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混沌と秩序の間に挟まれたらどうすればいーい?  作者: 雨森あお
神様ってなーに?
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2 『ガチャ』

「とりあえず椅子に座って楽にしてください。葉坐間(はざま)レイ」


 頭の混乱が解けないまま、おれはあてがわれた椅子に座った。


「……葉坐間(はざま)レイ。出身地は地球の極東、日本。16歳。男性。父親は葉坐間(はざま)理一(りいち)。母親が葉坐間(はざま)フレヤ。旧姓オグストローム。日本人とスウェーデン人のハーフで、幼少期はよく目の色でからかわれ、降りかかる火の粉を払う内、孤独になる。ガールフレンドはおろか同性の友人もおらず、日々趣味である―—」


 おいいいいいいいい!! いきなり個人情報語り出したよこの黒い人!!

 どういうことだこれ!! 意味わかんねえ!!


「ちょっとちょっと! なんで知ってるんだよ!?」


 とにかく焦る。

 まさか夢の中で己のプロフィールを読み上げられるとは思わなかった。


「確かにおれは葉坐間(はざま)レイだけど! それがなんなんだよ!」

「ああ失礼。予定時間をだいぶ超過していたもので、さっさと終わら―—ごほん、少々急ぎ過ぎました」

「ごめんね~」


 ぺろりと舌を出して謝る白い方。

 可愛いけどそんなのじゃ騙されないぞ。


「私は導入部のガイド兼混沌側の審査を行うアリマ―と申します」

「わたしはアフーラ。ガイド兼秩序側の審査を担当しているの~」


 ……何の話だ。おれは頭がいかれたのか?


「すいませんけど、まるで話がわからない」

「……?」

「あら~? 放送を聞いてなかったのかしら~」


 放送? だめだ。話が噛み合わない。


「おかしいですね。しかし……確かに列には並んでいなかった。葉坐間(はざま)レイ、あなたは今まで何をしていたのですか?」


 おれの方がおかしいような言い方だ。

 最初に目を開けた時、人がたくさんいて列を作ってたな。おれは寝てたけど。


「あ、いや、寝てました」

「……」

「……」


 空気が凍りつく。素直に答えたのはまずかったか。


「わかりました。少し、というかかなりイライラしますけどガイドの務めは果たさねば」


 本音が漏れてる。黒い方の人めっちゃ怒ってる。


「最後の子は図太いわね~」


 ず、ずぶとい? 初対面なのにあんまりだよ。


「あなたは選出された審査対象です。様々な宇宙から無作為に選ばれた3333人のうちの一人。これからあなたは混沌と秩序のバランスを取り戻せるかどうかの試験に行っていただきます」


 ……夢にしては凝ってるな。

 宇宙に混沌と秩序。

 なんだそれは。


「あ~ もしかして夢だと思ってな~い?」


 白い方の女性―—アフーラと名乗った人がふわりと浮いて近づいてくる。

 やめて?

 ほんとに見れないから。お肌の露出部分多すぎて直視できないから。近づいてこないでくれ。


「夢ではありませんよ。葉坐間(はざま)レイ」

「……いや、夢に決まってる」

「なぜ?」

「なぜって……こんなのあり得ない。だっておれは、教室にいて、居眠りしてて、それで……」

「だから夢だと?」


 おれはうなずいた。そうとしか言いようがない。


「夢か現実か。それは問題なのですか? あなたの言う教室の方こそ夢なのでは? どちらが夢なのかを証明できて?」


 黒い方——アリマーと名乗った女性がため息をつく。

 おれは反論ができなかった。おいそれと確かめることができないことだ。

 頬をつねってみる。普通に痛い。


「現実……なのか?」

「うんうん、現実よ~」

「受け入れなさい」


 と言われましても、いきなり受け入れることなんてできない。


「では説明を続けさせていただきます」


 手に持った書類に目を落とした黒い方の女性―—アリマーが喋り始めるのを遮って、おれは挙手する。


「質問は後にして欲しいのですが」

「いや、その、帰り道を教えてくれないかな? 教室に戻りたい」


 おれからすれば当然のセリフに、アフーラとアリマーは驚いて顔を見合わせる。


「ね~、レイ君~ なんで~?」

「なんでって、混沌に秩序だっけ? おれには関係ない」

「いい度胸ですね。一周回って感心します」

「あ、ども」

「褒めているのではないのですが……」


 家に帰って寝たい。それが本心だ。


「結論から言うと、戻れません。可能性がない訳ではないですが、確率は限りなくゼロに近いでしょう」


 はあ!?


