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混沌と秩序の間に挟まれたらどうすればいーい?  作者: 雨森あお
神様ってなーに?
1/88

1 『ここはどこ?』

 人は相反する二つのものを抱えて生きることができる。

 例えば光と闇。矛盾とか二面性とか、あるいは混沌と秩序。

 間に挟まれた時、葛藤に苦しみ、折れる人もいるだろう。

 人は、儚くも美しい。

 と、ポエムじみた思いを胸にはせているのにはきちんと訳がある。


「おい、聞いてんのかてめえ」

「なんとか言えよ、ガイジン」


 おれはピンチを迎えている。

 目の前にいる二人の男は改造した学ランに身を包み、およそ高校生とは思えない強面をした、正に悪とか闇を体現したかのような二人だった。


「てめえ、さっき俺らのこと見てたろ? ああん?」


 見てはいないし、全く興味はない。


「俺らが『悪魔兄弟』だって知ってんのか? おお?」


 あ、悪魔兄弟……? 見た目の怖さとか以前にネーミングセンスの闇が深すぎる。


「なんとか言えっつんてんだろ!」


 すごんでくる悪魔兄弟。だめだ、今にも殴られそうな緊迫した状況なのに笑いが込み上げてくる。

 普通に登校していたのだが、人気の少ない川沿いの土手を選んだのがまずかったのか、絡まれてしまった。

 

 周囲に人はおらず、助けを呼べそうもない。

 相手は体もでかいしかなり強そうだ。ここは逃げるのが一番だと思う。


「わり、急いでるんで。あんたらも早く行かないと遅刻するよ、じゃな」


 しゅた、と手を挙げて脇を抜ける。


「逃げんなよ、こら」


 悪魔兄弟の片方が追いかけてくる。ちらりと振り向けば、おれの肩を掴もうと腕を伸ばしていた。

 おれは身をかがめてやりすごすと、バランスを崩した男の尻に足の裏を押し付ける。


 盛り上がった土手の上で蹴られたらどうなるのか。誰だって予想はつくでしょ。

 尻を押された男は大音量の叫び声を上げながら、斜面を転がって河原に滑り落ちていく。


「兄ちゃん!?」


 残った方がすぐに追っていった。

 なるほど、実の兄弟だったのか。兄思いだなー。


 おれは目を回してぐったりしている悪魔兄弟・兄と、介抱している悪魔兄弟・弟を尻目に学校へと急いだ。背後から『覚えてろよ!』とか聞こえたが、無視しよう。構ってる時間はない。




 晴れ渡った空の下、駆け足で学校へと向かったおかげで遅刻せずにすんだおれは、大きく息を吐きながら下駄箱で靴を変えていた。

 割とぎりぎりの時間だが、今来た奴らもいる。


「朝から疲れた……眠い」


 つい独り言を口にしてしまうくらいには疲れている。これはアレだ。早々に居眠りして怒られるパターンだな。

 それだけは勘弁、と靴を変えていると——


葉坐間はざまくん、おはよ」

「……ああ、おはよう」


 突然声をかけられたことで心臓が跳ね上がる。

 かろうじて平静を装い、普通に挨拶を返すのが精いっぱいだった。


 だって気配しなかったし。

 長く伸ばした前髪で目を隠している女子生徒がすぐそばにいた。


 彼女の名前はセナシオン。漢字はどう書くんだったか。瀬名汐音……だったかな。一応中学の時から同級生だが、まともに喋ったこともない。彼女はいつも一人でいて、誰かと会話している姿を見たことがなかった。つまりは『ぼっち』というヤツで、それはおれも同じだ。


「……けんか?」

「み、見てた……?」


 こくりと頷く瀬名汐音。


「……これ、落ちてた」


 差し出されたのは極小サイズのぬいぐるみ。おれがカバンにぶら下げてたヤツだ。いつ間にか落としてたらしいのだが——

 彼女はじーっとこちらを見ている。


「……見たことないキャラ」


 そりゃそうだ、おれが自分で適当に作ったキャラクターだし。ネズミの国の王様をパクった二次創作みたいなもんだな。


「拾ってくれたのか。サンキューな」

「……うん」

「それと……喧嘩のことなんだけど」


 誰にも言わないでくれ、とお願いする前に予鈴が鳴る。

 おれは何も言えないまま、教室に行くしかなかった。


 これ以上悪い噂が広がったらより一層孤独が深くなってしまう。

 おれは髪と瞳の色が黒じゃない。母親譲りで緑色の目をしている。さっき絡んできた悪魔兄弟に『ガイジン』と言われるのも、あれが初めてじゃなかった。


 小さい頃からからかわれ、絡まれ、因縁をつけられて、逃げたりしているうちに『危ないヤツ』とレッテルを貼られたわけだ。


 高校に入ってもぜんっぜん変わらなかったね。

 おかげでカノジョはおろか友達一人すらいない。

 別に興味ないからいいけどっ!? 強がりじゃないから!


 教室に入る時、瀬名汐音がこちらを見てふと微笑む。

 これは、『黙っている』というサインか?

