エピローグ
真っ白な世界が広がっている。
夏はビルに反射した日差しが眩しく地面からは跳ね返りの熱でますます体感温度は上昇する。
一昔前よりは特殊な技術で地面の熱を地面下へ逃がすことで、跳ね返りの熱が減り体感温度は低くなったが、それでも暑いものは暑い。
しかし、冬になると一面が白い世界に様変わりする。
地面は冷え凍結し、毎日のようにスリップ事故がテレビで報道される。
降り積もった雪で通勤するサラリーマンは靴下を濡らしながら必死に通勤している。
そんな中、陽太郎は千絵と肩を並べ渋谷の街を歩いていた。
陽太郎の辞任は日本中を震撼させた。
日本中は日本政府の迷走だとして不安がり、外国との関係にも影響を及ぼすと、ネット内でも話題になった。
しかし陽太郎の会見での言葉で少し風向きが変わった。
「今、日本は大きく変わらなければなりません。『若者中心プロジェクト』として立ち上げましたが、正直メスを入れるのは、我々政治家ではなく、日本という国なのです」
するとある用紙を取り出した。
「これは『賃金分配庁』から報告を受けた際の中小企業の収支報告書です。左右で『賃金分配庁』調べのものと、各中小企業からの報告された収支報告です。なぜここまでグラフが変わるのでしょう。誰でもわかるでしょうが虚偽報告がこれだけグラフが動くぐらいの企業で行われたということです。少しでも人件費を減らしたい。その一心だったのでしょう。これには私の説明不足があったのかもしれません。業績に賃金を比例させる。業績が上がったからと言って法外な賃金を与えるよう指導しません。あくまで各企業の収支バランスに沿って賃金を確定するためです。それを嘘の報告書で少しでも人件費を抑えようとなんてあってはならないことです。日本全国民で考えましょう。どうしたらこの問題が解決されるか。そして私達の年代が中心になる年代になったら、日本を正しましょう。スタートを切りましょう。今僕らの年代に出来る事をこの汚れた日本を目に焼き付けることです。今僕らの年代が中心になったところで、変えることは難しいでしょう。ですから今は知識を蓄えましょう。そして数十年後素晴らしい日本を作り直しましょう」
「陽太郎あの巨大スクリーンの中で日本中に堂々と訴えかけたんだよね」
陽太郎は恥ずかしながら頭を搔くと「スクリーンの中ではないけど」と言い続けた。
「最後の方は無我夢中で緊張なんてなかったな。でも、正直あのまま続けていたら俺壊れていたと思う」
千絵は微笑むと言った。
「でも、こうして私の隣を歩いてる。これで良かったんじゃないかな」
「俺が隣にいて嬉しい?」
陽太郎がふざけて問うと少し走って振り返り千絵は言ったのである。
「嬉しいに決まってるじゃん。だって日本中でいや、世界中で一番大好きな人なんだもん」