第二十七話・大神殿で再びの女神様
ルゥと一緒に、大神殿の浴場を借りている。
「ルゥ! 怖くないから、そんなにしがみつかないで」
私もルゥも、薄衣をまとってお風呂に入っている。神殿の決まりらしい。三十畳くらいありそうなでっかいお風呂は、大神殿の地下にあった。女神様の像があって、そこから温かいお湯があふれて出ている。
どうやってこんな大きなお風呂を維持してるんだろう。
ルゥは初めてのお風呂に怯えて、私の薄衣にしがみついて離れない。破けないか心配になっちゃう。
そういえば、ルゥは女の子だった。林檎を食べてほっとしたのか、私が触る分には怒らない。でもウィルやその他の人はまだダメで、こうしてお風呂も一緒に入るしかなく、神殿に仕える犬人たちは嫌な顔をしていたけれど、私の頼みだからって仕方なく受け入れてくれた。
「ルゥ、体を洗ってさっぱりしようね! とっても気持ちいいよ」
お風呂は怖がってしょうがないので諦めて、洗い場に連れ出して、石鹸で洗う。ルゥは石鹸も初めて見たらしく、「アワワ……」とびっくりしていた。私が顔を覗き込んで、「良い香りでしょ」と言うと、ルゥはうなずいてくれた。
上がると私たちのために服が用意してあった。神殿で働く人たちの中でも、上等そうな服だ。ルゥのは子供用の服で可愛い。二人で手を繋いで歩いていくと、ウィルとマゼラ大司教が、大きな扉の前で話していた。
「マゼラ大司教! 浴場を使わせてくださりありがとうございました。洋服も助かりました」
私が声をかけると、マゼラ大司教はうやうやしく頭をさげた。
「ルカ様。大神殿までご足労いただき、神殿に仕える者、皆が感謝しております。いらっしゃるのを心待ちにしておりました」
「お待たせして申し訳ありませんでした。それにこの子のことも、受け入れてくださり感謝しています」
私の足に抱きついているルゥをちらりと見るマゼラ大司教。そんなに冷たい目ではなかったが、優しさとかはなく。無関心に限りなく近い関心、って感じ。
ウィルの方は、「きれいになったな!」とルゥの頭を撫でようとして、危うく咬まれそうになっている。さすが騎士、すごい反射神経で手を引っ込めていた。
「それでは、お願いしていた通り、女神様と会うためのお部屋に案内していただけますか?」
先にウィルに頼んで、女神様と会えないか試したいということを伝えてもらっていた。もちろん快諾してくれたそう。私がいれば、三十年ぶりに女神様が降臨されるのではないかと期待しているのが、見てわかる。
マゼラ大司教が、大きな扉を指し示す。
「この扉の先が、女神様と会うための、神聖の間になります。騎士殿は、ここでお待ちいただけますか?」
それからこの子供も、とマゼラ大司教がルゥを見て言う。ルゥはぎゅっと私の足を抱きしめ、離れない! と強く意思表示している。
ウィルは快諾かと思いきや、
「マゼラ大司教、僕もクロスフリー公爵として、ルカ様の近衛騎士として、神聖の間へ入室することを許可いただきたい。王宮と違い、警護がそこまで厳重ではない大神殿で、ルカ様の身に何かっては大変なことになります」
と、離れることを拒否した。マゼラ大司教はウィルにもルゥにも嫌な顔をしていたけど、二人とも引かないのを見てとり、私に助けを求めるように視線をよこした。
「ごめんなさい、マゼラ大司教。私でも、二人を説得するのはちょっと難しいかなと……」
「はぁ。ルカ様はこの二人が祈りの場に同席することについては何も異論はないのですね?」
「それはもう。二人は私の大切な連れですから」
「ならば仕方ありません。本来ならば、特別な存在しか入れない場ですが」
マゼラ大司教が扉を開ける。
部屋の中央には、それはそれは巨大な水晶のような球体があって。天窓から光を集めてまばゆいばかりに輝いている。その球体を囲むように丸い回廊がある。
私が歩み出ると、ルゥも、わぁ……と言いながらついてきた。ウィルとマゼラ大司教は後ろにいる。
