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第二話・転生直後、命を救われる

 目を覚ますと、真っ先に確認したのは、自分の体があるかどうか! ちゃんとある。黒い髪も、手も、全部ある。良かった、本当に女神様が言った通りに、転生したんだ。


 ほっとしたのも束の間、空は満天の星空で、辺りは鬱蒼と生茂る木々があるばかり。体が痛いと思って起き上がると、ちょうど木の根っこが首や腰に当たっていたようで。草と土がついた服を払ってみると、麻色のシンプルなワンピースに、白い刺繍がある服を着ていることが分かった。足は素足に柔らかいブーツで、素材のことはよく分からない。


「どうしよう……こんな森の中で一人きり。どこに行けばいいの? 女神様、聞いてますか?」


 独り言をそのまま女神様に投げてみるけど、聞こえてくるのは夜の森のささやきだけ。葉が揺れる音と虫の鳴き声だ。どうしよう、すごく困ったけど、とりあえず道を探して歩いてみよう。


 歩き出してみると、草が倒れてできた獣道を見つけた。月明かりでも充分明るいのはありがたい。でも足跡が妙に……大きい。人の三倍はありそうな。しかも獣の強烈な臭いが風に運ばれて漂ってきた。


「うっ、臭い」


 思わずうつむいて手で鼻を塞ぐ。すると、近くからガサガサと茂みが鳴り出した。やばい、声出しちゃったから何かに気付かれた! とはいえ、現代日本でのんびり育った高校生にはサバイバル知識なんてこれっぽちもないから、どうしていいかなんて分からない。


 とりあえず音を立てないようにその場で固まる。でもガサガサという音は大きくなってきて、合わせて豚の吐息のような鼻を鳴らす音が聞こえてきた。獣臭がますます強くなり、顔をしかめて鼻を塞ぐ。見つからないようにその場に静かにしゃがみこんだ。


 ついに茂みが二つに割れて、臭いと鳴き声の主が姿を現した。私との距離は3メートルない。そこには月明かりに照らされて、人間の数倍はある、巨大な猪の化物がいた。赤茶色の体毛はゴワゴワそうだし、見るからに不衛生そうな体。口元は長くて鋭い牙が2本、傷だらけで血がついていて、すごく怖い。赤く光る目はギロリと私を見ている。

 そう、私を、見ている!

 これ絶対、獰猛で命の危険がある化物だ。現実離れした巨大な体躯と、私を見る目が、獲物は逃がさない、と言っているようで。足がすくんで、動けない。私の足じゃ、絶対逃げられない。


 せっかく転生したのに、もう死ぬの?!


 と、頭の中で悲鳴を上げたとたん、猪はこっちに向かって一歩踏み出す。心臓が跳ね上がり、もうダメだって両手を握りしめた。


 その時。私の目の前に、白く輝く人影が音もなく舞い降りてきた。

 しなやかな体つき、見たことのないような綺麗な銀髪。すらりと高い背丈に、肩に触れるくらいの銀髪が揺れている。灰色のズボンのお尻から、ふさふさの銀色の長い尻尾が揺れている。

「わぁ……」

 尻尾にびっくりして声を漏らすと、その人はくるりと私を振り返った。頭の上には白い切れ長の三角の耳が2つついていて、ハリウッドのイケメン俳優もびっくりなほど端正な顔立ち。大きく切れ長な目は、なんと水色と金色で左右違う色。年は20歳前後だろうか。


 猪は大きく鼻を鳴らして、今にも突進しそうな姿勢になる。私は焦って立ち上がるが、その人は猪の方を見つめながら、


「ちょっと待ってろ」


 柔らかく甘い声で呟いた。次の瞬間、その人は猪に向かって飛び上がる。

 しなやかで素早い動き、空中で体がねじれ、威嚇しようと頭を上げた猪の脳天を、掌の中のナイフで一刺しする。ナイフが刺さる音だけが大きく響いた。

 猪の脳天からまたひらりと飛び上がり、その人は音もなく私のそばに降り立った。

 血のついたナイフを近くの葉で拭い、くるりと私を振り返る。


「俺は猫種属のコノエ。お前、ニンゲンだろう?」

 

 毛に覆われた耳は、先端が切れ長で、今は右が私に、左は周りを向いている。さすが猫、辺りを警戒しているのね。ふさふさの尻尾はゆっくりと左右に揺れていた。

 懐かしい猫の所作になんだか緊張が和らぐ。と言っても目の前にいるのは猫じゃなくて、この世のものとは思えないイケメンの人型猫なんだけどね。私は一緒に暮らしていた犬や猫たちのことを思い出して一瞬だけすごく懐かしい気持ちになった。でも、質問されていたことを思い出す。


 あなたはこの世界で唯一の人間として転生してもらいます、って言ってたような。

 なので、コノエと名乗ってくれた人の目を見ながら、ゆっくりと頷いた。


「助けてくれてありがとう、私は人間のルカ。女神ファトゥムに頼まれて、この世界にやってきたの……実はまだこの世界のこと何も知らなくて」


 私はコノエを見つめながら、言葉が通じて良かったことや、もしかしてこの世界ズーアスって、人型の猫たちが暮らす世界なのかなと考えを巡らせる。

 じっと見つめていると、コノエは一瞬ふいと視線を逸らした。そこではっと気付く。猫は目をじっと見られるのは苦手な生き物なのに、やってしまった。


「ごめんなさい、敵意があるわけではないの、人間は目を見て話すのが習慣で」


 謝って、コノエの額を見るように話す。すると、口元の端だけをほんの少しあげて彼は笑っているようだった。こんなに顔が整っていると、どんな表情でもかっこいい。

 

「ようこそ、ルカ。猫種属と犬種属の世界ズーアスに。このままここにいるか、俺についてくるか、どうする?」


 コノエは足音を立てず、数歩歩いてから、私を振り返った。目をじっと見た無礼については許してくれたみたい。

 お尻で揺れる尻尾を見ながら、ちょっと面白がってるみたい、と思った。


「ちょっと待って、犬もいるの? 猫と犬の世界なのね……?」


 こくりと頷くコノエ。まさか、まさか犬と猫が人型で生きている世界に転生するなんて! 女神様が、いたずらっぽく笑いながら、私のよく知る生き物がいるとか言ってたような記憶があったけど、そういうことなのね。産まれてからずっと、犬と猫が家族としていた生活を送っていたから、私にとっては家族同然、すごく身近な存在。


 私がぐるぐる考えていると、コノエは首を傾げてから、急かすようにまた数歩歩き出した。


「一緒に行く! このままここにいたら命がいくつあっても足りなそうだし、あなたは命の恩人だから、何か恩返しもしたいし」


 慌てて声をかけてコノエに駆け寄る。そんな私を見て目を細めるコノエ。これは、出会ってすぐなのに、私のことを信用してくれてるんだ。

 猪からも守ってくれたし、猫らしく無口で気ままだけど、転生して初めて出会ったのが彼で良かった。


 音もなくしなやかに歩くコノエの後ろ姿を追いながら、耳と尻尾を見て、本当に違う世界に来たんだって実感した。彼は少し離れては速度を落として私を待って、追いつきそうになるとまた離れて、と、私を誘う猫そのままに、夜の森を2人で歩いた。


隙間時間を縫って書いています。まだ小説を書き慣れないので、時間もかかるし、不安もありますが、楽しく書けたら一番と思ってがんばります。

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