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第十三話・早すぎる告白

 お風呂あがりの私を見て、ウィルが大興奮したのは、本当にびっくりした。

 見た目もそっくりそのまま犬だったら許せるけど、犬耳と尻尾をつけた長身の美青年が、よだれを垂らしながらはぁはぁ言って私を見てるんだもん。


 見た目が良くても、正直、変態なのかなって思っちゃうよね。私の目線が冷たいって気づいたのか、慌てて口元を拭いたウィルが、


「これは! 違うんです。ルカ様の香りが、犬種属には無い、すごく良い香りなんです。初めて嗅いだのですが、本当に心地良く……」


 そう言いながらすり寄ってくる。ヴァイスのすり寄り方と違って、なんか全身でくっついてくる感じ。


「あの! ちょっと距離感が近すぎます、ウィル。離れてください」


 思い切って言うと、なんと頭の上の耳がしょんぼりと垂れ、左右に揺れていた尻尾も下に落ちて動かなくなった。


「申し訳ありません。はしゃぎすぎてしまいました。さ、ルカ様、お部屋にお連れいたします」


 しょんぼりして明らかに声のトーンが低い。ついでに言うと声のボリュームまで小さい。なんてわかりやすいんだろう。ちょっと面白すぎて笑ってしまう。するとパァッと明るい顔でウィルが私を振り返ったので、


「まだ怒っていますよ!」


 と言ったらまた耳と尻尾がしょんぼりした。

 宿の部屋について、ウィルがエスコートしてくれる。ベッドと鏡台があり、ベッドに腰かけると、見た目よりずっとふかふかしていた。


 ウィルは部屋の入り口で片膝をついてしゃがみ、私に一礼する。


「ルカ様、お休みの前に少しだけお話を伺ってもよろしいでしょうか?」

「どうぞ」

「僕と出会うまでの間に何があったのかを聞いてもいいですか?」


 うーん。私は濡れた髪をタオルで拭きながら、コノエとヴァイスや、二人の村のことは言わずに、親切な猫種属に助けてもらい、犬王国へ行くよう勧められたこと、乗り合い馬車がある町まで案内してもらったこと、馬車代ももらい、お礼を言って別れたことを話した。


 話しながら、二人のことを思い出すと、寂しくて胸がぎゅっとする。ヴァイスのふわふわの頭と耳や、コノエの綺麗なオッドアイ、それに抱きしめてくれた腕の感触……は、恥ずかしい。


「そうだったのですね。ルカ様、先にお話ししておきたいのですが、犬王国は女神ファトゥム様を信仰しており、ニンゲンは女神様の使い、つまり神の使いとして崇められています。僕も子供の頃から女神様とニンゲンの事を教え聞かされて育ちました」


 それはすごい。歴史の中で一番大事なところなのかなあ。私はピンと来ないけど。


「明日、ルカ様を王都ファルカスにお連れいたします。王族や宰相など、皆から盛大な歓迎を受けると思います。僕も、ルカ様がこうして目の前にいてくださって、本当に嬉しいんです」


 おもむろにベッドの足元まで来て、ベッドに腰掛けている私の手をぎゅっと握るウィル。手を握られるの何回目だろう……ウィルの中では挨拶がわりなのかな。


 そのまま私の手にうやうやしく口づけをする……と思ったら、ペロンと舐めた。

 舐めた。うわぁ! 見た目が耳の生えた人間だから、ちょっとこれは衝撃。

 私が明らかに引いているのを見て、ウィルの瞳がウルウルし出す。


「どうかお許しください。ルカ様の香りやしぐさを見ていると、自分を抑えられなくなるんです」


 本当にすいません、と私の手を離し、頭を垂れて平謝りするウィル。ころころと変わる表情や、真っ直ぐすぎる行動が、見た目とマッチしていなくて、私もどう対応したらいいのか全然分からない!


