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夢見る未央のモノローグ  作者: 宇目 観月(うめ みづき)
8/9

未央闘う

第二校舎裏の農園は、今はあまり使われてないの。


農園と言っても小さな畑よ。


私の小学校では、各学年ごとに、ここで野菜や果物を作るの。私はナスやトマト、キウイやゴーヤなんかをここで作ったわ。


だけど去年、本校舎の横に新しい農園が出来たの。それで今年から、ここはもう使われなくなったの。


最近はあまり人が来ないから、男子達が女子に告白したりする場所になってるの。


この畑と第二校舎の隣はプールで、その横に裏門があるけど、あまり人が通らないから、ここはあまり人目につかない場所なの。



私はそこに立ち、周囲を見回したわ。


暖かい秋の日差しが農園を照らし、

私の体を温めてくれていた。


何時いつもと変わらない、のどかな風景だった。


太陽の光って万人ばんにんに対して平等よね。


私はこれから、奈緒達と対決しようとして

いる自分が馬鹿ばかしくなった。


[もう、どうでもいい。全てを忘れて、

どこか遠くに逃げ出したい]


って思った。


だけど、こうも思ったの。


[それじゃダメ! やるべきことは最後まで

やり通さないと]


ってね。


私は気を引き締め直したの。



◇◇



私がそこで待っていると、奈緒と理子がやって来たの。


二人はあたりに誰か隠れていないか気にしてるようだったわ。


周囲を見回しながら私の前まで来ると、

奈緒がこう言ったの。


「お前一人か? 誰か連れて来てんじゃねーだろうな?」 


会話の担当はやっぱり奈緒だったわ。


理子は怖い目つきをして、カッターナイフを持って横に立っていた。


「私一人よ」


私は緊張で、少しあしが震えてたわ。

たぶん顔も真っ赤だったと思う。


「それで、何なんだよ、話って?」


奈緒が私の様子を見て、面白おもしろそうに笑いながら言ったけど、表情がかたかった。


奈緒も少し緊張してるみたいだった。


「分かるでしよ?」


私はだんだん落ち着いて来た。


「分かる訳ねーだろ、お前頭おかしいのか? 人呼び出したの、おめえーだろ? ざけんじゃねーぞ」 


私の予想通りの展開だわ。


「じゃあ言うけど、もうみんなに私をシカトさせたり、私の靴や本を隠したり、ランドセルをカッターナイフで切ったり、『死んで』とかって書いた紙を、私のリュックに入れたりするの止めてくれない? 止めてくれたら、私もこれまでのことは忘れるから」


「おめえ、何寝ごと言ってんだよ? あ! 何のことだか、全然分っかんねーよ。やっぱ天然だなあ、おめえーはよお」


「あなた達、何が目的なの? どうして、私にこんなひどいことばかりするの?」 


「だから、何のことだか分っかんねーってんだろーがよ!」


「あなた達、そうやってシラを切り通して、言いがかりをつけられたとか言って、どうせ私を悪者にするつもりでしょ? 考えが浅いわよ。そんなことして何が楽しいの? あなた達がしてることは、人間として最低の行為こういよ。恥ずかしくないの?」


「てめえ、生意気な事ばかり言いやがって、そんな事言うんだったら、私らがやったっていう証拠を見せてみろよ。証拠もねえのに、いい加減かげんな事ばかり言ってんじゃねーぞ!」


[来たな]


って、私は思ったの。


「証拠ならあるわよ」


と言って、私はスカートとおなかの間にはさんで薄手うすでの白いパーカーのすそで隠していた二枚のクリアファルを取り出したの。


「ケッ、何だよそれ?」


奈緒が馬鹿にしたように笑ったわ。


「これはね、あなたが書いた『死んで』っていう紙と、ランドセルの切り口の写真よ」


「たく何かと思ったら、そんなくだらねーもん出しやがって。そんなもん、何の証拠にもならねーんだよ。馬鹿じゃねーの?」


奈緒があざ笑うように言ったの。 


「あなた、筆跡ひっせき誤魔化ごまかすために左手で書いたんでしょう? このランドセルのショルダーの切り口だって、自然に切れたにしては切れ方が綺麗過ぎるわ。これは理子、あなたがやったんでしょう?」


「何言ってんだテメー、勝手に決めつけてんじゃねーぞ、コラッ!」


理子がキツイ目で私をにらんで、初めて口を開いたの。


すると、奈緒が可笑おかしそうに声を上げて笑いながらこう言ったの。


「おめえなあ、証拠ってのは、もっとハッキリしたもんじゃなきゃダメなんだよ。たく分かってねーなあ。そんなもん大事そうにプリントしてよ。笑っちゃうぜ」


「これ以上ハッキリした証拠はないわ。この紙には奈緒、あなたの指紋しもんがついてる。それにこのピンクのランドセルの実物にも理子、あなたの指紋がついてる。このランドセルは去年()くなった私のおじいちゃんが入学祝いに買ってくれたものなのよ。私はあなた達を絶対に許さない!」


