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第十話・犬種属との出会い

 猫衛兵に怪しまれ、フードを取れと迫られて窮地に立った私。もうダメだと思ったその時、私と猫衛兵の間に人影が割って入ってきた。


「な、なんだお前は。邪魔する気か?」

 猫衛兵はシャーと威嚇しながら後ろに下がる。


 私と同じようにフードをかぶっている三人組のうちの一人だった。近くに来てみて分かったけど、背が高く、体はたくましい。今まで見てきた猫種属とはちょっと違う感じ。

 その人は私に背を向ける形で猫衛兵と向き合い、サッとフードを下ろす。


 とたん、猫衛兵二人はさっきより激しく威嚇しながら、腰にささった細剣に手をかけた。


 私に見えるのは、先端だけぺこりと垂れていて、黒とグレーのぶちという不思議な色合いをしている大きな耳。髪は長めのショートで、耳と同じ黒とグレーに、白と茶色も混ざって、不思議な色の混ざり具合をしていた。私はその色の組み合わせにすぐハッとした。


 ブルーマールだ。またの名をダップル。犬種によって呼び名は違うけど、この色鮮やかな配色はそれしかない。私の記憶だと、猫でこの毛色は見たことがない。


「貴様、犬だな?!」


 猫衛兵たちの尻尾が三倍くらいに膨らむ。わぁ、人型で膨らむと、こんなにボリューミィなのね。抱き枕くらいはあるんじゃないかな。二人とも今にも剣を抜いて飛びかかりそうな勢いだ。


「いかにも。我々は犬王国ファルカスの使者団の一員で、和平交渉の帰路についている」


 初めて見た犬種属。私の方を振り返ると、精悍な顔つきの好青年で、透き通るような水色の瞳はくるくると輝いて私を見つめていて、にっこりと笑いかけてくれた。私が少し笑い返すと満足そうにし、さっとまた猫衛兵に向き直る。


「剣から手を離したまえ。和平を結んだのにその態度はよろしくない。我々は使節団とは別ルートで犬王国へ戻る最中だ。それを邪魔する権利は君たちにはないだろう」


 背筋を伸ばし、よく通る声で堂々と話す。猫人たちのようなしなやかさはないけど、安心感がある立ち振る舞いだわ。

 猫衛兵たちは顔を合わせアイコンタクトしたり小さな声でごにょごにょ言い合っていた。剣にかけていた手はゆっくり離したものの、尻尾は相変わらず二倍くらい膨れている。


「身分証はあるか? 黙って行かせるわけにはいかないぞ、特にその、お前の後ろのやつ」


 え? わ、私のことですか……? どうしよう。

 困っていると、犬種属の青年が、私の横に並んで立ち、肩を抱いてきた。


「こちらも使節団の一員だ。ほら、使節団の身分証だ、その目でしっかり見たまえ」


 コノエよりも背が高い。それによく通る低い声。キリッとした顔立ちは、猫種属の方々とは違う精悍な作りだ。私は必死にうんうん頷いて見せる。だけど猫衛兵たちの怪しむ顔と言ったら……。青年が出した身分証は羊皮紙らしき黄ばんだ厚い紙でできていて、猫衛兵たちはそれをちらちら見ている。

 青年は、しつこいなあと小さな声で呟き、続いて、裏の手を使うか、とニヤッと笑った。


「そうだ! 毎日この町で衛兵の仕事に勤しむ君たちに、犬王国から素敵な贈り物を持ってきているんだ」


 さっきまでと打って変わり、いたずらっぽい口調で話す青年。何を言い出すのかと思って隣の彼を見ていると、ウエストポーチから小さな瓶を取り出した。


「そ、それは!!」


 猫衛兵たちの顔が瓶の中身に釘付けになる。私も見てぎょっとして悲鳴が出そうになった。

 黒くて光ってて素早い、そう、それはゴキブリ。


「君たちの国では乱獲されなかなか見つけられないだろう。犬王国にはたくさんいるからな、こんなもので良ければ差し上げよう」


 ゴキブリの乱獲……? さすが猫王国とでも言うべきなのかしら。私はお金あげるからって言われても絶対ゴキブリなんかいらない。けれど猫衛兵たちは大きな瞳を目一杯大きくして、瞳孔も開いて、瓶の中のゴキブリを見つめている。

 さっきまで膨らんでいた尻尾が、今は普通の大きさになり、左右にぶんぶん揺れている。


「タダでくれるのか?!」

「もちろん。ただし我々は急いでいるので、このまま出発させてもらうが良いかな?」


 青年はゴキブリ入りの瓶を片手ににんまりと笑っている。猫衛兵二人は顔を見合わせ、


「よし! さっさと行け!」


 と言うなり、瓶を青年の手から奪い取って、俺のだ! いや俺だ! と二人で瓶を取り合っている。あまりに滑稽で、私は開いた口が塞がらない。


 そんな私の肩を抱いて、青年は、

「さっ、早く場所にお乗りください」

 と声をかけてきた。

 私は我に返って頷いて、ありがとう、と伝える。馬車を見るともう御者も位置について手綱を持っており、荷台の中には青年の連れ二人と、急いで出たがっていた猫人二人が乗り込んでいた。

 青年が先に荷台に乗り込み、私に手を差し出してくれる。大丈夫かな? 一瞬悩んだけれど、後ろでゴキブリを取り合う猫衛兵たちの声が聞こえてきて、慌てて差し出された手を掴んだ。ぐいっと引き上げてもらい、座席に座る。


 座るとほっとして、ため息が漏れた。まだ油断できないとはいえ、出発できて本当に良かった! ダメかと思った。お礼を重ねて言おうと、向かいに座る青年を見たら、彼はちらりと猫人二人を見てから、唇の前に人差し指を当てて、しぃー、というポーズを取って見せた。


 まだ何も喋っちゃダメってことみたい。それなら、着くまでひたすら目立たないように過ごさなきゃ。とりあえず緊張が和らいできたらお腹が減ったので、カバンの中からさっき買った魚を取り出して、無言で食べ始めた。


 すると、なぜか乗っている人たち全員が、魚に熱い視線を送ってくる……失敗したかも、と思いつつ、美味しい魚を食べる手は止まらなかった。

読んでくださりありがとうございます!


もし良かったら、広告の下にある☆をタップして、★にしていただけたら嬉しいです!


ついに犬種属に出会うことができました。初めての犬種属は、マイナー犬種から始まります。これからどんどん人気犬種も出していきますね!

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