分岐エンディング・キザリハとおまけの二人
ここからはエンディングになります。
分岐エンディング、とあるものは、それぞれ別ルートのものと考えて、好きなキャラのものを選んで読んでいただけたらと思います。
分岐でないエンディングを書けば、ついに完結になります。
(僕を虐めた奴らみんな、見返してやる。傷つけられたら倍返しだ。やられる前にやる。僕は弱くなんかない)
キザリハの過去の姿が、今も頭の片隅にこびりついて離れない。
私はファルザームとマトヴェイの今後を考えながら、やっとコントロールルームことリビングに戻ってきた。
妖精のように小さく飛び回るファトゥム様と、それを見て楽しそうに笑うキザリハがいる。
他のみんなは自分の部屋にいるのか、姿は無かった。
「ただいま戻りましたよー。ファトゥム様!」
私が大きな声で呼びかけると、ふわふわとファトゥム様がこちらを向いて飛んでくる。
「マトヴェイが会いたがってましたよ。神殿を壊して回ったのは、ファトゥム様の姿が見えなくなっていじけたからだって心の中で言ってました」
ファトゥム様は、知っていますよ、とニコニコ笑っている。
「マトヴェイが若い頃、神の世界に一緒に行きたいとお願いされた事があります。でもその時にはもう、共に来た者たちは皆居なくなっていて、私自身新たに誰かを迎える気力も、力も失っていたのです。マトヴェイはそれはそれは熱心な信者でしたよ。このキザリハのような若者でした」
ファトゥム様は昔を懐かしむように目を細めて、ニコニコしながら話してる。私の中でのマトヴェイは腹の出たおじさん猫人なので、若かりし頃のマトヴェイって想像できないけども。
ふと気付くと、キザリハは私の顔色を伺って止まっているので、おいでと手招きしてあげる。
キザリハは小走りに駆け寄ってきて、私の腰あたりに抱きついて来る。まるで小さな弟が出来たみたい。本当は一個しか違わないし、身長も同じくらいなんだろうけど、痩せてる上にかなりの猫背なので幼く見える。
私はなんとなくキザリハの頭をなでなでした。
「マトヴェイ伯父さんはすごく意地悪で嫌な奴だったよ……」
「私も見ていたから分かっています。マトヴェイが道に迷い、あのような性格になったのは私の責任もあります。……ルカには同じ道を歩んで欲しくなくて、キザリハを連れて来るように進言したのです」
そうだったのね。私もファトゥム様に言われなければ、この世界にまで連れてこようとは思わなかった。ルゥと仲良くできるなら、ルゥのところ、位にしか思っていなかったんだけど、それも他人任せの自分勝手よね。
「もう大丈夫よ、キザリハ。威張ってない時の可愛いキザリハ、怖がりが治るまで大切にするからね」
耳をぺたんと倒し、尻尾を下げているキザリハが可愛くて、私はキザリハをぎゅうっと抱きしめた。
「ルカは、この病んでしまったキザリハが可愛くて仕方ないみたいですね」
ファトゥム様はじっと私を見ていて、その目がなんだか鋭いので、私はキザリハから離れて首を横に振った。
「そ、そんな事ないですよ。弟が出来たみたいで可愛い! とは思うけど……私から見ると、このキザリハが本当の姿なのかなって思えるんですけど、違うんですか? あの強気で高慢ちきだったキザリハの方が普通の彼なんですか?」
キザリハは私の話を聞いて一生懸命、首を横に振っている。
「そうですね、ルカの考えの方が正しいようです。もう私はただの意識の残滓で、ルカの方が万能の力を持った女神ですから」
ファトゥム様はやれやれと手を広げると、ふわっと飛んでキザリハの肩の上に降り立った。
「それで、ルカはいつ私をマトヴェイに会わせてくれるのですか?」
「わぁ、会ってくださるんですか? ダメって言うかなって心配だったので嬉しいです」
「ルカにキザリハの責任を取らせておいて、自分はマトヴェイの事を知らんぷりはできませんよ。ただ、ルカに力を貸してもらわないと難しいですからね。私を連れて行ってください」
女神になってから初めて、自分で考えた事がうまく運びそうで、嬉しくて笑顔になる。キザリハがつんつんと私の服を引っ張るので、私はどうしたの? と聞いた。
「僕を一人にするの……?」
ファトゥム様を連れて行くのも不安なのね。上目遣いで不安そうに見てくるキザリハが、意外と可愛い。ロシアンブルー特有の毛色と瞳の色がとても綺麗だし、キザリハ自身がかなりの美少年なのだ、実は。
