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混沌と秩序の間に挟まれたらどうすればいーい?  作者: 雨森あお
地下都市遺跡編
14/88

高次の量子的存在の疑問

もう一つの視点です

高次の量子的存在とははたして。

「……ふう」


 資料をまとめ終えて一息つく。

 第一次中間報告に向けて選別者たちのスペックと、動向をまとめた紙の束はすでにして山と積み重なっている。

 さすがにこの量を一人でやるのは骨が折れましたね。

 アフーラはどこまで情報を取りに行っているのか。

 我らは3333人の選別者をつぶさに観察し、『候補』を見つけ出さなければなりません。

 時間の猶予はそれほど長くない。

 だというのに、アフーラったら、ほんとうにしかたのない子です。

 彼女が取りに行ったものが届けば、それで今回の仕事は終わり、第一次中間報告に入ります。気難しい方々が一度に集まる場所ですからね。失敗は許されません。


「ただいま~」


 がちゃりと扉が開いて、アフーラが戻ってきました。


「ノックくらいしたらどうです?」


 睨みつけると笑顔で返してくる。それがアフーラ。こちらでもあちらでも笑顔にほだされる者の多いこと多いこと。

 いえ、羨ましくはありませんよ? バカっぽく見えますからね。


「そんな顔しないでよアリマー。お菓子も持ってきたわよ~」


 お菓子になど釣られませんよ。

 わざとらしくついたため息にもまったく動じない彼女は、ふわふわと浮きながら近づいてきました。


「はい、これが資料よ~ あ、あとヒトツマちゃんから別件のヤツだって渡されたの」

「む……早いですね。さすがはプロフェッショナル」

「なんの資料なの~?」


 顔を近づけてくるアフーラを押しのけて、わたしは資料の整理を始めました。


「アフーラ、そちらの束を縛ってポイしてください」

「え~ やだ~ 疲れた~」

「アフーラ?」


 わたしが右手に力を込めて混沌爆裂の構えをすると、おとなしく仕事に戻りました。

 最初からそうすればいいのです。

 しばらくは無言の内に進んでいたのですが、作業に飽きたアフーラが再び宙に浮き始めます。


「ねえ~ アリマー、いい人いた~?」

「まあ、それなりには」

「聞かせて~」


 まったく、この子ときたら……

 ですが、わたしも一休みしたいと考えていたところ。


「そうですね……どこからいきましょうか」


 わたしがまとめたものの中には、ランダムに選ばれた人物の中から、これはと思う者をピックアップした資料があります。

 『トップ候補』の項から、スキルなしの注目人物。次に高ランクスキルを獲得した者のリスト。そして『要注意人物』です。


「スキルなしの状態ならば、惑星ガラタの歴代最年少統一国家首相『ヤトム・パラデニク』。若干40歳で国家のトップとなり、政戦両略の雄と言われていますね。まあ、彼が突然消えたことで惑星ガラタは大混乱でしょうけども」

「へえ~ 混沌としちゃうわね~」


 まったくもってその通りです。公平を期すためにランダムなのはいいものの、これでは無用な混乱を招いてしまいます。

 しかし創造主のお考えは広大にして深淵。異を挟んでもしかたのないことですが。


「他には~?」

「惑星プラムトのプロバトルスポーツ『エクストリームボール』の五期連続チャンピオン『アーダル』。勝つために肉体を改造することすら厭わない民衆の英雄です。スラム街出身というのも人気の要因ですね。あとは惑星シンドバルの魔物ハンター『DDD』なども有力でしょう。強さもさることながら高潔な人物で、救世主と呼ばれています」

「ふ~ん」


 イラっ、としました。

 話を振っておいて全然興味がない様子。ここはやはり爆裂を……


「要注意人物はどうかしら~」


 と、彼女は勝手に資料を漁り始めます。

 急に気が抜けてしまいました。

 しかたありませんね。わたしはコーヒーを用意しましょう。

 コーヒーなる飲料はまさに珠玉。地球が担当で心から良かったと思います。我ら高次の量子的存在は永遠とも言える寿命を持ち、生半可なことでは心が動きません。長く楽しめる嗜好品と出会えることは稀なのです。

