表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

スナック菓子

作者: ↑MΦCCAHAN

「パパ、ポテチいる?」という息子の剛に

「いらねーよ。」と言って、私、日野 健一はコークハイを仰いだ。スナック菓子は本当に嫌いである。

ああ、そしてあの日バーで歌っていたかなでちゃんを思い出す。すごく、とても綺麗だった。かつて、働いてバーで歌う彼女に私は片思いしていたのだ。あの頃は、彼女ともよく話した。あんなふうに簡単に話せるのがバーテンダーのいい所だったし、あの店のいい所だった。

「ポテチいらないからな。」私の皿に乗っけてくる息子に少し怒鳴る。

しかし、今ではどうだ。かなでちゃんはかなり売れっ子になり始めていた。売上もなんでいいらしい。それは、今度発売されるあの歌はバーや大衆酒場のような経験を踏まえて作られた歌詞であり、それが、スナック歌詞なんて呼ばれてるが、本当にどん底から這い上がった精神が多くの心をつかむため、そんな風に売れるという。彼女もやはり辛い思いをしたのだろうか。

「日野さん、あの子には芯があるんだよ。」このバー『レーミモン』のマスターは私の話の後で厳しく言った。

「芯なー。俺には全くないもんな。」

「そうそう、日野さんは昔から聞く耳を持たず流されてばかりですからね。」

そう私が、こっちの裏側に入り始めたのも結局は流されてだった。かつての友人の借金の保証人になってしまったのが運の尽きだった。最初は頑張って派遣で食いつないだが、肉体労働は体に負担が大きく肩重い日が何日も続いた。結局、六本木でやっていたバーでたまたま出会った奈津さんに相談してしまった。そして、彼女の紹介メキシコ人のアレハンドロにいいようにシンナーの運び屋をやらされるようになったのである。

「剛!ポテチを置くなよ!」私はかなり怒った。剛は、自分でまた食べ始めた。

はー、今では借金はなくなったが、簡単に金の入るこの裏側の仕事は止められなくなっていた。もし、彼女を手に入れたら、こんな仕事せずにもっときちんと頑張って働いて幸せにしたのにな。あーあ、こういう仕事はスナック菓子みたいに手を洗っただけじゃ、落とせないからな。

こいつも、と、剛の方を見る。こいつはかつての女の連れである。離婚したが、こいつだけが、手についたポテチをはじめとするスナック菓子のようについてきた。本当にスナック菓子は嫌いだ。



しかし、マスター、もとい、悪魔ダーバジールは知っていた。

たとえ、この男がかなでを手に入れても、

たとえ、借金の保証人にならなくても、

たとえ、離婚しなくても、

そのときどきで、

あるときはかなでをスナック菓子呼ばわりし、

あるときは妻をスナック菓子呼ばわりし、

またあるときは、時代や世間をスナック菓子呼ばわりするということを。

つまり、皮肉にも、現代で悪とされているスナック菓子を少しでも好きになること、せめて今、剛くんからのポテチを食べることが、日野の人生を少しだけ幸せにするのだが、それを知らない日野の人生はスナック菓子のように軽く薄く、そして、簡単に潰れてしまう。

ただ、私はそうやった多くの軽い人間というスナック菓子の入った袋を開けてきたが、たまにならまだしも毎日あれと向き合うには、少し深みがなさすぎる。特にこの家系は末代までは本当に酷い。そう、だから、スナック菓子は嫌いなんだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