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第十四話・犬の正しい叱り方

 翌朝、目が覚めると、ウィルはベッドの下で横になっていた。

 夜通し、警戒して守っていてくれたんだ……なんて、優しい気持ちはちょっと置いておいて。


「ウィル、おはようございます。起きてください」


 私が低い声で声をかけると、ウィルは、うぅーん、と声を漏らしながら起き上がった。寝起きも爽やかな彼の整った顔と、にこにこ笑顔が、今は腹立たしいとさえ思える。


「おはようございます、ルカ様。よく眠れま……」


 私は両腕を組んで、どすんとベッドに腰掛けた。ウィルはぎょっとして口をつぐむ。


「ウィル。昨夜、敬語はやめてって言いましたよね? なので、敬語は今からやめます、良いですか?」


 私が有無を言わさない強い口調で言うので、ウィルは目を丸くしてコクコク頷いた。耳が気持ち後ろに垂れている。ちょっと怯えているみたい。

 でもね、ちょっと怯えるくらいじゃ全然足りないの!


「ウィル! あなた昨夜、寝ている私にキスしたでしょ!? そういうことは、ちゃんと許可を取ってからにして!」


 私が大きな声で言うので、ウィルはびっくりして小さくなり、尻尾もお尻の方で小さく丸くなった。


「あの、でも、僕たち犬種属にとってキスは愛情表現で……」


「私は、違う世界から来たの! それは分かってるよね? ウィル。自分の魅力に気づいてほしいと思うなら、私が喜ぶことをしてほしい。今は私は喜んでるように見える?」


「いえ、怒ってらっしゃるように見えます……」


「そうだよね。怒ってるよ。私、昨日一回キスを止めたよね? それなのに寝ている時にまたするっていうのがダメなの。これからは、ちゃんと私がそうしてほしいって願った時にしてほしいの、分かった!?」


 最後の方を強い剣幕で言うと、すっかりしょぼくれたウィルが、

「はい、すみませんでした……嫌いにならないでください」

 と今にも死にそうなほど落ち込んで呟いた。


 分かったならよろしい、を私は毅然とした態度で言った。それから、がっくり肩を落としているウィルに、


「あなたの思いやり、優しさはすごく感じているよ。一晩中守ってくれてありがとう」


 と伝えると、ばっと顔を上げて、うるうるした瞳で見上げてきた。

 わぁー、今にも捨てられそうな子犬の目をしてる。


「これからもおそばで守らせていただけますか……?」


「もちろん、お願い。でも、私がダメってことはしないこと! この約束は守ってね」

「はい! 牙にかけて誓います! もうルカ様がダメっていうことはしません」


 片膝をついて、騎士の誓いみたいなポーズのウィルが、一生懸命、尻尾を振っている。

 心の中で、可愛いなぁと思ったけど、それは絶対顔には出さないことにする。出しちゃうと、絶対叱ったこと忘れてまた調子に乗りそうだもん。


 とりあえず、しっかり叱ったから、伝わったみたい。

 思い出すなぁ。私が産まれた時、もう家にはたくさんの犬猫がいて、その子たちがお兄ちゃん、お姉ちゃんだった。犬は大型犬から小型犬まで七匹もいて。両親が動物が大好きで、いつも家に犬猫がいる人生だった。


 犬種によって性格が全然違ったり、ケンカする子、叱ると逆ギレする子もいたけど、きちんと叱ると受け入れてくれた。猫もいたから、猫にいじわるいしないように、とか、ケンカはダメって、子供の頃から犬に教えて生きてきた。


「じゃあウィル、一緒に朝ごはんを食べて出発しましょ」


 私が促すと、ウィルはようやく騎士スタイルから立ち上がった。とっても整った顔の爽やか好青年なのに、中身が犬だとこんな感じなんだなぁーと思うと複雑な心境。17歳に叱られてうるうるするってどうなのよ。

