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第十五話・ショッピングと馬車

 石鹸ことアワワを買ったあと、興奮気味のウィルに連れられて洋服店に入った。


 作りかけのような服が、色毎に分けられて並んでいる。

 ウィルは白い服のところに行き、いくつか手に取って私に当ててみたりしている。


「やっぱりルカ様の神聖なイメージには」


 ひらりと服を当ててはやめて、違うのにして。


「こういう感じですね。とはいえ街の洋服屋には荷が重い。王宮に着いたら服飾師に仕立てさせましょう」


 話しながら、当てていた服のうち三枚を手に取る。

 私に選ぶ権利がないのかな? まあお金を出してくれるのはウィルだから構わないけど……。


 ウィルは店の奥の店員を呼んで、服を私に合わせるように言った。店員は私に服を当てながら、いくつかの箇所にまち針のようなものをつけていく。


「もしかして私のサイズに仕立ててくれるの?」


 興味津々に聞くと、白いサラサラの耳をした店員の女の子がこくりと頷く。尻尾も白くて毛足が長く、その毛を三つ編みにして飾っていてとても可愛らしい。


 ウィルが私の肩に手を置いて、

「犬王国では、洋服を買う時にその犬人のサイズに合わせて仕立て上げるんですよ」


 と、自分が仕立て上げるわけではないのに偉そうに言う。

 あっという間に三着とも体に合わせるのを終えた店員が、服を持って奥に行く。


「さ、縫い上がるまでに靴の替えも買っておきましょう」


 隣が靴屋で、建物の中でつながっていたので、靴屋に移動する。いろんな色の革靴や布靴がそろっていて、見ているだけで楽しくなる。


「軽いのが欲しいな。これとかどう?」


 焦げ茶色のロングブーツを手に取って見せる。柔らかい革でできていてとても軽い。靴底はしっかりと硬い素材でできていた。


「良いですね! 本当ならもっと可愛らしいものを贈りたいのですが、それは王宮に着いてからドレスと一緒に贈りますね」


 ドレスなんて着るの? と思ったけどウィルがめんどくさいので黙っておく。ウィルは靴の支払いを済ませてくれて、また洋服店に戻っていった。私も後からついていく。


「終わりました、お客様、ニンゲン様。私の人生で、ニンゲン様の洋服を仕立てることができるなんて、誇りに思います」


 白耳の店員が嬉しそうに三着を抱えて待っていた。さっきは真剣な顔をしていて愛想がないように思ったけど、今は頬を紅潮させてあふれんばかりの笑顔だ。


 きっと、さっきは緊張してたのね。そう思うと可愛く思って、私より背が低く可愛らしい店員の子の頭を撫でてしまった。


「わあ、ありがとうございます!」


 尻尾がすごい勢いで揺れている。頭を撫でられてとっても嬉しそう。ウィルも傍でニコニコ見ている。


「洋服、ありがとう。大切に使わせてもらうね」


 私もニコニコ答えて、ウィルに支払いをしてもらい店を後にした。ウィルと、馬車が待っている場所に向かって歩き出す。

 ウィルがチラチラ私を見て何か言いたげな顔をしている。


「どうしたの、ウィル?」

「あのー、さっき店員の子にしていたやつ、僕にもしてもらえませんか?」


 わくわくした顔で、自分の頭を指差してウィルが甘えてくる。またしてもこの男は、懲りないなあ。


「ウィルがお利口にしたら撫でてあげるけど、何もない時はしないよ!」


 そう言い放つと、ウィルはがっかりして黙った。ふぅ、静かになって良かった。ウィルってば、ずーっと私の周りで嬉しそうにまとわりついてるんだもん。

 それが犬サイズなら良いけど、多分170センチは超えてる好青年がまとわりついてくるのは、ちょっと気持ち悪い。


 ウィルには申し訳ないけど、ちょっとしつこい。落ち込んでもすぐ元気になる鋼のメンタルも、なおさら安心して冷たくできると思っちゃう。


 馬車が数台止まっている、広場に着いた。

 数えると、六台もの馬車が止まっている。それぞれ馬の数や荷台の大きさが違う。猫王国から乗ってきたような馬車が一番みすぼらしく、他の馬車はどれも造りがしっかりしている感じだった。


