第十一話・国境を越えて犬王国へ
馬に乗っていた時も思ったけど、私の体、なんだか丈夫になった気がする。馬車の揺れがひどい上に、座る場所はただの板で、こんなところに長時間揺られていたらお尻が痛くなりそうなものなのに、全然痛くならない。
「そろそろワータに着くぞ!」
御者が叫んでいる。猫人二人はやれやれと呟き、犬人三人は顔を合わせて笑顔になっていた。
ビラタを出る時に助けてくれた犬人、たぶんオーストラリアン・シェパードかシェットランド・シープドッグじゃないかなって私は勝手に思ってるんだけど、その彼が、私を見てウインクしてよこした。
愛嬌たっぷりの笑顔に、私もつられて笑顔になる。
ほどなくして馬車が頑丈そうな石垣を越えて、止まった。待ちきれずに猫人二人が飛び出して行く。
私は犬人三人が降りるのを待ってから、一番最後に馬車を降りようとした。すると、キレイな水色の瞳をした犬種属の青年が、馬車に乗る時と同じように、ニコニコしながら手を差し出して待っていた。
「ありがとうございます……やっと、お礼が言えますね!」
猫衛兵に目をつけられ絶体絶命だった時、助け舟を出してくれた青年。
彼は私を馬車から下ろし、道の脇の安全なところまで手を引いてくれた。そして、そのまま手を離さない。
「名乗るのが遅れて申し訳ありません、僕は犬王国の蒼騎士団副団長のウィリアム・クロスフリー」
ぴょこんと先端が垂れた可愛らしい大きな耳が、嬉しそうに揺れている。彼はそのまま片膝をつき、私を見上げる姿勢になる。
「あの……猫王国を出る時は本当にありがとうございました。私はルカです。あの、そんなかしこまらずに立ってください、ウィリアムさん」
焦りながら話しかけると、彼は首をぶんぶん振り、そのまま持っていた私の手を両手で包み込む。
「どうか、ウィルとお呼びください。ルカ様は、猫種属でも、犬種属でもありませんよね?」
ウィルは瞳をキラキラさせて、私の手をぎゅっと握ってくる。耳がもう少しで先端まで立ち上がりそうなくらいピクピクしている。
もう犬王国に入ったんだもん、正直に言って大丈夫……だよね?
「はい、お察しの通り、私は人間です」
そう言った瞬間、周辺の犬人々が動きを止め、一斉に私を振り向いた。えっ、小声で言ったつもりなのに。犬人だから、耳が良いのかな。どうしよう。
うろたえる私を見て、ウィルは、大丈夫です! と声を上げた。
「あなたをお待ちしておりました! 三十年もの間! ジーアスに来てくださる日を心待ちにしておりました、ルカ様」
ウィルの喜びの声とともに、辺りにいた犬人たちが一斉に拍手した。い、犬人なのに拍手するのね……とか思いつつ、雰囲気に圧倒されて、気まずくなる。
ウィルはさっと立ち上がり、馬車で一緒だった二人に何かを伝える。すると二人はマントを翻し、すごい早足であっという間にいなくなった。
「さ、ルカ様、お疲れでしょう。この街で騎士団が利用する宿がありますので、そちらで良ければルカ様のお話を聞かせていただけませんか。美味しい食事に快適なベッド、それに浴場もございます」
えっ、浴場? 猫王国にはきっとない、お風呂! それはぜひとも入りたい。必要最低限の食事しか摂っていなかったから、お腹もぺこぺこ。すごく魅力的な提案だ。
ウィルを信頼して良いのかな? それだけが不安で、彼の水色の瞳を見つめると、
「ご安心ください。僕の所属する蒼騎士団は、犬王国では有名な騎士団です。僕が一緒にいれば、ルカ様に何かしようと思う輩もいないですよ」
あ、ウィルを信用して良いか悩んでるのを、違う意味で取ってる。でも、誠実そうに見えるし、大丈夫かな。あとの心配は……。
「実は私、お金をほとんど持ってないんです。猫王国の通貨でこれだけしか」
カバンから取り出して見せたのは、たった二枚の硬貨。するとウィルは大笑いして、
「あなたからお金を取ろうなどという輩がいたら、天罰が下りますよ! ルカ様、あなたは犬王国中どこへ行っても、何を欲しがっても、お金がかかることはないと思ってください」
えっ、そうなの?! 大事にされるだろうってコノエも言ってたけど、ここまでとは。
お腹も減ってきたし、このまま街の犬人たちの熱い視線を受け続けるのも恥ずかしいので、ウィルにお願いして宿へ連れて行ってもらうことに。
その場を離れる時、ウィルが私を見ていた観衆に向かって、「ついに女神様からニンゲンが遣わされたぞ!」と声高々に言うので、私はめちゃくちゃ恥ずかしくなり、小さくなってそそくさとその場を離れたのでした。
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