「前の俺様威張りん坊キャラより、こっちの弟キャラの方が絶対可愛いわ……」
「でもキザリハの心の傷が癒えてゆけば、またあのキャラになるかもしれませんよ」
キザリハ可愛い、と思っている私に釘を刺したいらしく、ファトゥム様が意地悪な顔で笑って言ってくる。
それは残念……な気もするけど、ずーっとこの甘えん坊なままだと、何をするにも大変だもんね。この世界で心の傷を癒して元気になってもらおう。キャラが変わってもそれは仕方ないと諦めるしかない。
「ねぇ、一人にしないで……?」
キザリハがうるうるした瞳で見上げてくる。
私はぎゅっと抱きしめたい欲求を必死に堪えながら、キザリハの手を引いて私の部屋に向かう。
「キザリハが一人でも留守番できるように、お部屋を作ってあげるね。どんなお部屋なら怖くない?」
私の部屋にキザリハスペースでも作ってあげよう。そう安易に考えて聞いてみると……。
「侵入者が入れないように、罠をつけて欲しいよ。それから僕を守る魔法をかけて。誰も僕を傷つけられないようにして。それから、大きなぬいぐるみとふかふかのベッド。ねぇ、誰かが僕を傷つけようとしたらルカ様とファトゥム様に知らせが行くようにして、分かったらすぐ戻ってきて!」
なんと、要求がエスカレートして行ってる。私は一瞬びっくりして固まったけど、気を取り直して、すぐキザリハのお望みの部屋を作っていく。
でも、壁の色はもっと暗く、だの、敷物はふかふかにして、だの、扉の鍵が足りない、だの、要求が細かい。
私はため息をつきながらキザリハの好みに合わせて部屋を作っていく。耳元でファトゥム様が、
「この調子ですと、以前のキザリハに戻るのも時間の問題かもしれませんね」
とにやにや笑いながら言っている。
キザリハの好みは、シックだけど豪華な壁紙の貴族の部屋そのもので、調度品や飾りにもかなりうるさかった。しかもえげつない数の罠を付けたがり、私が、この世界にいるみんなは襲ってこないよ、と説得したけどダメだった。
罠があるだけで安心するなら、もう好きにしてもらおう。
「さ、キザリハ、魔法もかけたからもう大丈夫よ。部屋で安心して待っててね」
行く前からどっと疲れたけど、ようやくマトヴェイのところに行ける。
キザリハはベッドに座り、私が作り出した大きなクマのぬいぐるみを抱えて大人しくなった。
「いってらっしゃい、早く戻ってきてね」
「ルカの力がまだ足りないので、長くは居られませんから大丈夫ですよ」
ファトゥム様も声かけしてくれて、安心したのかキザリハはうなずいた。
「行きましょう、ファトゥム様。いじけた中年の心を癒してあげて下さいね」
ファトゥム様は楽しそうに笑っている。
ファトゥム様を肩に乗せ、私はまたマトヴェイのいる猫王国の神殿再建現場に飛んだ。
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「な、なんだ!? いきなり現れて! 儂を殺しにきたのか!」
ズーアスは夜で、私が飛んだ先はマトヴェイの寝泊まりしている簡易テントだった。他にも数人同じテントにいるようだけど、とにかく一番先に反応して大騒ぎしたのはマトヴェイだ。
「夜分遅くにすみません、こっちの世界の時間が分からなくて……マトヴェイさん、あなたが会いたい方をお連れしましたよ」
「なんだと?」
私の肩からふんわりとちびファトゥム様が飛び上がり、マトヴェイの目の前に行く。
マトヴェイはファトゥム様を、じっと見てから、飛び上がって驚いた。驚きすぎて尻尾が膨らんでいる。
「マトヴェイ、お久しぶりです。貴方のことが気がかりで、女神ルカに力を借りて会いに来ました」
ファトゥム様の声を聞いて確信に変わったのか、マトヴェイはすごい速さで自慢に両膝をついた。
「ファトゥム様!!! ああ……もう二度とお会いできないのかと思っていましたぞ。儂を置いてどこに行かれたのかと……あれほど強く祈り続けたのに、ファトゥム様はお答えにならなかったから……」
マトヴェイは、悔しさと寂しさを滲ませて堰を切ったように話し出した。
「儂を見放されたのだと、そう思い、自暴自棄になっておりました……まさか再びお会いできる日が来るとは……」
