第二十三話・王国の側近たち
ガウディ王とお茶した後、疲れてぐっすり寝た私。起きたら翌朝になっていた。
メイドさんに髪をセットしてもらいながら、
「今日の私の予定はなんですか?」
と、先に聞くということを学習した私。
もう流されまくるのは疲れるからやめる! と思ったんだけど、メイドさんは「申し訳ありません、私はルカ様のご支度をするということしか知らされてなくて」とお耳をぺたんと寝かせて申し訳なさそうに言う。
その時、扉がノックされて、おはようございます! とウィルの脳天気な声が聞こえてきた。
「今日のルカ様のご予定は、王国の宰相閣下や、側近の皆様に会っていただくことになってまーす」
なんだかウィルの方がめんどくさそう。今日は昨日と違って、正装ではない騎士の服装に、髪もラフなままのウィル。昨日はかっこよかったけど、今日のウィルの方が落ち着くなあ。
私の視線に気づいて、ニヤッとするウィル。
「今日の僕もステキ、って思ってましたよね? ね?」
昨日、ウィルのこと、気持ち悪い! と言って最後は部屋から追い出したんだけど、全然懲りてないみたい。
メイドさんはなぜかウィルのことをうっとり見つめてる。そんなにカッコいいと思うなら、メイドさんにのし付けて贈りたいくらいですけど!
私は今日は青いドレスで、ご丁寧に手袋まであって、アクセサリーも同じ色。これは誰かのものじゃなくて、私のためにわざわざ用意されたのかな。
「さぁ、行きましょう。王宮の貴賓室で、宰相閣下がお待ちかねです」
またしてもウィルがエスコートしようと寄ってくる。
「ねぇ、この国は誰かのエスコートがないと歩いちゃいけない決まりがあるの?」
「うーん、そうですね。身分の高い女性は皆そうしてるんです、ってルカ様。一人で行かないでくださいよ」
「私は珍しい人間ではあるけど、身分が高いわけじゃないから! どこに行くのもエスコートされるって落ち着かなかったの。今日は一人で好きにさせて」
そう言って、ウィルの手を払い除ける。ウィルは悲しそうにしてるけど、そんなのいちいち気にしてられない。
ウィルに先導されて王宮に行くと、それはそれは豪華な作りの建物がいくつも並んでいて、とても一人では歩けなそう。歴史の教科書で見たヨーロッパの王宮みたい。
私がいる宿木の館はアクセスが良いらしく、王宮にはすぐにたどり着いた。そして貴賓室も比較的王宮に入ってすぐにあった。
「さぁ、到着しました。失礼致します、蒼騎士団副団長ウィリアム・クロスフリーです。ルカ様をお連れ致しました」
ウィルが挨拶して入ると、優雅な装飾のテーブルがあって、そこに三人の犬人が座っていた。
「お待ちしておりました、ルカ様」
白いくりくりの巻毛に、同じ色のサラサラのタレ耳をした、長身の犬人が立ち上がって歓迎してくれる。他の二人も立ち上がって会釈してくれた。
初めて見たあの特長的な巻毛、こと天然パーマ。あれは、プードルだ、絶対!
「私は宰相のイエーツ・ホワイトライトです。スタンダード・プードルの一族の長でもあります」
やっぱり! 私は心の中でガッツポーズを取った。犬種当てクイズ、楽しくなってきた。
そんなことを考えてるのがばれると怒られちゃうかもなので、慌てて愛想笑いをして、挨拶した。
「イエーツ宰相、はじめまして、ルカです」
髪型にばかり目が入ってたけど、よく見ると、アーモンドのような形の瞳はとても知的で、表情は硬い。
次はその隣の人が「こんにちはルカ様!」と明るい声を上げた。
短い金髪に、やはり短毛の金色のタレ耳。にっこにこしていて、体つきはがっしりしている。
これは、ラブではないかしら。
私はワクワクしながら彼の挨拶を待つ。
「ぼくはラブラドール・レトリバー一族の長で、アンダンテ・スタースフレと言います。ぼくと、こちらのガルファルは、ガウディ王の相談役を務めています」
やっぱりラブラドール! ウィル以上にニコニコして明るい。私も笑い返すと、アンダンテさんはテーブルをぐるっと回ってこっちにきて、
「握手してもいいですか!?」と聞いてきた。
私がコクコクとうなずくと、やったぁ、と無邪気な声を出しながら、私の両手をギュッと包み込む。
「よろしくお願いします! とても美しく、優しそうな方で嬉しいです!!」
とにっこにっこして、先に戻って行った。さすがラブラドール・レトリバー。底抜けに明るい。
それから、アンダンテさんの隣に立っている、刈り上げたような黒髪に、毛足の短いタレ耳をした、全身ムキムキマッチョの男性が、口を開いた。
「ルカ様、俺はガルファル・キングストーム。ロットワイラー一族の長で、王の相談役であり、次の王でもある」
ロットワイラー! 見たことない犬種だ。ムキムキマッチョなのはそのせいなのね。すごい大型の犬で、海外では警察犬もしてるって図鑑で読んだことある。
それより、気になったのが。