 カップに注ぐと湯気がふわりと立つ。

 うーん、良い香りがしますね。


「ねえ、アリマー、この『剣鬼』って」

「ああ、惑星ニヴィルの戦士『ヨーツント』ですね。さすがに聞いたことがありますか」

「この人も選ばれたのね~」

「困ったものです。送られてから間もないというに、すでに勝負と称して幾人も斬殺していますからね。とはいえ我らは手出しできませんし」


 戦士ヨーツントは戦争の英雄。しかし終わった後も剣の道を究めんとする求道者となり、『剣鬼』とあだ名されています。問題は殺人という行為に対しなんら良心の呵責がないことです。ヨーツントにとっては他人など剣の肥やしでしかないのでしょう。


「出会った人間は不憫。そう思うしかない」

「スキルの方はどうなの~?」

「スキルランクC『空間把握術』、同じくランクC『自動迎撃システム』、ランクE『瞬発力上昇≪中≫』ですね。どれも元々のスペックに相性の良いものばかりです」

「へえ……でもあんまり好みの顔じゃないわ~」


 ここまで聞いた感想がそれなの!?

 付き合いきれませんね。


「そういえば別件の資料ってなーに? 見せて~」

「!?」


 ちょっと! それは私的な———

 無情にも彼女は頼んでいたものを無断で開けてしまいました。


「えーとぉ……葉坐間レイ? え? なんで?」

「いえ、それは、その……」


 わたしの反応を見てにやりとするアフーラ。


「え~ うそ~ マジ~? そんなに気に入っちゃったのぉ~?」

「違います! ちゃんと見てください!」

「ん~? スキル『★/%〇』についての回答?」

「ええ、彼が最後に得たスキルが気になりましてね。ヒトツマさんを介してメーティス様に問い合わせをしていたのです。というか何故勝手に見るのですか。わたしもまだ見ていないのに」

「ごめん~」


 渡された資料に目を通し、わたしは言葉を失いました。


「……始まりの原野よりわきでし遠き流るる万里の清川、水底の塵は収斂し巨麓となりあるべし。時、移り変わり、右を向くや左を向くや変貌せんとす」


 なんのこっちゃ。


「意味がわからないわね~」


 わたしと同じく、覗き込んでいるアフーラも頭に?を浮かべています。


「これは……意訳が必要ですね」


 さすがにこのままでは収まりがつきません。幸いなことに謎の文字が神代文字へと訳されました。これならば辞書を用いることで内容がわかるでしょう。

 部屋の書棚から神代文字の辞書を引き寄せて文字を照らし合わせます。時間が少々必要ですが、報告会までは少し間がありますし、暇つぶしには良い。

 

「アフーラ、手伝ってください。ずいぶんと暇なようですし」

「む~」

「さっきまでさぼっていたのですからこのくらいはやってもらいますよ」

「ぬ……」


 抵抗を諦めたアフーラの助力もあり、わたしたちはほどなくして回答にたどり着きました。

 長文が表す内容は『時間と共に』『姿が変わる』。これをさらに解釈していくと——


「つまり……『成長と変異』?」

「え~ なんか普通~」


 普通と言えば普通ですが、気にかかります。

 人は常に成長したり衰退したりするもの。それをわざわざスキルに? 

 どういうことでしょう? いえ、そもそも知識神とも言える方に聞かなければわからないほどの難解文字スキルが何故?

 と、その時です。


「集合せよ。時は満ちた」


 威厳を持つ声が頭の中に響きました。

 どうやら刻限のようです。


「アリマー、行きましょ?」

「ええ」


 わたしは葉坐間レイの資料を置いて席を立ちました。

 彼のスキルについては時間を見て後ほど考察するとしましょう。

次回から新章となりますです

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