未央のとりあえずの結論
校長先生は私がケガして倒れてるのを見て、
副校長先生と山崎先生をカンカンになって
叱ったらしいわ。
救急車と警察は、美波のパパが呼んでくれたんだって。
美波は予定より帰国が一週間早まったの。
あの日、ちょうど日本に帰って来て、パパと一緒に学校に挨拶に来たら、裏門の所で先生達を呼びに行く桜にバッタリ出くわしたの。
それで桜から事情を聞いて、美波は私達の所に駆けつけてくれたのよ。
◇◇
山崎先生はイジメを放置して、生徒が学校内で傷害事件を起こした責任を問われて、謹慎処分になったの。
その後すぐに他の小学校に転勤になったわ。
奈緒と理子も、あの後すぐに他校に転校させられたの。
あの二人はお互いに家庭環境が複雑で、家の中では、かなり追い詰められた状態だったらしいの。
たぶん、ああやってイジメを繰り返す事で、
あの二人は自分を保ってたのね。
でも、あの二人のケガが軽症で良かった。
手脚の打撲程度ですんだらしいの。
美波はあの時、二人が大ケガをしないように
相当手加減して攻撃したんですって。
全く信じられない運動能力ね。
私も彩芽も驚くというよりは、
呆れてしまったの。
◇◇
私は三週間ほどで退院したの。
左手のケガは出血の割には軽症だったけど、私はあの時、胃潰瘍と貧血と自律神経失調症を併発してて、そちらの治療の方が大変
だったの。
カウンセリングもたくさん受けたわ。
入院中は、美波と彩芽と桜が、毎日のようにお見舞いに来てくれたの。
あの三人には本当に感謝してる。
「未央は良い友達を持ったなあ。友達は一生
の宝物だ。大切にしないといけないよ」
って、パパが言ってたわ。
私がこういう事になって、
「まったく何で直ぐに、パパとママに相談しなかったのよ」
って、ママは私を叱ったの。
「私、パパとママのお仕事が忙しそうだったから心配かけたくなかったの。それに自分の問題だから自分で解決しようと思ったの」
って言ったら、ママは泣いてたわ。
パパも私の話を聞いて、大きな瞳から涙を
ポロポロこぼして泣いたの。
私、パパが泣いたのなんて、
生まれて初めて見たわ。
順子お姉ちゃんもお見舞いに来てくれて、
こう言ってた。
「電話でもメールでもいいから、私に相談してほしかったなあ。でも私の立場だと、未央を励ますくらいの事しか出来なかったかもしれない。だけど未央の両親に、直ぐに話してあげる事だけは出来たと思うよ」
ってね。
◇◇
十一月の下旬には、ほとんど回復し、
私はまた学校に通い始めたの。
勉強の遅れを取り戻すのが大変だった。
パパはその後しばらくして、前の会社から
独立したの。
自分の仲間達と一緒に、新しい会社を作っ
たのよ。
ママも凄く賛成したの。
パパは今、いつも家で仕事してるわ。
忙しい時は、たまに外出したり、
出張したりするけどね。
でもそういう時は、ママが早く帰って
来てくれるようになったの。
パパと一緒に過ごす時間が増えて、
私、今とても幸せ。
相変わらず、本ばかり読んでるけどね。
でもパパが側にいると、安心感というか、
そういうのが全然違うの。
学校のことも直ぐ相談できるし、勉強も
分からないところは教えてくれるの。
夜遅くまで、私一人で留守番するような事も
無くなったわ。
◇◇
今回は色々と反省する点もあるけれど、
私は自分なりに、
[よく頑張ったな]
って、思ってるの。
辛くて本当に死にたくなった時もあったわ。
でもあの時、
[絶対に負けたくない!]
って思えた事が、凄く良かったと思うの。
やっぱり、おじいちゃんが天国から、
私を見守ってくれてるのかもしれない。
◇◇
『人間って、何で生きてるのかな?』
っていう疑問は、今だに私を苦しめるの。
でもこの問題は、一生かけて解いて行か
なければならない問題だと、私は思うの。
だって大人のパパにも分からない、
難しい問題なのよ。
だけど私、今回は少しだけ、神様から
ヒントをもらったような気がするの。
私ね、侍のお化けを見たり、おじいちゃんの若い頃の不思議な体験を聞いたりして、思ったの。
人間ってね、やっぱり、
『死んだら何もかも全て終わり』
っていう存在じゃないと思うの。
きっと何処かに、神様のような大きな存在がいて、私たち人間を見守っているような気がするの。
そして神様は、私たち人間に色んな試練を
与えて、試してるような気がする。
人それぞれのテーマというか、その人その人に合った試練を色々と用意してね。
そして神様は、人間がそういう試練を、
『私は負けない!』
って、乗り越えて行くところを見たいんじゃないかな?
今回思ったんだけどね、私の場合はたぶん、
美人に見られがちな自分の容姿や、夢見がち
な自分の性格と、どう向き合って行くかが、
テーマなんじゃないかなって、勝手に思って
るの。
でも本当はね、何の苦労もしないで人生を
生きて行けたら、それが一番楽だと思う。
私も本当は、苦労なんかしたくないわ。
苦労なんかしないで、楽に生きて行けたら、
どんなに良いだろうって思うの。
だけどよく考えてみるとね、例えば何の苦労もせずに、ただボーッと人生を生きて天国に帰ったとするでしょう?
そしたら神様は、きっとガッカリするんじゃないかな?
『未央さん、あなたはせっかく地上に生まれたのに、何をやってたんですか?』
とかって言ってね。
だから私はこの先の人生で、何が起きても、
絶対に負けずに頑張って生きて行こうって、
心に決めたの。
間違ってるかもしれないけど、これが私の
とりあえずの結論なの。
完