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第十二話・ウィルと犬王国ごはん

 ウィルに連れられて、犬王国の国境の街ワータにある宿、『尻尾が止まらない亭』にやって来た。

 その犬ならではの可愛すぎるネーミングに、私の気持ちも軽くなる。これが猫王国だったら、尻尾が止まらないって怒ってるか獲物を狙う時なんだけどねーと思うと一人で笑いがこみ上げて来てしまって。


 そんな私を見てウィルもにこにこ。


「この店はとっても美味しいんですよ!」

「何が美味しいですか?」

「なんでも!!」


 宿の入り口は食堂になっていて、食堂のカウンターで宿を予約するシステムらしい。

 食堂は四人がけくらいの大きさのテーブルが六つもある。猫王国で見てきた村や町と、建物や家具の作りが根本的に違う! こちらの方が堅牢でしっかりした作りで、建物も大きい。

 マントをとったウィルは、白地と青地半半の生地に、金の刺繍が入ったかっちりした服を着ていて、たぶん騎士団の制服なのかな。マントで見えなかった彼の尻尾は、髪と同じ黒と白とグレーが入ったマーブル色で、毛足も尻尾自体も長くふさふさだ。


 知的なスポーツマンと言った感じの、爽やかな笑顔。いつ見てもニコニコしてる。猫人たちは滅多に笑わなかったから、ちょっと新鮮。


「僕の顔に何かついていますか?」


 きょとんと目を丸くして私を見つめ返すウィル。


「ウィルさんがとっても明るくて、いつも笑顔なので、なんだかホッとしてます。実は私、まだジーアスに来てから一週間も経ってないんです」


 だから何も分からなくて、ごめんなさい、と言うと、ウィルはパッと立ち上がって、私の手をいきなり包み込むように両手で握ってきた。


「ウィルと! 呼び捨てにしてください! ルカ様、僕の取り柄は明るさなんです。それがルカ様のお役に立てるなら嬉しいです。そして、ルカ様、何も心配せず、安心して僕にお任せください」


 ウィルの水色の綺麗な瞳がキラキラしている。好青年に手を握られてちょっと恥ずかしい。私が握られた手を見て困っていると、

「これは失礼いたしました! ご無礼を」 と慌てて手を離してくれた。


 出会った時から、なんか距離感の近い人だなと思っていたけど、たぶん犬種のせいかな? オーストラリアン・シェパードって言ってたもんね、私の予想が的中したのは嬉しい。


 そうこうしているうちに、料理人らしき人が、お待たせしました! と笑顔で料理の数々を運んできた。


 見たところ、ハンバーグチーズソース、クリームシチュー、何かの肉が添えられたサラダ、ジャーマンポテト、それにニョッキみたいな白くて丸いものにトマトソースがかかってる。見た目は間違いない。異世界だから、味が全く違うかもしれないけど。


 香りもびっくりするほど同じで、まさか私がいた世界と同じ料理が存在するのかな?


「さぁ! ルカ様、好きなだけ召し上がってください。ここの料理は美味しいんです! 実は僕、和平使節団の馬車じゃなく、猫王国の乗り合い馬車に乗ったのは、ここワータの『尻尾が止まらない亭』のご飯を食べたいと言う理由もあったんですよ」


 悪戯っぽくワン笑うウィルの顔は、とっても親しみやすくて人を惹きつける感じがする。私もつられてニコニコしてしまう。


「他のお二人はどこへ行ったんですか?」気になっていたことを聞いてみる。

 

「あ、二人には先に王都ファルカスに向かってもらったんです! ルカ様の降臨を一刻も早く王に伝えなければと思いまして」


 なんと、そんな大事になっていたのね。私はのんきにウィルと食事してるのに。さっきから降臨って言うけどそんな大そうなものでもないでしょうに。


 これからどうなるんだろ。コノエたちといた時はのんびり暮らせて良かったなあ。これからは全然違うことになりそう。さっき人間ってわかった時の、道ゆく犬人たちの騒ぎっぷりといったら。

 まあ、一番大騒ぎしてるのは目の前のウィルだけど。


 ウィルは私のために取り皿に料理を取り分け、私の方に並べてくれる。美味しそうなお料理。


「いただきます」


 トマトソースらしき赤いソースがかかったニョッキもどきを食べてみる。甘みとコクのあるソースで、酸味はほとんどなかった。トマトぽいけどもっと甘みがある。それにニョッキもどきは、正真正銘ニョッキだった。じゃがいもを練ったやつ。間違いない。


「美味しい! 猫王国にいた時はほとんど魚しか食べられなくて、あとは木の実とせいぜいふかしたじゃがいもだったから……」


 ちゃんとした料理が食べられて感激しちゃう。


「良かったです、ルカ様と出会えて。僕が使節団の馬車で帰らなかったことが、女神様のお導きのように感じます。あの性悪猫種属に捕まらなくて本当に良かった……ろくなものを口にされていなかったようですね、どうか好きなだけ召し上がってください!」


 性悪猫って……犬が猫への文句を言ってる姿を見てちょっと笑ってしまった。不謹慎だなと思ってすぐやめたけど。


 酸味や苦味がない以外はほとんど私の知っている料理と同じ味で、嬉しい気持ちが止まらない。あんまりがっつくと幻滅されるかなと思ったけど、そんなの忘れて、食べるのに夢中になってしまった。




 食事の後、二階にある部屋を案内してもらい、着替えをもらって浴場を案内された。時間入れ替え制らしいが、ウィルが今晩は私とウィルだけの貸し切りにしたそう。

 安全のためと、私のストレスがないようにって言ってたけど、本当に過保護すぎる……! こんな扱いを受けるような存在だって、自分じゃとても思えないよ。


 番犬と化したウィルが、浴場への扉の横を陣取り、アリ一匹通しません! とはりきるのを尻目に、ジーアスに来てから初めてお風呂に入った。


 木の香りがする浴場で、少し獣臭さはあったものの、そこそこ綺麗なお風呂だった。

 感激したのは、石鹸があった事! もう二度と出会えないと思っていた石鹸……心地良いアロマのような香りがした。ボールのように丸くて大きくて、それをこすって泡だてて髪と体を洗った。


 美味しいご飯に温かいお風呂。至れり尽くせりで、先の不安より、今の幸せを噛みしめる私だった。

犬は酸味や苦味は苦手なんですよね。

あんまりしょっぱいものを食べると、腎臓や肝臓にも悪いです!


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