 同年代の女性とまともに話したことのないおれには、微笑みが何を意味するかわからなかったが——なんとなく安心してしまった。


 それからすぐにホームルームが過ぎ、五分の準備時間を挟んで一時間目が始まる。

 さっき自分で予想した通り、強烈な眠気が襲ってきた。昨晩はちょーっと遅くなったせいで、とにかく眠い。


 おれは教科書を立てて、机にノートを目いっぱい広げて、頬杖をついた。

 なんとか乗り越えないと。


 ……

 …………


 やべ。意識が遠くなってきた。

 なんか思い出せ。

 楽しいこと。目が覚めるような。


 悪魔兄弟。

 なんて傑作なネーミングセンスだ!

 悪魔……兄弟……

 ……ZZZ




「……きて」


 なんだよ。おれ寝てるんだけど。

 

「……くん、起き……」


 眠くてしかたないんだ。起こさないでくれ。

 揺さぶられているのがわかる。


 なんだ? 居眠りがばれそうなのか?

 それでもおれの眠りを妨げることなどできはしない。一度寝たらちょっとやそっとじゃ起きないことに定評があるんだからな。


「……先、行っちゃうから」


 半ば呆れた声が聞こえて、うっすらと目を開ける。

 見覚えのない場所と大勢の人が見えた。

 なんだこの夢。気味が悪いな。


 ……

 …………

 

「はっ!?」


 跳び起きる。

 絶句、だった。

 頭も目も一気に冴え渡る。

 見渡せど周りには何もない……というのは正確じゃない。

 宇宙に似た星の瞬く空間がおれの周囲に広がっている。

 思わず自分の両手を見た。

 特に異常はなさそうだ。


 これが噂に聞く明晰夢とかいうやつか? なんか自由に動けるし。

 それにしてもここはいったいどこだ?


 本当に何もない。ただただ暗くて、どこまでも奥行きがあって、見ていると不思議な気分になってくる。

 夢、だよな?


 ゆっくりと立ったおれは、歩き始めた。

 少しだけ不安になって、心臓が鼓動を早くする。

 やがて、ずっと先に点が見えてきた。

 目を細めて焦点を絞ると、家のように思える。

 特に語ることのない、一軒家だ。


 おれは歩く速さを上げた。何かを考えている余裕がない。

 玄関の前につき、入るの躊躇してしまう。

 夢だとしても不気味すぎる。

 すると、ドアがひとりでに開いた。


「次の方~ どうぞ~」


 聞き覚えのない間延びした声。

 夢だと自分に言い聞かせているのに、緊張が隠せない。


「あら~ 入ってこないわ~」

「急かしてはいけませんよ。混乱しているのでしょう」


 どうやら屋内にいるのは二人。

 おれはごくりと息を呑んで、中へ足を踏み入れた。

 ごくごく普通の家。入ってすぐのところに大きな机が置いてあり、生活感はなかった。


「やっと来たのね~」

「彼が最後の一人ですよ」


 女性が二人いる。


 向かって左にいるのは薄手の白い布を纏った女の人。宙にふわふわと浮いていて、太陽のように輝きを放つ赤と金の髪をしている。優しい笑顔を絶やさない、端的に言ってすごい美人だ。


 右方にいるのはスタイリッシュなシルエットの黒いスーツに身を包んだ眼鏡の女性。きりりとした目や鼻や口はいかにも知的な雰囲気をかもし出している。控えめに言ってすごい美人だ。

 整いすぎた顔。

 かもし出す雰囲気も、今まで感じたことがない類のものだ。


 彼女たちが着ている衣服は白と黒。どこまでも対照的で、はっきりとしている。

 うーん、この二人にはまるで見覚えがない。

 まさかおれの脳が作り出した理想の女性……なわけないか。


 きっとどこかで見たなんかのキャラクターだろう。夢なのに細部まではっきりしているし……って、ダメだ。直視できそうにない。

 おれはすぐに白い方の女性から目をそらした。

 

「なんでわたし目をそらされたの~?」


 いやだって着ている服……っていうか布の面積少なすぎでしょ。


「それはあなたの服装が男性の視線を誘導する類のものだからです。年頃の男子にしてみれば目の毒ではありませんか?」


 ぴしゃりと言い放つ黒い方の女性は、眼鏡をくいっと直した。

 あまりにも視線についてはっきりと言われてしまい、おれは耳が熱くなってしまった。それじゃまるでおれがガン見していたみたいじゃないか。


「うそ~ でもこれが普通だし……」

「常日頃から破廉恥な恰好をしていますからね」

「はあ~~~~~~~~!? こんなのいまどき普通でしょ~~~~」

「話が進みません。真面目に」


 繰り広げられる漫才じみたやり取りに半ば呆れていたおれへ、二人の視線が集まった。


「まずはおかけになってください」

「あ、いや……」

「なにか質問でも?」

「あんたたち、誰? そもそもこれ、夢、だよね」


 おれの問いに対し、白い方の女性がとても優しい慈愛に満ちた笑みを見せた。


「わたしたちは~『神』よ~」


 神? 髪? それとも紙?


「アフーラ、端的に過ぎますよ」

「でも一番わかりやすいでしょう?」

「か、かみさま……?」

「厳密には違いますが、ぶっちゃけるとそんな感じです」


 ええ……

 何言ってんのこの人たち……

 なんだか気が遠くなってしまった。

 きっと、死んだ魚みたいな目をしているんだろうな、おれ。

 

 

導入部分になります

ノリと勢いで投稿していきます。

楽しく明るくやっていきますのでとろしくおねがいしもす

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