私は球体の中に、赤く揺らめく炎が見えた気がした。
「今、見えましたか?」
マゼラ大司教に確認するも、彼は首を横に振っている。おかしいなあ、私には見えるのに。
「ルゥはどう? あそこに赤い炎が見える?」
聞くと、ルゥはこくんとうなずいた。やっぱり! ルゥには見えてるんだ。私はルゥのことを抱きしめながら、炎を見続けた。どんどんはっきりと、色濃く、大きくなってゆく赤い炎。
そういえば、女神様の髪の毛も、燃えていた。そう思った瞬間、炎が大きくなった。ルゥがビックリして私にしがみつく。
そしてマゼラ大司教もウィルも声を上げていた。驚いているーーということは、マゼラ大司教にもやっとこの炎が見えるようになったのね。
炎が球体を覆いつくすように大きくなってから、徐々に落ち着いていく。すると、球体の中に、私もみんなもずっと会いたかった、女神ファトゥム様、その人がいた。
相変わらずの美しさで、優しい微笑みを浮かべて、球体の中にその姿が見える。
「ルカ、また会えて嬉しいです。そしてマゼラ大司教、この三十年間、姿を現すことができず申し訳ありませんでしたね」
私とルゥは立って女神様を見ているけど、マゼラ大司教とウィルはそれぞれひざまずいている。マゼラ大司教は顔を下げているから表情は分からないけど、全身を震わせてるのが分かる。
「め、女神様……お久しゅうございます。うぅ、本当に、この三十年どれほどお会いしたかったことか」
どうやら泣いてるみたい。ルゥが首をかしげて見てる。
「私の力が弱まっているのです。原因は猫王国にあるようなのですが、何が起きているのかも分からないのです。ルカがここに来てくれたから、こうして姿を見せ、言葉を交わすことができました」
私が来ることで女神様の力の足しになったのかな。イエーツ宰相の考えは間違ってなかったみたい、次に会ったら謝らないと。ただ、祈りなんて捧げてなくて、来ただけで会えたけどね。
それにしても猫王国。女神様はいらない、自分たちでこの世界を支配するんだって言ってるってコノエが言ってたっけ……。
「ルカ」
「は、はい」
「あなたには苦労をかけましたね。転生直後に命の危険、それに、人間であるが故に何かと不便をかけてしまいましたね」
「そんな……とんでもないです。私のことより、女神様は今後もこうして姿を現すことはできますか? 私はなんの力もなけど、女神様がまたこうして会えるようになれば、犬王国の皆さんもすごく安心すると思うんです」
「それは……」
私の質問に、難しそうに唇を結ぶ女神様。
そうか、猫王国で何かしらの力で邪魔をされているから、難しいのかな。
「私自身の力も弱っている上に、猫王国での妨害もあり、次またこうして会うことができるのがいつになるのか、私でも分からないのです。その代わり、今の私にできることをいたしましょう」
女神様は私に手招きしてきた。ルゥは珍しく私から離れて付いてこない。
私が球体にできるだけ近付くと、少しだけ温かく感じた。優しい木漏れ日のような温かさだ。
「ルカ。あなたの体は、どんな傷を負っても、たちまちに治るようになっています。転生の時に私の力を渡しましたから」
「やっぱり。びっくりしましたよ! 傷が一瞬で治ったから」
「うふふ、お話しする時間がなかったのです、驚かせてしまいごめんなさい。そして、今度はあなたに自らの身を守る力を授けましょう」
どんな傷も一瞬で治る体なんて、もう人間じゃないような……でも、ありがたいことだよね。もう脳出血にも遭わなくて済むってことだし。
それに加えて身を守る力? なんだろう。
「ルカのイメージに合わせて使えるものにしましょう。そう、魔法! 魔法が使えるようになってもらいます!」
女神様は両手を握りしめ、嬉しそうに言った。
ま、魔法……。
やっとタイトル通りのところまで来れました。更新が遅れてすいません。
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