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放置された未来  作者: イトユウ
6/8

5 格差社会問題2

「『若者中心化プロジェクト』、徐々に進めつつありますが、何にしても一番の問題はこの格差問題だと思います」


陽太郎は慣れないながらも自分の気持ちを伝えようと必死に言葉を放っていた。


会議に集まるメンバーも、若者中心化プロジェクトにより二十歳前後の人間が増えフレッシュさが増していた。


「『若者中心化プロジェクト』第一項にありますが賃金配分をひっくり返しても何の解決にもなりません。只々高齢者の社員の生活が苦しくなるだけです。これでは数十年後またこういう問題が今度は年配の方に起き高齢者中心化プロジェクトとでも立ち上げなければならなくなるのではないでしょうか」


大半のメンバーが何度も頷き陽太郎の言葉に納得しているようである。


「正直、この問題はもう取り返しのつかないところまで来ています。外国からは日本人はそこまで働いているのに何故それだけの報酬しかないのだ、外国で就職すれば良いのにという言葉がよく聞こえるようになっています。この悪しき流れを止めるべく新たな庁を設立したいと思います」


すると陽太郎は徐に額縁に入ったA3サイズの用紙を取り出し皆に掲げた。


そう、年号が変わる時に官房長官が新たな年号を掲げるように。


『賃金分配庁』


「この庁には国をトップとし、各都道府県に設置いたします。各企業には収支報告書を毎期賃金分配庁に上げて頂き、この賃金分配庁が毎期の賞与、ボーナスですね。更に賃金を決定いたします。なので収入と各社員の賃金の割合を統一化しようという取り組みです」


顔をしかめるもの、腕を組むもの、何度も頷くもの、様々な反応が見られた。


すると、前に『定年後義務教育』制度を陽太郎が掲げる際にやりあった狩野が再び意見した。


「完全に収支に依存する形になると色々と問題があると思います。プロスポーツ選手は何億もの賃金を稼いでいますが、チームの利益は赤字だとのスポーツチームは意外に多いです。そこで収支による賃金の割合の統一化をすると、一気にスポーツ選手の賃金は下がり、翌年の税金問題にも絡み、税金滞納も出てくるでしょう。その前に各企業が黙っていないでしょうが」


今回ばかりは陽太郎も言い返すことができないでいた。


すると傍らに座っていた千絵が意見した。


「では、何かしらの案があるのでしょうか。意見ばかりで何の解決策も出て来ません。ここまで格差社会が深刻になったのは、何も動かなかったのが原因なのではないですか。今こそ動くべきです」


「ですからその内容が駄目だというのです。臨機応変に事を進めようにも、今度は自分の企業だけ割合がおかしいのではないかと苦情が殺到します」


「それは承知のうえで総理は言っているのです。ですから、改善策を出してください。意見はその後で聞きます」


狩野は何も言い返せなくなり下を向いたまま怒りで肩を震わせていた。


陽太郎はその狩野に気を使うかのように言った。


「正直、狩野さんの言うことはもっともです。色々と新たな庁である『賃金分配庁』には色々とバランスを取っていただくことになります。ですからその役割を狩野さんに要請したいと思っています。『賃金分配庁』のトップとして賃金分配庁長官としてその腕を発揮してほしいと思います」


狩野は陽太郎を信じられないというような目で見ていた。


「狩野さんの意見は毎回ありがたく思っています。日本を良くしたい、その気持ちが伝わってくるのです。正直自分も意見が欲しいのです。でなければこの会議の意味が無い。何の意見も出さずにこの場にいるだけの議員にく比べるとどちらを長と据えるのが良いのか一目瞭然です。一緒に頑張りましょう」


陽太郎は狩野と握手をして会議を終えた。




「もしかして、才能あったんじゃない?」


「何言ってんだよ。精一杯だし、たまたまだよ」


千絵は先程の一部始終を見ていて深く感動したようだ。


「確かにあの狩野さんを仲間に入れたのは大きいですよ。力は確かなのですが、歴代の総理は少し手を焼いていましてね、力があるので会議のメンバーから外すわけにもいかなかったんですよ」


進藤も陽太郎のに関心しているようであった。


「だけど、ここからだよ。狩野さんが言っていたように問題は山積みだからね。前回の高齢者義務教育のように上手くいく確率は低いんじゃないかな。そこまで深刻だったからね。素人の自分にも分かるくらいに」

前回の高齢者義務教育制度は、大きな成果を上げていた。


莫大な金がかかったのは確かだが、この一年で各都道府県に高齢者の専門の学校を設置するや否や、高齢者の事故が激減。


各学校で講師から高齢者に事故の危険をはたらきかけることにより運転する高齢者が減ったのである。


しかし、陽太郎はそれでは何の解決になっていないと思っていた。


『若者中心化プロジェクト』の世代が高齢者になった時、素直に安全運転を心がけるだろうか。


自分達が若い時代に中心を担ってきたという驕りが高齢者になった時、マイナスに出る可能性が高いことを危惧していた。


陽太郎は、その事も考えなくてはならないと頭の中で考えていた。




けたたましい警報機の音に陽太郎は飛び起きた。


部屋中、いやこの移住区全体に響き渡っているこの音は、何かしらの緊急事態が起きたことを意味している。


部屋を出ると血相をかいた進藤が走り寄って来た。


「国会議事堂に火が投げ入れられました」


陽太郎は進藤の言っている内容を信じられず、呆然と立ち尽くしていた。


テロか、もしくは愉快犯の仕業か。


愉快犯が国会議事堂に火を投げ入れるか?


そんなリスクが高いことを愉快犯がするとは思えない。


するとテロの可能性が高い。


何かしらの暴動が起きているとは聞いていないため、テロの可能性が現実味を帯びてきた。


「詳細は分かっているのですか?テロの可能性は?」


「それが高齢者団体の仕業の様で」


陽太郎は全身の力が抜けるのを実感していた。


この事が何を意味するのか。


それは陽太郎がここまでやってきた、いやそれより前から行われてきた『若者中心プロジェクト』への反発に他ならない。


「そんな危険な集団がいるとは聞いてませんでしたよ」


「話してしまうと、総理が委縮してしまうと思い、黙っていました」


言うと進藤は頭を下げた。


新しいことを始めると古き良き伝統をと反発する人が出てくるのはどんな事でも一緒で、そんなことは陽太郎も分かっていた。


しかし、まさかここまで行動に移す集団が出来上がっているとはショックと共に驚愕していた。


「ところで千絵は?」


進藤は首を傾げると千絵の部屋に近づき連絡しようとする、千絵の部屋のドアの異変に気がついた。


壁とドアの間に傷が無数についていたのである。


明らかに鍵を開けようと外から刃物で切断しようとしており、我に返った陽太郎と進藤は中に聞こえないのは分かっているが何度もドアを叩いた。


外からは開けられないので、警察をよんで、ドアを破壊するしか方法は無い。


進藤は連絡をしに走って行った。


――どういうことだよ。何で千絵が。総理は俺なのに。


数分後警察が特大な電動ノコギリのような機械を持って来た。


すると、大きいおと共に、ドアの切断にかかった。


ドアが開いた時中が見えたがその途端陽太郎たちは絶望するほかなかった。


部屋は滅茶苦茶に荒らされていたのである。


恐らく千絵はいないであろう。


そんなことは分かっているが陽太郎は部屋の隅々まで探した。


しかし、とうとう千絵を見つける事は出来なかった。


陽太郎は膝をついて床をこぶしで何度も打ち付けた。


「ちくしょー!なんでだよ!」


何度も何度も叫んだのである。


進藤らその場にいた人間たちが止めに入るまで。

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