第二十一話・王都ファルカス
王都に到着しました、とウィルに告げられて。
飾り窓から見える外の景色が、どんどん変わっていく。
大きな大きな石垣が見えてきた。馬車が石橋を渡っているので、石垣の周りは堀になっているんだと思う。中世のお城みたい。城塞都市とかそういうのかな。
お城ではなく、王都自体が堅牢な石垣に守られていることがすごい。
門を越えると、騎士たちが列になって馬車を見送っている。ウィルは、さすがに隣に座っているのはまずいらしく、私の足元にひざまずいている。
窓の外に並ぶ騎士たちは、私の方を見てはいけないのか、虚空を見ている。でもその後ろで、たくさんの犬人たちが、喜びの混じった好奇の視線で私を見ているのが分かった。
「ルカ様、手を振っていただくと、みんな大喜びしますよ!」
ウィルに言われて、恥ずかしい……と思いながら、しぶしぶ手を振った。
その瞬間、爆発的な歓声が上がる。
私の方がびっくりして一瞬手を止めてしまった。でも、振ってないとダメだよね。また振り始めると、またしても歓声が上がる。
色とりどりの花を持った犬人がたくさんいる。
耳を顔つきを見て、あれはチワワ? あっちはマルチーズ? あの背が高いのはもしかしてゴールデン・レトリバー? あっちはスピッツかな? そんな風に見ていると、なんだかだんだん楽しくなってきた。
こっちの世界でも犬種図鑑ってないのかな。あるならぜひ見てみたい。
景色がまた変わって、整った庭園を抜けて行く。大きな噴水もあって、中央には、私が会った女神様の像があった。
しばらく走って、馬車が止まった。
馬車の扉がガチャッと開き、マゼラ大司教が現れる。
「ルカ様、僭越ながら、女神ファトゥム様を信奉する犬人の代表として、私マゼラが、ルカ様を王宮までお連れする栄誉に与りました」
かしこまりすぎて小さくなっているマゼラ大司教。ウィルはどうするんだろう? ひざまずいているウィルは、「行ってらっしゃい」と小さく声をかけてくれた。どうしようもないってことだよね。
私はマゼラ大司教のエスコートで馬車を降りる。
華やかなドレスや礼服で着飾った犬人たち、そして正装の騎士たちが、私とマゼラ大司教を出迎えてくれた。その数百以上はいそう。
私なんて旅装束のまま、質素な服装で、お風呂に入ったのも二日前だよ。
着飾っている犬人の女性たちの、華やかなこと……メイクもアクセもばっちり。気が引けて、顔を上げられない。
するとマゼラ大司教が、
「ルカ様は長旅でお疲れです。どうか、ゆっくりと体を休め、旅の不浄を清められて下さい」
と、私を連れて歩調を早めた。
「ルカ様」「ニンゲン様」と口々に言う犬人たちに苦笑いを返しつつ、マゼラ大司教に連れられて、白く豪華な作りの館に入って行く。
「ここは王宮内にある、貴賓をもてなすための宿木の館です」
マゼラ大司教が説明してくれる。
「本来ならば神殿にお連れしたいところなのですが、神殿より快適なこちらの館にご案内させていただきました」
そうなのね。マゼラ大司教は本当に残念そうに言ってる。
館に入ると、大きなホールがあって、十人ほどのメイド姿の犬人が控えていた。
「お前たち、ルカ様に粗相のないよう、誠心誠意お仕えしなさい」
マゼラ大司教が厳しい口調で言うと、一同が「かしこまりました」と合唱した。みんな小柄で可愛らしい女の子たちで、耳は立ち耳から垂れ耳まだ様々、毛色も尻尾の雰囲気も色々だった。たぶん雑種かなぁ。
マゼラ大司教は、「それではこの者たちが身の回りのお世話をさせていただきますので、後ほど」と言って早足に居なくなって行った。私がお礼を言う暇もないくらいせっかちに言ってしまった。うーん、シーズーってもっとおっとりしてる犬種かと思ったんだけど。
「ルカ様、湯浴みからでよろしいでしょうか?」
メイドさんがうやうやしく頭を下げてくれるけど、落ち着かない。気もそぞろに返事して、案内された場所についていく。
猫足ならぬ犬足のついた、白いバスタブがあるお部屋に案内された。バスタブからは湯気が上がっていて、ラベンダーの香りがする。
女の子なら誰しもが憧れるんじゃないかな、と思う、貴族の館のような場所で、オシャレなバスタブを前にしてる。
身一つで森に放り出されて、猪の化け物に殺されそうになったあの日から、大して時間も経っていないのにすごい格差だ。
メイドさん三人が待機していて、
「こちらへどうぞ」
と案内されるままに立つと、三人が私の服を脱がそうとしてきたので、びっくりして服を抱きしめる。
「私、そういうのに慣れてなくて! 自分で入れるので、大丈夫です」
そう言って遠慮すると、メイドさんたちは驚いたけど、耳をぺたんと倒して申し訳なさそうに下がってくれた。一人だけお部屋の隅っこに残って、後の二人は部屋を出て行ってくれた。
やっと人が減って落ち着いた。ささっと服を脱ぎ、バスタブに浸かる。ぬるめのお湯で気持ち良い。
思わずため息をついて、全身浸かる。すると、メイドさんが近くに来た。
「ルカ様、髪を洗うのはやらせていただけますか……?」
おずおずと申し出てくれる。私とほとんど変わらないような年頃の女の子に、こんな態度でこられても困るんだけどなぁ。
「もう少し、かしこまらずに接してくれるなら、喜んでお願いします」
そう言うと、メイドさんのお耳は、可愛らしい立ち耳に飾り毛がついているんだけど、ピン! と立って、たっぷりの長い毛が生えた尻尾がふりふり左右に揺れている。
「はい! 嬉しいです。では、これから髪を洗わせていただきます。その後に、全身のパックをさせていただいて、それからマッサージをして……」
「えっ!? そんなにやることがあるの?」
「はい!」
嬉しそうなメイドさんとは裏腹に、私はエステフルコースみたいなのをやってもらうことより、お腹が減ってきたことが気がかりになっていた。
そんな長々お風呂に入ってたら腹ペコになっちゃう……。
「あの、何か食べるものをもらったりって、できますか?」
私が遠慮がちに聞くと、メイドさんはにっこり笑ってくれて、「もちろんです!」と、少し離れたところにある石のテーブルのところへ行き、上に置いてあるベルを鳴らした。
すぐ他のメイドさんが来て、そのメイドさんに食べ物を早めにお願い、と伝えてくれる。
至れり尽くせりなのはとってもありがたいんだけど、私がどうしたいかとか関係なく進んでるんだよね。これからどうなっちゃうんだろう。
すっかり猫人が出なくなり寂しいですね。猫王国編までお待ち下さい。




