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第二十二話・王との出会い

 あの後。メイドさんが話した通り、全身フルコースのエステみたいなのがあって、美味しいお菓子やパン、果実ジュースを食べ飲みながら、けっこうな長時間、されるがままになっていた。


 終わる頃にはヘトヘト。なのにそこから、今度はドレスの着付け! コルセットは丁重にお断りして、ゴージャスなフリフリドレスも断固拒否して。

 動きやすい、白と水色のレースのドレスを着せてもらって、それからヘアセットやメイクがあって。


 女の子なら誰しも憧れるシュチュエーションだってことはよく分かるの。でも、知らない世界で慣れない馬車や襲撃に遭って、と、色んなことがありすぎて、全然楽しめなかった。

 楽しめるくらい、ゆっくり過ごせるといいんだけど……。


 疲れ果てて、ぐったりと長椅子に座っていると、コンコンとドアがノックされた。部屋の隅っこにいたメイドさんが私がうなずいたのを見てから、扉を開ける。


 そこには、ピカピカの制服に、マントを付けた、正装したウィルが立っていた。

 髪もしっかりセットされているし、耳や尻尾の毛もお手入れしたみたい、ふわさらしてる。


 ウィルは軍靴をカツカツ言わせながら入ってきて、座っている私の前にひざまずいた。


「ルカ様、お迎えに上がりました。犬王国の王がお待ちです」


 私に手を差し出しているので、そこに手を重ねた。


「ふふ、僕があまりにカッコよくてびっくりしたでしょう? 王宮では僕に想いを寄せる女性がたくさんいるんですよ!」


 嘘ではないのは分かるけど、ウィルのこの、良くも悪くも人懐っこい性格のためにモテは半減してる気がする。

 私の手をぎゅっと握りしめて立ち上がると、強い力ってグイッと私を引っ張って、立ち上がらせるついでに腰に腕を回して抱きしめてくる。


「こら! ウィル! 調子に乗ってるでしょ!」


 間髪入れずに叱ると、くぅんと切なそうにして、ウィルは私から少し離れた。油断も隙もない!

 ウィルがエスコートしてくれて、館を出て、庭園を歩いて行く。ドレスに合わせて用意してくれた靴が、ヒールが低いものだから、庭園に敷かれた石畳の散歩道が歩きやすい。


「ウィル、これから会う王様ってどんな人?」

「一言で言えば、素晴らしい方です。全ての犬種属の中でも、最も優雅で美しい方ですよ」


 なんじゃそりゃ。素晴らしくて優雅で美しい王様? どんな人なのかさっぱりわからないよ。ウィルに聞いてもトンチンカンな答えしか返ってこないことが分かったから、もう聞くのはやめる。


「ルカ様、王さまは謁見だと堅苦しいでしょうからと、薔薇の庭園でティータイムをしようと言ってまして。ほら、あそこです」


 ウィルが示した先には、色とりどりの薔薇が咲き誇る一角があった。薔薇の濃厚な香りがしてくる。


 白い薔薇のそばに、優雅な作りのテーブルセットが置いてあり、その近くに、長身の男性が立っていた。


 太陽の光で輝く金髪は、さらさらのストレートで、なんと腰よりも長い。尻尾は鞭のように細く、くるりと綺麗に巻いて、金色の飾り毛が一列に揺れている。


 彫刻のような整った美しい顔の男性。頭には王冠を乗せている。耳は生えていなくて、尻尾さえなければまるで人間のような見た目だった。


 ウィルがうやうやしく一礼し、私の後ろに下がる。


「ルカ様をお連れ致しました」

「ありがとう、ウィリアム。控えていなさい」


 低くて穏やかで、よく通る声だ。

 焦げ茶色の深い瞳がじっと私を見てる。

 この犬種は、なんだろう。


「私はガウディ・ファーリスト・デラセル。アフガン・ハウンドの一族の長であり、この王国の王をしている」


 ガウディ王。そうか、この特徴的な尻尾はリングテール、アフガン・ハウンドにしかない尻尾だ。名乗ってから黙っているのは、私の発言を待ってるんだ。気づいて慌てて会釈する。


「私はルカ・マミヤと申します。女神様に出会って、この世界に転生させてもらいました」


 挨拶が終わると、ガウディ王が私に椅子を指し示してきた。座れってことだよね? 少し悩むと、ウィルが近寄ってきて椅子を引いてくれたので、大人しく座った。


 ガウディ王も、長い金髪をキラキラ揺らしながら、音もなく椅子に座った。


「ルカ。まず、ジーアスに来てくれてありがとう。礼を言う。三十年もの間、女神ファトゥム様が現れずにいたため、世界は混乱していてね……。そなたが現れてくれたことで、女神様がご健在であることが判明し、国内は喜びで満ちている。大司教は涙を流して喜んでいたよ」


 ガウディ王はフッと冷たい感じの笑い方で笑った。

 話終えてからパチンと指を鳴らすと、どこにいたのか、執事らしき犬人とメイドさんが数人出てきて、テーブルの上にさまざまなお菓子やサンドイッチを並べて行く。


 紅茶も入れてくれた。白いからミルクティーかな。

 私が紅茶を眺めていると、ガウディ王は、


「この世界には慣れたかな?」


 と、意外と優しいトーンで聞いてきた。ビックリして王の顔を見るけど、冷めた顔なのでよく分からない。


「まだ慣れません。私のどこがそんなに特別なのかも分からないです。女神様は私に、ただ、楽しく穏やかに暮らしてほしい、って言いました。けれどその暮らしが実現するのかどうかも分かりませんし」