 好き好き! って懐いてくる感じはいかにも犬っぽいけど。

 人の姿だけど中身は犬だと思えば、そんなに嫌な気もしない……かもしれない。


「ここの朝ごはんは、卵料理が絶品なんですよ!」


 私をエスコートしながらウィルは嬉しそうに喋り出した。

 またおいしいご飯が食べられるんだ、と思うと私も笑顔になる。一階の食堂に行き、ウィルが料理人に声をかけて朝食の準備をしてもらった。


「今日から、馬車で首都ファルカスに向かいます。三日ほどの道のりになります。馬車は途中までは街で手配したものになりますが、王都から迎えの馬車も来る手筈になっていますので、途中で乗り換えることになります」


 夜営もあるのね。ウィルが、快適に過ごせるように少し買い物をして出かけましょう、と言ってくれた。


 よく考えなくても、私は服が一着しかない。靴も。カバンはコノエがくれた小さなものだけ。


「ルカ様の着替えや靴の替えも買いましょう。そのカバンはぼろい上に猫くさくてかなわないので、捨てましょうか」


 ウィルがカバンに手を伸ばしてきたので、とっさにカバンを彼から隠すように持つ。

 このカバンはコノエがくれた大切なものだから。


「これは思い入れがあるので捨てないよ! 猫くさいなら洗えばいいでしょ」


 仕方ありませんねえと渋々頷くウィル。私がダメって言ったことはしちゃいけないって教えたばっかりだもんね。


 お待たせしました、と朝ごはんがテーブルに届いた。ふかしたじゃがいもに、スクランブルエッグのようなふわふわの卵焼きが乗っていた。お好みでミルクのソースがついている。優しい味で、ほんのり甘くて美味しかった。


 二人で美味しいねと朝食を食べたあと、部屋に戻り荷物をまとめて出発した。


「ルカ様のお洋服を見に行きましょう!」


 軽い足取りでご機嫌のウィル。ウィルと私を見る街の人々は、目が輝いていた。時々、女神様の使いだ! と私を見て騒ぐ犬人もいた。


 猫王国の国境の町ビラタは、お店も少なく、人気もなく、規模が小さかったのに、この街、ワータは堅牢な石造りと、上部が木造の家が立ち並び、路面はほとんどがお店になっている。看板もたくさん出ているし、お店は開口部が広くて店内がよく見える。


 歩きながら見えたのは、干した野菜や肉が売っている店、調味料かな、瓶詰めのものが売っている店。それにタオルや革製品の小物が並んだ店。それから……


「あっ! ウィル! 止まって」


 私があるお店の前で足を止めると、ウィルも慌てて止まって、お店を覗いた。


「アワワが欲しいのですか?」

「あ、アワワ?」


 ちょっと何言ってらのかなと思って聞き返したけど、ウィルはきょとんと大真面目な顔をしてる。


「お風呂で体や髪を洗うやつ、アワワって名前なの?」

「そうですよ。ルカ様はなんで呼んでるんですか?」

「石鹸だよ」

「セッケン……なんだかしっくりこないなあ」


 ウィルは首を傾げながら、店内に入って大きな色とりどりの石鹸の玉を見ている。


 アワワって、泡泡ってことかな? だとしたら可愛い呼び方。大真面目にアワワアワワ言ってるのを見たら、笑いを堪えられる自信がないわ。


「ルカ様! これ、良い香りですよ。あなたにとても似合うと思います」

 

 ウィルが薄紫色の玉の前で私を呼んでいる。私も嗅いでみると、ラベンダーの香りに似ている匂いがした。


「本当だ。これ良い匂いだね」


 同意すると、ウィルは尻尾をぶんぶん振り、店員に、これ旅用にください、と言ってくれた。


 店員は慣れた手つきで、丸い玉をナイフで削り、削りカスを袋に詰めていく。なるほど、細かく削いだものの方が早く水に溶けるから、旅用にみんなこうやって持ち歩くんだ。


 コノエといるときは石鹸なんて無かったから、たぶん、犬王国にしかないんだろうな。


 ウィルがお会計も済ませてくれたので、感謝を伝えると、ウィルは私の横にぴったりくっついて、


「この香りをまとったルカ様、良い香りなんだろうなあ。ああ、想像しただけで……」


 とよだれを垂らしている。

 私はさっと離れて、冷たい目でウィルを見つめ続けた。

ついに犬のしつけ、始まりました。


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そして、ブクマに入れてくださったり、★をつけてくださった方、本当にありがとうございます!

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