「次の王様が決まってるんですか? どういう仕組みでーー」
「それについては私が説明いたしましょう」
私の言葉を遮って、イエーツ宰相が声を上げた。
「犬王国には王家たる三犬種家があります。それが、現王ガウディ様、それからここにおられるアンダンテ様、ガルファル様なのです。三つの王家が交代で王を務めます。任期は三年から五年と定めがあります。代々この方法で犬王国は繁栄してまいりました」
イエーツ宰相はきらりと瞳を光らせて、
「私の一族も代々宰相を務めております。私たち犬人は種類によってその能力がはっきり分かれるので、王国民は皆、犬種に合った家業に就いていることが多いのです」
へえ! それはすごい! 犬が国を作るとこうなるんだ。バランス良く暮らしていくための知恵なのね。
「教えてくださってありがとうございます。すごくステキな国なので、楽しく過ごしています。特にお料理がとても美味しくて」
笑顔でお礼を伝えると、イエーツ宰相の表情が少し和らいだ。
「我が国の食事がルカ様のお口に合うようで何よりです。今日お呼びしたのは、ご挨拶だけでなく、お願いがあるのです」
「お願いですか……なんでしょうか?」
昨日はガウディ王に、のんびり暮らしなさいって言われたけど、そんな簡単にいくかなって不安もあったんだよね。だから今、イエーツ宰相にお願いって言われて、身構えてる。
「そんなに難しいことではありません。ルカ様のことは国を挙げて歓迎し、お守りいたします。なので、ルカ様には、大神殿に赴き、王国の平和と安寧を祈ってほしいのです」
祈るって言われても、私、無宗教なんだけど。祈り方も知らないのに。
やっぱり、象徴みたいなものとして、みんなの目によく映るようにしなきゃいけないんだね。
私にできないことでは、もちろんないけど。でもなんのしがらみもなく、のんびり楽しく暮らす、っていうのとは全然違う。
「ご不満ですか?」
イエーツ宰相の目が冷たく光る。彼は自分の提案を絶対に通そうとしてる気がする。私が拒否するのを許さないような目つきをしてる。よく見れば耳は後ろに少し引いてるし、尻尾は真っ直ぐ立って微動だにしていない。
犬が相手に牽制してる時の仕草だ。
私は手を握り締めて、しっかりイエーツ宰相を見る。
「私が今着ているドレスも、アクセサリーも。すべてあなた方が用意してくれたことは分かっています」
「何を言い出すのですか?」
「聞いてください」
会話を遮って、主導権を握ろうとしたイエーツ宰相に、はっきりと強いトーンで言葉をかける。
「私はこの世界に来る前は、普通の高校生でした。両親に守られて、両親のお金で暮らしていました。私の仕事は勉強したり学校に行って友達と今しかできない経験をする、それだけでした」
でも、と私は続ける。
「この世界に転生する時、女神様は、楽しく、穏やかに暮らせば、それが世界にとっても良いことだって言ってました。その意味がずっと分からなかった。でも、今なら少し分かります。私にとって、その暮らしは、このドレスやアクセサリーのような、与えられるだけのものでは、成り立ちません」
難しい話だけど、この世界に来てから自分の中の不安と、先のことずっと考えてきて、思ったことがある。
「私は自分からも何かを与えながら生きていきたいです。でもそれはイエーツ宰相の言った祈りを捧げるような、そんな象徴のようなものではなくて。もっと、皆さんと同じように働いたり周りの人と関わり合いながら、生きていきたいんです」
真っ向から否定されたイエーツ宰相は、今にも飛びかかってきそうなくらい鋭い目をして私を見てる。ロットワイラーのガルファルさんがそんなイエーツ宰相を見ているのが分かる。動こうとしたら止めようとしてくれているんだ。
「私が楽しく、穏やかに暮らすためには、戦争はもう二度とおこすわけにはいきません。だから私は戦争を止めるための力が必要だし、イエーツ宰相の言うことに従わなくてもいい力も必要です。そのために」
私は自分から立ち上がって、ゆっくり、ゆっくりと、テーブルを回り込みながら、イエーツ宰相の斜め前に立った。
犬は正面に立たれるのは喧嘩だと思う、って犬種図鑑で読んだの。それが正しいといいんだけど。
イエーツ宰相は肩に入れていた力を抜いて、ふぅとため息をついた。
「どうしてほしいのですか、ニンゲンのルカ様?」
呆れるように言うイエーツ宰相。
私は勇気を出して言った。
「イエーツ宰相が、どうしたら私がその力を手に入れられるか、知恵を貸してください。宰相という立場はそういう考え事が得意な方がなる役職ですもんね?」
私は緊張しながら、なんとかにこっと笑ってイエーツ宰相を見た。
不思議な犬王国の制度も少しずつ明らかになっていきます。やっと書き慣れてきました。面白くなるよう頑張ります!
評価やブックマーク、ありがとうございます。すごく嬉しく、励みになっています。




