分岐エンディング・コノエ
エンディングになります。
分岐エンディングはそれぞれ別のエンディングなので、好きなキャラとのエンディングを選んで読んでいただけたら幸いです。
「ルカ、疲れてるな」
神の世界に戻ると、コントロールルームことわが家のリビングにはコノエが一人だけで居た。
「あれ? みんなは?」
この世界に来てから、いつも一匹狼でいたコノエがここにいて、みんなが居ないのはなんだか不自然だ。
コノエは綺麗な銀髪をかき上げて、少しだけにやりと口の端を上げて笑った。
「ルカが戻って来た時、一人で出迎えたかったから、他の奴らと『話し合い』をして決めたんだ」
話し合い……なんか含みがある言い方だなと思ってコノエを見つめると、私の頭の中にイメージが流れ込んできた。
コノエがウィルとルーカスを同時に相手にして、難なく二人を倒していた。ウィルはかなり悔しがって何度も向かって行ったけど敵わず。最後はルーカスがぼろぼろになったウィルを連れてどこかへ消えて行った。
残るはファトゥム様とキザリハだ。
(おい、ファトゥム。この怖がりを連れてどこかに行っていろ)
(分かりましたよ、コノエ。ずっと無言で引きこもっていたと思っていたら、こんなに怒りを溜めていたんですね。びっくりです。ルカの前ではあんなに大人しいのに、居ないとこんなに暴れん坊なのですね)
(ルカが居ないと、ここに来た意味が無いからな)
ファトゥム様はにこにこ納得して、怯えて固まっているキザリハを連れて私の部屋の方へ去って行った。
と、ここまでが過去に起きたことみたい。
「ごめんね、コノエ。せっかく、何もかも捨てて付いて来てくれたのに、話もろくにできなかったよね……」
私は胸が苦しくて、手を当ててコノエに謝った。コノエは音も無く私のそばに来て、ふわっと私を抱き締める。
「ルカは悪くない。あえて言うなら、ファトゥムが、いや、この世界の仕組みが悪い。ルカを無理やり女神にしておいて、休みなしで働かせようとしやがって」
コノエは確かにイライラしてるみたい。いつも、波の立たない水面みたいに落ち着いてるのに、珍しい。
私はコノエのイライラを少しでも落ち着かせたくて、コノエの髪を優しく撫でてみた。それから顎から頬にかけても撫でてみる。猫はこの部分を撫でられるのが好きだもんね。
「ルカ……二人でゆっくりできるところに、行こう」
うっとりしかけたコノエは、首を小さく横に振って我に帰ると、私の手を引いて歩き出した。
いつまた誰か来るかもしれないリビングじゃ、落ち着かないよね。私もそうだもん。
「コノエは自分のおうちを作ったの?」
手を引いて早足で進んでいくコノエの背に話しかける。
「ああ、家というより、大きな森を、そして村を作った」
リビングから離れると白い世界になり、程なくして鬱蒼と生茂る森の中に入っていく。
まるで夜の森のように暗い。ここは、なんだか見覚えがある。湿った土の臭いも、木々の匂いも感じた事がある。
「コノエ、ここって……私達が初めて会った、あの森?」
「そうだ。森が無いと体を動かす事も出来ないから、作ってみた。懐かしいか?」
コノエが私を振り返って話してくれたから、私はしっかりうなずいて見せた。
転生した直後、猪の化物に襲われて。生き返ったのにすぐ死ぬのかな、と思っていたところに、突然現れて助けてくれた。
あの時のコノエの美しすぎる姿、今も鮮明に思い出せる。今、私の手を引いて歩いている後ろ姿を見ながら、あの時はこんな風に一緒にいるようになるなんて想像もできなかった、と思った。
「もうすぐだ」
夜のような暗い森から、だんだん木漏れ日が見えて来て、明るくなるほどに森が拓けてゆく。
森を抜けると、サバディアを彷彿とする、簡素な木造りの村が出てきた。
「あっちには川がある。ルカももう、高い所に上がるのは困らないだろう?」
コノエが崖の中にある家を指し示して、少し笑っている。
サバディアでは、高い足場に四苦八苦したもんね。あの時は自分の身体能力の低さを呪ったし、すごく情けなかったんだから。
「もうどんな高い所でも平気! サバディアでは、登りたくても登れなくて迷惑かけたよね、ごめんなさい」
私がしゅんとして謝ると、コノエは笑っていきなり私の額にキスしてきた。いきなりのことで顔が熱くなる。
「あの時から、ルカのことが可愛いと思ってた。俺が守ってやりたいと思ったんだ」
コノエの台詞に鼓動が早まる。そんな風に思ってくれてたんだ、嬉しい。足を引っ張ってばかりで辛かったけど、そう言ってもらえると、良い思い出になりそう。
「さぁ、行こう」
コノエと歩調を合わせて、崖の中腹の家に向かって足場を飛んでいく。今の私は女神パワーで空も飛べるから、崖のてっぺんに家があっても入れる。
サバディアを模した村は、小屋や崖の家が他にもいくつもあったけど、住人は誰もいない。コノエ一人でここに住んだら、寂しいだろうな。
「ここが俺達の家だよ」