 私がはっきり言うと、ガウディ王は、ふむ、と綺麗な手を顎に当てて考えるような仕草をする。


「そなたは特別だ。国中がもう歓喜のパニックになりそうなくらいに。何か特別なことを為し得たわけでなく、その存在自体が特別なのだよ。そして暮らしに関しては、この私が王である間は、そなたの希望を全面的に叶えるよう善処するつもりだ」


 態度はクールすぎるけど、言ってることは優しい。なんか分かりづらい人だなあ。顔も彫刻みたいに綺麗だからなおさら冷たそうに感じるのかも。


 ガウディ王は紅茶に白い薔薇の花びらを二枚入れて、それを見つめている。

 私は目の前に出てきた美味しそうフルーツサンドがどうしても食べたくなって、手を伸ばしてお皿に乗せた。


「ありがとうございます、王様。私はまだ、自分が何をしたら良いのかも分からなくて、皆さんの期待がすごく重たいと思ったけど、王様は期待を込めた目で私を見ないから、ありがたいです。王様の言葉、とても嬉しいです」


 お礼を言うと、ガウディ王は意外そうな顔をして、そして左右の髪がさらさらと揺れて、私を見た。あぁ、耳が頭に付いていないと思ったら、髪の毛と一体化してるんだ。いま、耳を動かしたから髪が揺れたのね。


「そなたの声や言葉はなぜかとても心地良い、不思議なことに。そしてルカ、私は何事にも期待はしない主義なんだ、覚えておいてくれ。そなたが穏やかに過ごせれば、私も、そして国民皆も嬉しいと思ってくれれば良い」


 それから口の端を上げてクールに笑いながら、


「好きなものを食べなさい。遠慮する必要はない。そなたは我が国民ではないのだから、私の顔色を伺う必要はない」


 そうか、分かった。高慢そうな、尊大な態度に見えたけど、そんなことないんだ。見た目と中身のギャップを感じる。

 ホッとして、お礼を言ってフルーツサンドを食べた。とっても甘くて美味しい。この国の食べ物は、元の世界とほとんど同じだから、食べてるとホッとするんだよね。


 ガウディ王は紅茶を飲んだ後、また音もなく立ち上がって私の方に歩いてきた。音もなく。猫人みたいな動きって言ったら絶対気分を害するだろうから言えないけど、音もなく動くところが似てる。


「そなたが、穏やかで楽しいと思う暮らしをすることが、ジーアスにとっても一番良いことなのだろう。だから私はそれを支えよう。さぁ、せわしないが、もうお別れの時間だ。ルカは好きなだけゆっくりして行きなさい」


 そう言って、私の頭をさらりと撫でると、ガウディ王は音もないのにすごい速さで歩き去って行った。

 茂みから、護衛騎士らしき犬人たちもついて行く。みんな足音がない。


 控えていたウィルがそばに来て、


「足音がしなくてビックリでしょう? アフガン・ハウンドは皆んなそうなんですよ。僕も敵わないほどの美貌の持ち主ですし!」

 そして、めんどくさがり屋だけど、見た目ほどには冷たくない、と小声で付け加えた。


 想像と真逆を行くような王様だった! 綺麗な見た目もだし、冷たい感じなのに親切な態度も。

 それに、私の気持ちを尊重してくれた。もっとあれこれ聞かれるかと思ったし、何か重い期待を背負わされるんじゃないかって不安だったけど、杞憂に終わった。


「ウィル…良かったけど、どっと疲れたよお」


 慣れないドレスに緊張しっぱなしの王都入り。

 私はうーんと伸びをした。

 ウィルがきょろきょろと辺りを見回した後、私の頬に手を伸ばしてきた。


「こんなに美しく着飾っているルカ様を見ると、誘拐したくなっちゃいますね! でもお疲れのご様子ですし、誘拐はまた今度にしましょう。今日は、もう予定はありませんから、宿木の館でゆっくりお休みくださいね」


 私の頬を撫でてから、すぐ手を離した。なんかあっさりしててウィルらしくない。また周りを気にしてるけど、見られたらまずい人がいるんだろうな。


 私が立ち上がろうとするとウィルがエスコートするために手を伸ばしてきた。手を掴んで立ち上がると、ウィルが私の耳元にこっそり呟く。


「ガウディ王があなたの髪に触れましたよね。あの方は潔癖症で自分以外の犬人に絶対触れない方なんです。だから、ビックリしました。でも、相手が王であっても、僕以外と浮気しないで下さいね」


 うわあ! 思わずウィルのことを叱りそうになったけど、なんとか耐えた。

 私から何かしたわけじゃないし! そんなこと言わなくて良いのに。


 やっぱりウィルはちょっと気持ち悪い。正直にそう思った。

ついに犬王国の王が登場しました。アフガン・ハウンドは、聖書の中に出てくる『ノアの方舟』で、犬という種族の代表として方舟に乗船したと言われています。

でもアメリカでは、カウチポテト族、なーんてあだ名をつけられるくらい、だらだらのんびりマイペースでもあるようです。


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