何が起きているのか調べましょう」
「ルカ様の持つ、女神様のお力をお貸しくださいませ!!」
すがろうとしてきたマゼラ大司教を、ルゥが威嚇して突き放す。それを見たウィルが苦笑いしてる。
ウィルは私の隣に寄ってきて、そっとルゥの頭を撫でた。ルゥはマゼラ大司教を見ていて、自分を撫でているのが私だと思っているらしく、怒らない。ウィルってば、上手だわ。
「まだどんな力かも分かっていないんですし、そうだ! ルカ様がお疲れでなければ、これから蒼騎士団の練習場に行って、どんな力があるのか試してみましょう。マゼラ大司教にはそれをお伝えしますし、王様と宰相とこのことを話し合う時にまたお呼び致します。それまで、かなりお疲れのご様子ですから、少しお休みになっては」
ウィルが仕切ってくれて、扉の外にいた神殿に仕えている犬人を捕まえて、放心状態のマゼラ大司教を連れて行ってもらった。
私とルゥは神殿の服を借りたままだったから、馬車で一旦宿木の館に戻り、着替えてから、魔法を試すために蒼騎士団の練習場に行くことにした。
馬車に乗ると、ウィルが、ルゥちゃんおいでおいでと自分の隣に座らせようとして、また怒られている。めげないウィルを見て笑っていると。
「やっと笑顔になった! ルカ様は笑顔が一番素敵です。きっと、魔法を使えると楽しくなりますよー! 僕は今とってもわくわくしてます」
ウィルはウインクしてくれて。ああ、ウィルの明るさにどれだけ支えられてるんだろう。私が追い詰められないように。困らないように。抱え込まないように。
このカラフルな髪型の犬人には、感謝してもしきれないわ。
「ありがとう、ウィル」
「良いんですよー! 感謝の気持ちは行動で示していただければなお嬉しいですけどねっ」
ウィルは自分の頭を私の方に差し出してくる。しょうがないなー、と撫でようとしたところで、ルゥが、こっち! と言って私の手を自分の頭に持って行ってくっつけた。
可愛すぎるルゥの行動に、ウィルと二人で顔を合わせて笑った。