「いやいや、勝手に選んどいてそれはないでしょ」

「選んだのは私たちではありません」

「宇宙に選ばれたのよ~ すごいんだから~」


 はああ!?


「じゃあどうすればいいんだよ」

「先に進むしかない」


 はあああ!?


「マジで意味わかんねえ。あんたたち神さまだろ? 戻してくれよ」

「無理、ですね」

「まずは話を聞いて~ それからまた考えましょ~」


 がっくりと肩を落としてうなだれる。

 戻れないだって? 

 やっぱり夢なんじゃないかと思うんだけど、意識は思ってる以上にクリアで、それでいて最悪な気分だった。


「では簡潔に手短にざっくり説明いたします。宇宙は常に混沌と秩序がせめぎあっていて、どちらかに傾くことはあれどおおむね均衡を保っていました。しかしこのところ、バランスが崩壊に近づいています。このままでは宇宙が、世界が滅びる」

「……マジで?」

「私たちはあなた方を見極めなければならない。均衡を保てるのかどうかを」

「保てなかったら?」

「私たちはここを離れ、どこか遠くの場所に行きます」


 冷たくね? 神さまなんだよね? いや、そもそもあんたたちが崩壊を止めればいい。


「ええと、そもそもなんでおれたちが?」

「あなたがたもこの宇宙の一部でしょう?」


 それはそうだが。


「理解していただけましたか?」

「……」

「レイ君~ 男の子なんだから~ お腹くくりましょ~」


 男女差別だ。腹は誰にだってある。


「なにか未練でもあるの~ 彼女とかお友達と別れて寂しいのかしら~ あ、ごめんなさい~ いないんだったわよね~」


 くああああああああああああああああ!! わざと言ってるだろてめえ!!


 だが、アフーラの問いに即答できない自分がいる。彼女はいないし、友達もいない。親父とお袋に会えないのは寂しいといえば寂しいが、大して感情は動かなかった。むしろカレーとかおでんとか食べられなくなるんじゃないかって不安の方が大きい。


「あなたは世界が崩壊するとわかっているのに、何もしないのですか?」

 

 今度はアリマーの問いだった。

 何もしない、というのは誤りだ。『何もしない』のではなく、『何もできない』が正しい。

 黙り込んでいると、別の言葉がきた。


「では聞き方を変えましょう。あなたは例えば両親が世界とともに滅びると知っていて何もしないのですか? 笑って過ごす自信があるとでも?」


 うっ……


「あるいはあなたが密かに心を寄せている女性が——」

「ちょっ!? 待って待って!!」


 くそっ! 心をえぐりにきやがった! なんて黒いヤツなんだ!

 これはひどい。NOという選択肢がない。


「レイ君~ メリットもちゃんとあるのよ~」

「へ?」

「いきなり知らないところに放り出すのもアレだし~ 試験に臨むにあたって~ 特別な力を授けるのよ~ 興味ない~?」

 

 なんですと? 

 それ、最初に言ってほしかったんだけど。

 興味がないと言えば嘘になるな。


「気が変わりましたか? 葉坐間(はざま)レイ」

「……変わってない……けど、帰るのはやめるよ。ってか、帰れないんだよな? ここで駄々をこね続けたらおれはどうなる?」


 答えはわかっているが、聞いてみる。


「ここに残るしかないですね。永遠に」


 やっぱり。

 こんな謎空間に取り残されるなんて、ごめんだ。


「やるよ。試験とやらに行く」

「よろしい」

「さすが男の子だわ~」


 男だろうが女だろうが関係ない。

 それに、とおれは胸の内で密かに笑う。


 別の世界に行ってから地球に戻る手段を探せばいい。できないとは思わない。こんな場所に来れるくらいだ。なにかしらの方法はある……と思う。

 

「ではこちらのガチャガチャを回してください」

「……なに?」

「回して排出された能力を得ることができます」


 どん、と机の上に置かれたのはガチャガチャマッスィーンだった。

 どこにでもあるような、ハンドルを回すとカプセルが出てくるアレだよ。

 馬鹿な、と言いかけて口をつぐむ。


「試験は人も舞台も能力も無作為。それがルールですので」

「ええ……」

「早く回して~」

「あ、はい……」


 なんだこれ……

 逆らう気が少しも起きなかったおれは素直にガチャを回した。


 ハンドルを右に回すと、ガガガ、と音がして、ガコン、とカプセルが落ちてくる。

 緊張感がまるでない。

 ある意味恐ろしい。神ってのは案外アナログなんだな、とあさってな思いを抱いてしまった。

 中が透けて見えない黒いカプセルをこじ開けて、一枚の紙を取り出す。


「えっと……『吸収≪微≫』? なんなのこれ」


 一応下部に説明が添えてある。

 『吸収≪微≫』――エネルギー吸収の効率が良くなる≪微≫。スキルランク『Z』。


「吸収≪微≫だけに、なんか『微』妙だな……」


 エネルギーって何をさしているんだ? カロリーとかじゃないよな?