懐かしい葉っぱの扉。扉を開くと、懐かしいコノエとヴァイスの家ーーーーでは無かった。
そこはどちらかと言えば、猫王国で私が過ごした部屋に近い。ただ崖の中の家っぽく、壁や天井や岩肌になっている。
天井には沢山の蝋燭を使った照明があって、部屋はぼんやり明るく感じる。
ベッドは私が猫王国で寝ていたやつそのままだわ。コノエと一緒に寝た事もあるから、寝心地が気に入ってここに置いたのかな。
明らかに崖の中の家、という規模ではなく、不自然なほど広い部屋なんだけど、結局はコノエの好きなイメージを具現化しているだけだなんだもんね。
床にはふかふかの絨毯、テーブルセットに、私が使っていた鏡台。それに、衝立の向こうには猫足のついたバスタブがある。
コノエを見ると、優しく笑っている。
「ルカが過ごしやすいようと思って」
コノエの笑顔は、すっごく素敵だ。つられて私も笑うと、コノエがそばに来て私を抱きしめてきた。
「ずっと、ルカと二人で居たい。そう思ってここまで来た。ルカも、それでいい?」
私より頭ひとつ分くらい背が高いコノエが、私の耳元で優しく囁いている。
私もそう。私は思いの丈を口にした。
「あの日、コノエに命を救われてから、犬王国に行くために離れてからも、ずっとずっと、私の心はコノエを想ってたよ。私が好きになった人は、コノエ、あなただけ」
いつも忘れられず、恩返ししたい、会いたい、って思ってた。
「私以外の何もかもを捨てて、ここまで付いて来てくれて、本当にありがとう。大好きだよ」
私もコノエの背中に腕を回し、力を込めて抱きしめ返した。コノエの尻尾が嬉しそうにゆるやかに揺れている。時々私の体にふわっと寄り添ってくっついてきて、本当に可愛い。
「ルカ、ずっと、こうやって二人で暮らせる日を心待ちにしてた。俺のルカ……」
コノエは少し体を離して、しなやかな手で私の頬を包み込んでくる。そしてそのままキスしてきた。
私はコノエの綺麗な顔が迫ってきて、近づき過ぎてぼんやり見えるまで、目を開けて見ていた。
コノエの唇の感触に、胸が苦しいほどドキドキする。私はその時ようやく目を閉じた。コノエがキスしてくれているのを見ていたくて、なかなか目を閉じれなかったから。
「コノエ……大好き。私のことを好きになってくれて、本当にありがとう」
私は真剣に言ったのに、コノエはそれを聞いて軽く吹き出している。
「何で笑うの?」
「俺が言いたいことをルカが言ったから、おかしくて」
(俺と出会ってくれてありがとう。ルカと出会うまで、誰かをこんなに強く愛した事はなかった。こんな感情がある事を知らなかった)
コノエは私が心を読めるのが分かってるみたいで、心の中で言葉を続けてくれた。
私が嬉しくてにっこり笑うと、コノエはそのまま私を後ろに倒して、二人で絨毯の上で横になる。
毛足の長い、ふかふかの絨毯だ。触れるだけで気持ちが良い。
「ルカ、絨毯より俺を……」
触って。そう聞こえた。彼のオッドアイが優しく私を見つめている。不思議な瞳の色だ、左右で全然表情が違うように見える。
私はコノエの頬に両手を当てて、彼の瞳に吸い込まれてみたいと思いながらじっと見つめ続けた。
「もっと……」
切ないような顔をして、コノエが呟く。私は彼の耳を指先で摘んで、優しく撫でてみた。肉厚で、柔らかい毛でいっぱいの猫耳は、いつまでも触っていたいほど触り心地が良い。
コノエの頭と耳を撫でていると、コノエはそのままキスしてきて、しかも私の唇を軽く噛んできた。
尖った犬歯がちくりと私の唇を噛む。ぼーっとする頭の片隅で、うちの猫も興奮すると噛んできたな……と思い出す。コノエは噛んだりやめたりしながらずっとキスを続けていて、私は恥ずかしさと嬉しさとで、もう頭がショートしそうだった。
「ルカは、美味しそうな味がするな」
ようやくキスをやめたコノエが、初めて犬歯がくっきり見えるほど口を開いて笑っている。
「コノエ、どうしよう。恥ずかしいけど、嬉しい、でも恥ずかしい」
私が腕で顔を隠すと、私の上に乗る形になっているコノエが、その腕をそっとどかした。
綺麗な銀髪に、先の尖ったメインクーンならではの大きな耳。そして金色と水色の瞳。この世のものと思えないほど整った顔。
「ルカ、これからずっと一緒にいる。もう二度と離れない。愛してる」
コノエの言葉と、熱を帯びた掌が私の頬に触れて、私は自分が泣いてる事にその時初めて気付いた。
嬉しくて涙が止まらない。ずっとコノエが好きで、会いたかった。女神にならなきゃいけないって分かって、一緒に生きられないって思った時はすごく悲しくて辛かった。
それなのに、今こうして目の前で私を愛してると言ってくれて。コノエがいてくれれば、私も何もいらない。
「私も愛してる。コノエ、ずっとずっと一緒だよ。私と楽しく穏やかに暮らしてこうね」
ああ、分かったよ。コノエの小さな呟きはすぐ消えて、コノエと私の影は一つになった。