がっくりと項垂れるマトヴェイの肩を、ファトゥム様がポンポン叩いている。
「見放すわけがありませんよ。貴方は大切な存在です。私が女神としての力を失っていたために、姿を現すことが出来ずに申し訳ありませんでした。今日は、貴方に謝りに来たのと、大事なお知らせがあります」
大事なお知らせ? 私もマトヴェイも???な顔になる。ファトゥム様、急に何を言い出すのかしら。
ファトゥム様は人差し指をピッと立てて、腰に手を当ててニヤリと笑っている。こんなヤンチャなポーズ、女神時代には絶対取れなかっただろうな。
「こちらがご存知の新しい女神、ルカです。マトヴェイと一悶着あったのは私も見て居ましたよ。ですが、マトヴェイ、貴方がこの女神ルカを信じ、祈り、讃えれば、それが私のパワーにもなって、そのうちこの身一つで貴方に会いに来れるようになるかもしれません。貴方だけでなく、なるべく沢山の猫人達の心を、どうか女神ルカに寄せて下さいね」
なんか、営業活動にしか見えないのは気のせいだろうか。呆れる私を他所に、マトヴェイはプルプル震えている。
「こ、これからもファトゥム様に会えるかもしれないのならばっ……! この小娘を女神と讃える事も苦ではありませんぞ! よし女神よ! 儂の力でお前の信者を大量に増やしてやるから、ファトゥム様を儂の元に寄越すんじゃ!」
おじさん猫人めっちゃ元気になってる。
私は棒読みで、ありがとうございまーす、と言っておいた。ファトゥム様はにこにこしてるけど、たぶんこの人はすごい悪女なんじゃないだろうか。
二人は積もる話もあるようで、嬉しそうに、楽しそうに話をしている。
ふと視線を感じてそちらを見ると、テントの片隅でファルザームが私を見ていた。
私は自然とそちらの方に進んで行き、ファルザームに挨拶をした。
「こんばんは、ファルザームさん」
毎日の肉体労働で日焼けして、筋肉もついたファルザームは、白髪混じりの髪を片手で撫で付ける。
「マトヴェイに会わさせるために、ファトゥムを連れてきたのか?」
「そうですよ。そうすればマトヴェイさんは前に進めるんじゃないかと思って」
私の言葉を聞いて、ファルザームはハッと鼻を鳴らして笑った。何がおかしいの?
「前に進む? 永遠にこのズーアスに縛られ、女神としての役目に追われてしか存在できないお前が……まだ、現実が分かっていないのだろうな」
私を嘲笑うファルザーム。彼はマトヴェイと楽しげに話しているちびファトゥム様を指差す。
「今は違うようだが、女神ファトゥムの晩年は、心は死に、常にくたびれて、ズーアスをいつ見放してもおかしくない状態だった。だから私は、女神など居なくても自らの手で猫王国を繁栄させようとしたのだ」
そうだったのね。でもファルザームの言う繁栄は、犬王国との戦争、そして犬人の奴隷化、そして信じる者だった女神の否定、だ。
「ファルザームさん。私は貴方より幼くて知識も経験も無いけれど、これだけは言えます。貴方は自分が為そうとした事が間違っていたと、もう気付いていますよね?」
私の言葉に、ファルザームはぐっと押し黙る。
「戦争は命を奪う。生きていくための営みの時間を、戦争で奪えば、豊かな暮らしは訪れませんよね。戦争をするくらいなら畑を耕したり家を建てたり、大切な人と楽しい時間を過ごす方がずっと有意義でしょ? だって猫王国は奪わなくても幸せに生きて行ける場所だもの」
ファルザームは黙っている。私の言葉に反論して来ないということは、もう分かってるんだろうな。
少し経ってから、ファルザームはゆっくりと口を開いた。
「その幸せな猫王国は、女神あってのものだ。女神が力を失ったり、職務を放棄したらどうする」
晩年のファトゥム様のやつれ具合が、よっぽど不安だったんだわ。それに、女神あってのズーアス、という構図が嫌なのね。
「それなら、私はファトゥム様とは違う形で、女神とズーアスとの関係を作ればいいでしょ? ファトゥム様のように過干渉にしなくても、貴方達の手で未来を作って行けるように。私がもし万が一、居なくなったり、女神としての職務を全うできなくなっても、ズーアスは大丈夫なように」
私のアイデアを、胡乱な顔をして見てくるので、私は続けて言ってやった。
「ファルザーム、そのために、貴方の力を貸して下さい! 貴方の知識や経験を私に貸して下さい。女神が居なくてもズーアスが素晴らしい世界であり続けられるように」