 困っていると、ひたすら謝ってくるので、さすがに哀れに思い、下がったままの彼の頭に手を置いた。

 そのままそっと撫でる。


「ビラタで猫衛兵に見つかりそうになった時、あなたが助けてくれて感謝してます。ウィル、ありがとう。美味しいごはんに、素敵なお風呂も」


 言いながら撫でると、ウィルは片方の手で私の手を掴み、顔を上げて、私の手を自分の頬のあたりに持っていった。


「ああ、ルカ様。伝えるべき時を考えていたのですが、もう我慢できないので、お伝えします。あなたが好きです」


 ーーん? 好きです?

 ウィルの頬はうっすらと紅潮していて、耳はピンと私を向き、尻尾はゆるやかに床の掃き掃除をしている。

 私が人間だから、神の使いって言われてるから、好きで好きで仕方ない、っていう感じだわ。

 そう思うと納得できた。


 私はにっこり笑って、ありがとう、と伝えた。


「色々話せて嬉しかったです。そろそろ休んでも良いですか?」


 ウィルははい、と明るく返事をして、なぜか、そのままベッドサイドの床にどすんと座った。


「あれ? ウィルのお部屋は隣とかじゃないんですか?」

「夜間の警備もありますから、おそばにいさせてください」


 おそばって……私が寝てるベッドの真下でずっと起きてるつもりなんだろうか。

 あんまり気にしないようにしなきゃと思うけど、どうしても気になってしまう。


 ウィルの盛り上がりっぷりと言ったら。コノエと出会った時や、サバディアにいた時と雲泥の差だわ。ちらっとウィルを見ると、後ろ姿しか見えないが、耳はちゃっかり出来る限りの角度でこっちを向いていた。


 こんな状況で眠れるかなあ。小さくため息をついてベッドに入る。するとウィルがベッドサイドにやって来て、私の顔を見てにっこり笑う。


「ルカ様、もし眠れないようなら僕が子守唄でも歌いましょうか?」

「えっ? 子守唄はさすがに……もう子供じゃないですし」

「そうですか」


 しょんぼりするウィル。いやいや、昨日今日出会った青年に、子守唄いかがですかって言われても、普通断ると思うんだけど。ウィルは私の頭をなでなでしてから、顔を近づけてきて、


「わっ、なんですか?」


 私が焦って顔を隠そうとすると、その手をそっと両手で押さえて、私の額にキスをした。


「明日起きたら、僕に敬語はおやめ下さい。それから、好きって言ったお返事ももらえると嬉しいです。おこがましいかもしれませんが、僕も蒼騎士団の副団長で爵位もあります、ルカ様の尊いお立場を考えると、非常識なことかもしれませんが……それでも! 僕は、ルカ様に恋をしてしまったんです」


「えぇ!? 私たち出会ったばかりなのに、気が早くありません!?」


 さすがにびっくりして言い返した。額にキスされたのもびっくりしたけど、それどころじゃない、彼の言っていることが理解不能すぎて。そうすると、ウィルはにこにこして私を見つめた。


「恋に落ちるのなんて、一瞬のことですよ」


 そう言って再び額にキスしてこようとしたので、必死に両手でガードした。力が強いけど、私が嫌がっていることが分かると、諦めて引いてくれた。


「まだジーアスに来たばかりで不安も多いかと思いますが、これからは、ずっと、僕がお守りいたします。そして、僕の魅力にも、だんだん気づいてもらえるかと思います」


 にっこりしている、爽やか好青年のウィル。

 私は困って、「おやすみなさい!」と言って布団をかぶってそっぽを向いた。


 すごいぐいぐい来るんだ、犬種属って……。音もなくそっと寄ってくる猫種属と全然違う。困ったなぁ。

 しばらくウィルの気配がするたびにまた何かされるんじゃないかってドキドキしていたけど、そのうち、馬車での長旅の疲れからか、気を失うように眠りに落ちた。


「おやすみなさい、僕の愛しいルカ様」


 眠りに落ちる寸前に、ウィルがまたキスをしようと来た気がしたけど、眠気が勝った。

 

 でも、起きたら絶対叱らなきゃ。どうやって叱ろうか……。

犬の愛はストレートで暑苦しいですよね。


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