「あの馬車を手配しました。お気に召していただけたら嬉しいのですが」


 ウィルが指し示したのは、一番豪華な馬車だ。馬は六頭。荷台は装飾を施してあり、扉がついた個室タイプのものだ。御者も一番身なりが整っている。


「わあ、猫王国から乗ってきたのと全然違うね。すごく、なんていうか、豪華……」

「猫どもは馬車を作る技術や根気がありませんからね。ほとんど犬種属が使ったものの払下げ品です。この馬車なら少しは快適に移動できると思います」


 猫人には技術も根気もないのかしら。そういえば住まいや街並みも大違いだけど。でも私の知ってる猫はすごく知的だったけどな。労働は嫌いで好きなことをしていたいタイプだから、なにかをコツコツ作るのは向かないとか、そういうのがありそう。


 ウィルが馬車の扉を開いてエスコートしてくれる。

 扉の中には、ふかふかしていそうな座席に、小さなテーブル、そして照明や窓もあった。

 すごく快適そう。内装も装飾が施されていて、高級感がすごい。


「王宮の馬車に比べるとかなりしょぼいんですけどね。少しの間、この馬車で我慢していただけますか?」

「えー、我慢なんてとんでもない。すごく快適だよ、ありがとう」


 座るとふかふかで、とっても心地よい。四人くらい座れそうな広さがある。

 私のありがとう、という言葉にウィルは素早く反応して、向かいに座ると、ぐいっと頭を向けてきた。


「なでなでを所望します」


 し、しつこい! 本当にこんな甘えん坊が騎士団の副団長をやってるのかな、不安になるわ。

 私はため息をついて、ささっと頭を撫でた。ウィルの尻尾がピクピク揺れている。


「はあ、至福の時でした。さて、ルカ様、御者に言って荷物を揃えさせますので、少しだけお待ちください」


 にやけていた顔をさっと引き締めて、御者に声をかけてテキパキと指示を出す。そうしてれば変じゃないのにね。

 食料や夜営に必要なものの確認と、足りないものを買いに行くよう指示を出して、終わるとまた私の向かいに腰を下ろした。


「準備が整い次第、出発いたしますので。ルカ様は何か他に欲しいものはありませんか?」


 うーん、着替えと石鹸、タオルがあれば十分……と思ったけど、ウィルを見てふと思いつく。


「おやつは? おやつって、この世界にもある?」


 犬にはおやつ。子供の頃、仲良くなったり、しつけをするのに使ったなあ。と思って聞いてみた。

 ウィルはにこにこして、腰のベルトから小さなポーチを出して見せてきた。


「ここに少しはあるのですが、ルカ様は何かお好きなおやつはございますか?」

「ウィルの持ってるのはどんなおやつ?」

「クッキーです、美味しいですよ。王都にあるパティスリーのものなんです」


 見せてくれたのは、王冠の形をした小さなクッキーだった。ただ、持っている量がかなり少ない。

 

「ウィルはこんな少しで足りるの?」


 聞くと、ウィルは困ったように耳をかきながら、

「食欲が無限にありまして、好きなだけ食べるとすぐ太ってしまうんです。騎士は体重管理が厳しいので、あまり食べないように気をつけてるんです」


 と、悲しそうに呟いた。クッキーを見る目がウルウルしている気がする。うーん、彼の前でおやつを食べるのはやめてあげよう、それか、嫌がらせしたいときに食べよう。


 とりあえずおやつはクッキーを分けてくれるというのでオッケーした。ウィルと食べ物の話をしているうちにあっという間に時間が過ぎて、御者が戻ってきて、出発を告げた。


ショッピング。強引な男子と行くとなかなか楽しめませんよね。ウィルはかなりマイペースな男子のようです。


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