 ふと見れば、おれの両隣から覗き込んでくる白と黒の二人は露骨にがっくりしている。


「……スキルランク『Z』ですか。葉坐間(はざま)レイ、あまり気を落とさずに」

「ま、まあ、ガチャガチャは三回も引けるんだから~ 次はきっといいのが引けるかも~」


 んん? 反応を見る限り、残念な能力みたいだ。


「なーに? Zランクってだめなの? ねえ、アリマーさん、だめだめなの?」

「Zランクは最低ランクです。実装されているのは知っていましたが、実際に見たのは初めてですね」


 ええええええええええええええ!?

 三回しかできないガチャの一回が最低ランク……


 いや、まだだ。まだチャンスはある。

 おれは再びハンドルを握る。


 思いのたけを込めて、右にぎいいっと回した。

 ガコン、と音がして息を呑む。


 別に最上位とかレアとかじゃなくていい。真ん中くらいでいいんだ。頼む!

 と、出てきた紙にはこう書かれていた。


 『ちくわ生成』――ちくわを生成できる。スキルランク『Z』

 

 はわああああああああああああああああああ!!

 ちくわってアレか!? おでんとかに入れるアレかああああああ!!

 

「ふ、ふざけんなよ!? ちくわってなんだよ!?」

「またもやZランク……葉坐間(はざま)レイ、あなたの運のなさには感服しますね」

「そこに感服しないでよ!」

「でも~ 食糧には困らないわ~ ぷぷっ」

「アフーラさん、今、笑ったよね?」

「なんの話かしら~」


 くっ……馬鹿にしやがって。


「これって引き直せないのか?」

「無理です。引くのは三回。私たちでもそれは変えられません。絶対の掟です」


 まじかよ。

 これ詰んでるよね? 試験に臨む前から詰んでるよね?

 最後の一回に賭けるしかないのか……

 

「やってやる! 最後の一回! 絶対いいのを引く!」


 右手に魂を込めろ。

 なんとしてでも最高の能力を手に入れてみせる。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 燃えあがる闘志とは裏腹に、乾ききった無機質な音を立ててカプセルが排出される。

 開ける手が震えた。


 うまく開かないカプセルを見て、アフーラとアリマーが手を添えて助けてくれる。二人の表情は慈愛そのもののように見えた。

 中に入っている紙に書かれていたのは能力は————


 『★/%〇』


 だった。

 もはやランクさえもない、バグっているとしか思えない文字の羅列だ。

 おれは白目を剥いて気絶しそうになった。

 

「初めて見る文字ですね。アフーラ、あなたにはこれが読めて?」

「うーん……なにかしら~ 見たことない~ ちょっと読めないわ~」

「ランクもなし……なにかの手違いでしょうか」


 て、手違い? ひどい、ひどすぎる。


「とにかくも葉坐間(はざま)レイ、これでレクチャーは終了です。これより試験の舞台へと転送を開始いたしますので」

「えっ?」

「頑張ってね~」

「はい?」


 これで終わり?

 最後の能力は?

 ちょっと適当すぎない?

 そもそもどこへ行くのか聞いてねえし!


「待った待った!! どこに転送するんだよ!」

「どの世界に行くかは明かせません。これも公平を期すためです。心配には及びませんよ。いきなり地獄には行きませんから……多分」


 はしょりすぎいいいいいいいいいいいいい! あと最後にたぶんって言った!? 

 

「だいぶ押してしまいましたがなかなか楽しかったですよ、葉坐間(はざま)レイ。あなたに混沌の導きがあらんことを」


 いやいや、なにイイ感じな風で言ってんのよ。そもそも混沌の導きってなに? 言葉のチョイスが混沌としてるよね?


「レイ君~ 気に入ったわ~ いつかまた会いましょ~ あなたに秩序の輝きがあらんことを~」


 と、投げキッスをしてくるアフーラ。いや~ おれの心の秩序を乱さないでほしいんだけど……

 そうこうしている内に変化が訪れる。

 その直後、おれを囲む全てが一変した。



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