ファルザームは驚きで目を見開いた後、初めて私の前で声を出して愉快そうに笑った。
「小娘……いや、女神ルカ。良いだろう、気に入った。私の力を貸してやるから、女神が居なくても良い世界を共に作るぞ」
こうして、私とファルザームは定期的に会い、女神の役目をズーアスの民に分散させられないか等、建設的な話し合いを行うようになった。
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「おそーい! ルカ様、ファトゥム様、すごくすごく遅かったね! 僕ずっとずーっと待っていたのに!」
戻るとご立腹のキザリハが待っていた。私の中では体感時間で2時間くらいだと思ったのに、キザリハに聞いたら、三日も経過していたらしい。
「あー、時間のズレ、あるんですよね。ルカが気を付ければ、好きなように時間のズレを修正できますよ」
ファトゥム様は悪びれもせず言って来たけれど、キザリハはぷんぷん怒っている。
私はベッドでぬいぐるみを抱いているキザリハのそばに行って、キザリハの頭を撫でた。
「ごめんねキザリハ。怖いことは無かった? 大丈夫?」
するとキザリハは私の手を払い除けて、腕を組んでふんぞりかえっている。この生意気さは……だんだんかつてのキザリハの姿が蘇ってきてる気がする。
「子供扱いしないで! こう見えても僕はルカ様と一個しか違わないんだからね。あっ、様付けもやめていい? 別にそんな偉い人じゃないよね? 僕もこの神の世界に来たんだから同格でしょ?」
「そ、そうね……」
キザリハのトークに圧倒されて、ファトゥム様に助けを求めるが、ファトゥム様はふわふわと遠くへ飛んで行ってしまう。笑いながら手を振って居なくなって行ったので、確信犯だ。
「あー、ルカに酷い魔法をかけられたせいで幼少期の嫌な思い出に囚われて、死ぬかと思った。この三日、自分と向き合ってやっと落ち着いてきたんだよ。神の世界に来れたんだから、僕はもう弱虫じゃないし、権力や名声以上のものを手に入れたんだって気付いたんだ」
なんと、キザリハは自信を手に入れたらしい。私は愛想笑いをしながら聞いていると、急にキザリハが私の肩を掴んできた。
「僕は今まで自分にしか興味が無かった。自分さえ良ければ良いと思ってきたから。でも今は違う。ルカ、僕を苦しめ、そしてこの世界に連れてきて救った女」
キザリハはじっと私の顔を見てから、おもむろにキスをしてきた。
私はぎょっとして固まったけど、乱暴で、ぎこちなくて、短いキスだったので、すぐに終わった。
キザリハの耳は少し倒れていて、尻尾が左右にバタンバタン当たっている。相当混乱してるみたい。キスしてきた本人なのに。
「僕のファーストキスだぞ、ありがたく思え。これからは、僕と一緒にいることを許してやるから、そばから離れるんじゃないぞ」
ん? 何を言ってるのかしら。私は意味が分からなくて首を傾げる。するとキザリハが私の腕を掴んできた。
「鈍い女だな! 僕と一緒にいろって言ってるんだ」
「もしかして、私のこと好きになったの?」
私が聞いた途端、キザリハは顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。
「ち、違う。僕のことを好きなのはお前の方だろう? 抱きしめてきたり頭を撫でてきたり、何かにつけて馴れ馴れしく触ってきて。その好意を受け入れてやっても良いんだぞって言ってやってるんだ」
うーん、前の弱々キザリハも可愛かったけど、こうやって落ち着いてきてツンツンしてるキザリハも、何故だかすごく可愛く感じる。
私はにやりと笑って、キザリハに抱きついた。
「わあっ! な、何するんだ」
「あら、ごめんなさい。嫌ならすぐ離れるけど?」
私の意地悪に、キザリハは少し無言になってから、小さく呟いた。
「嫌じゃないから離れるなよ……」
可愛い。ツンデレだ。
キザリハと過ごす日々も、楽しくて穏やかになりそう。この世界に連れてきて良かったって、二人で笑いある日がすぐに来そうだと思って、私はわくわくしながらキザリハを抱きしめた。
長くなってしまいました。三人分の話を詰め込みすぎましたね。ハッピーエンドって決めていたので、みんなに幸せになっていただきます。




