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第一話・死んだ私と女神の出会い

 頭が痛い! 割れる! おかしくなりそう!

 視界は暗転したりぼやけて、立ってもいられず、しゃがみ込むと同時に胃の中身をすべて吐き出してしまう。家族の悲鳴と心配する声が遠くに聞こえて、そのまま私の意識は途絶えて……。




 気がつくと真っ白。病室だとしても相当、真っ白な世界。ぼんやりと人影が見える。私は声を出そうとするけれど、いくら頑張っても声が出ない。なんで声が出ないんだろう。出そう出そうと思って頑張るほどに、声が出ないことへの不安が増していく。


「……大丈夫ですよ。声は出なくてもあなたの言葉は届いています」


 突然、穏やかな女性の声が頭の中で響いた。そう、空気を伝わって聞こえてくる音としてではなく、頭の中に直接、声が聞こえてきた。びっくりした! ここはどこで、誰なんだろう。私は今どんな状態なんだろう。どんどん頭が回り始める。


「そんなに慌てずに。ゆっくりひとつひとつ、説明させてくださいね。私はファトゥム、ある世界の女神です」


 え? め、女神って言った? どういう……そもそも私はしゃべれていないのに、どうして会話が成立しているの?

 混乱する私の前に、うすぼんやりと見えていた人影がだんだんはっきり映りだし、そこには陶器のような白い肌に、燃えるような赤い髪をした女性が立っていた。はっきり言うと、人間離れした、非現実的な姿の女性だ。


髪はよく見ると揺らめいていて、燃えるような、というか燃えている。腰まであるボリューミィな赤髪が、メラメラと燃えている!肌はありえないほど白い。白いを通り越して青く見える。顔は両目を閉じているが、口元には微笑みが浮かんでいる。灰色や水色、淡い赤や黄色が入った柔らかそうな毛皮を体にまとっているのだけれど、くっきりと見えるボディラインは、絶世の美女だなと思うくらい豊満で、女の私でも目が覚めるような美しさと妖艶さだ。


「こんにちは、マミヤ・ルカさん。驚かせてしまい申し訳ありません。この姿を見れば、女神だという言葉を信じてもらえるかと思い、私の姿を顕在化させてみましたよ」


 わぁ、なんというか、本当に女神なんだろうか……。

 この状況、夢とは到底思えない。今まで17年生きてきて、こんな予想外の夢なんて見たことないもの。でも、女神は目の前にいるって感じるのに、肝心の自分の手足や体はなんにも見えない。すごく変な感じ。


「そう、ルカさんがお気づきの通り、ルカさんは今、魂だけの存在になっているのですよ。私がルカさんの魂をここにお連れして、こうしてお話ししているのです」


 しゃべっていないのに考えていることに返答されるって、すごく変な感じ。それより、魂って言った? たましい! それってよくアニメとか小説で見る、死んだ後のやつ……ですよね?


「そうなのです。ルカさん、あなたは17歳と1ヶ月で、突然脳出血になって死んでしまったのです。あなたの力を貸していただきたくて、あなたの魂が天上に逝ってしまう前に、女神の力で連れてきました」


 脳出血で、死んだ。と言われても、正直、こうして今まで通りに考えたりできているわけで、体がないという以外、自分が失われたとか、そういう感じはない。だからショックも今のところないけれど、この先どうなるかでじわじわ来そうだよね。


 最後の記憶だった、あの激しい頭痛と嘔吐は、そういうことだったのね。納得。それにしても高校生の若さで死ぬなんて、両親はさぞショックを受けているだろう。それを思ったら胸がズキンと傷んだ。私の兄妹達がきっと両親に寄り添ってくれているだろう。それに、産まれた時からずっと、うちにはたくさんの犬猫がいたから、その子達も。


 私が世話していた猫たち、散歩担当だった犬たち、みんなきっと寂しがっているんだろうな……やばい、もう元の生活に戻れないし、この先どうなるか分からないんだって実感してきたら、だんだん不安になってきた。目の前にいる美しすぎる女神様は、これから私をどうするつもりなんだろう。


「悲しむことはありませんよ、ルカさん。あなたが安心してこれからも過ごせるよう、あなたの家族には微力ながら、女神の祝福を授けました。あちらの世界にはあまり干渉力がないので、微力ではありますが。具体的には、家族の皆様、もちろんペットの皆様も全員が、生涯を終えるまで一切の病気にかからず、金銭的にもたくさんの幸運に恵まれて、一生暮らすに困らない経済状況で生きていけます。また、あなたを失った悲しみが、早く癒えるようおまじないもかけておきました」


 それはすごい! 微力でそれって……さすがは女神様と言うべきだよね。その話を聞いたらすごくホッとしたし、本当に家族が健康で裕福に一生過ごせるなら、いくら感謝してもしきれない。私のことはどうなっても、これなら安心して、この先何が待っていてもがんばれそう。


「ルカさんのその心意気が、私はとても気に入ったのです。自分のことより家族や周りを思う心、素晴らしいです。というわけで、私、ファトゥムにお力をお貸しください」


 褒めていただいて恐縮です。でも、魂だけの私が、こんな美しくてすごい力を持った女神様に力を貸せることなんて、何かあるのかな。


「あるのですよ。女神ファトゥムの司る世界、ズーアスに、転生していただきたいのです。人間として」


 わぁ、転生! 一度は憧れるやつだわ。今も人間で何も変わらないのだし、断れる雰囲気でもないし、喜んでお受けします、女神様。


「ありがとう、ルカ。そろそろ時間なので、簡潔に説明させていただきますね。ズーアスには人間は存在していないのです。人間のことが大好きな、可愛らしい種属が住んでいるのですよ。あなたは唯一の人間として転生し、今、混乱を極めているズーアスを導いてほしいのです。導くと言っても、あなたが穏やかに、楽しく暮らせる世界になるよう過ごしていただければそれで結構ですので」


 え、唯一の人間?! それってどういうこと。ファンタジー世界なのかな、エルフとか魔物とか住んでる世界なのかな。


「残念ながらエルフはおりません。もっとあなたにとって身近な生き物がいますよ。安心してください。さて、転生と言っても、あなたの年齢、見た目はそのままで良さそうですね。それでは、またお会いしましょうね、ルカ。あなたに幸多からんことを」


 最後のほう説明が早すぎるし、ざっくりしすぎじゃないですか、女神様? どんな世界で、ただの高校生の私はどうやって生きていけば良いんですかー……。


 目の前で女神様はにこやかに手を振り、スゥッと消えてゆく。私の、声にならない叫びはだんだん小さくなって、私の意識も薄れていく。さっきこうやって脳出血で意識を失って死んだんだよね。もしかしてまたこのまま死んじゃうのかな。


 そう思うとちょっと怖いな、と思ったところで眠るように意識が薄れていった。

お読みくださりありがとうございます。犬猫に関わる仕事をしているので、その知識を楽しく活かして、小説が書けたらと思い、この作品を書き始めました。


なるべく毎日更新を目標にしております。

どうぞよろしくお願いいたします。

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