奈緒がまた笑いながら言ったわ。


「何が指紋だ。笑わせるなバーカ。てめえ推理小説の読み過ぎじゃねーのか? どうやってそれを証明するつもりだ。そうけんにでも持って行くつもりか? てめえの戯言たわごとに警察が付き合うとでも思ってんのか? この天然女が!」


「奈緒、あなたこそ何も知らないのね。今はお金さえ出せば、民間の探偵事務所でも指紋鑑定(かんてい)くらい出来るのよ。私はあなた達がやったこと、全部証明してみせるからね。覚悟しなさい!」


私がこう言ったらね、奈緒の顔から余裕の

表情が消えたの。


「クッ、テメー! やれるもんなら、やってみろよ。言っとくけどな、それには私らの指紋なんか付いてねーぞ。私らがそんなヘマする訳ないだろうが、この馬鹿女!」


「それじゃあ、あなた達が指紋をき取ったってことね。奈緒、頭の良いあなたが、とうとうボロを出したわね。今、あなたが言った言葉は、自分たちが犯人だって証明しているようなものよ」

 


私がそう言うと、奈緒は顔をゆがめてサッと手を伸ばし、私が持っていたクリアファイルをうばい取ったの。


そして素早く、あのA四の紙をファイルから抜き取って、その紙を引きこうとしたの。


指紋がまだ残ってるとしか思えない行動

だった。


私はとっさにそれを止めようとして、両手

を突き出し、奈緒の手をつかもうとしたの。


だけど、横から手を出してきた理子に邪魔じゃま

されてしまった。


「痛い!」


って、私は思わず声を上げたわ。


自分の左手を見ると、てのひらの親指の付け根の

あたりから血が出てたの。


理子は驚いたような顔をして、私の左手を見ていた。理子のカッターナイフを持つ手が震えてたわ。


私は自分の左手の傷口を押さえてしゃがみ込んだの。血が後から後から流れて来たわ。



ふと顔を上げると、奈緒はA四の紙とランド

セルの写真をビリビリに引き裂いてた。


理子はまだ呆然ぼうぜんと自分が握っているカッターナイフと、私の左手を見くらべていたわ。



「奈緒、そんなことをしても無駄よ! ランドセルの実物は、まだ、私の家にあるわ!」


って、私は叫んだの。


傷口がジンジンうずいてきて、凄く痛かった。



すると、奈緒が理子のカッターナイフを奪い取り、物凄い形相ぎょうそうをして私の前に立ちはだかったの。


「テメー、本当に殺してやる!」


って、叫んでた。


正直言って、私、殺されると思った。



その時、第二校舎のかげから彩芽が飛び出して来て、私をかばうように抱きしめたの。


そして、奈緒にこう言ったのよ。


「奈緒止めて! お願い、冷静になって! 今

桜が先生達を呼びに行ったわ。私達、ずっと校舎の陰に隠れて、未央とあなた達のやり取りを聞いてたの。ハッキリ言ってあなた達の負けよ。もうこんなこと終わりにしよう!」


「そうだよ、奈緒、ヤバイよ、もう止め

よう!」


って、理子も奈緒の肩をつかんで叫んでたわ。


でも、奈緒は理子の手を振りはらってこう言ったの。


「うるさい! 私は初めて見た時から、この女が嫌いだった。自分が美人だからって、いい女ぶりやがって。いつもまして本ばかり読んでやがる。テメーを見てると、心の底からムカつくんだよ! 翔太だってテメーにだまされてんだよ! お前なんかぶっ殺してやる!」



奈緒はカッターナイフを握り締め、

私達に近づいて来たわ。


完全に狂ったような目をしてたの。


私と彩芽は恐怖で動けなかった。

目を閉じて抱き合い、身を固くしたの。



するとその時、プールの方から美波の声が

したの。


「止めろ、奈緒!」


私達が振り向くと、美波がプールと第二校舎の間を、全速力で駆けて来るところだった。


美波は、


「うおおおー!」


って、甲高かんだか雄叫おたけびを上げながら、

こちらに向かって走って来るの。


物凄い速さだった。


美波は約四十メートルの距離をアッと言う間に駆け抜けて、奈緒まで残り五メートルの位置まで来ると、思いっ切りジャンプしたの。


そして空中で、奈緒のカッターナイフを持った右手を、まるでサッカーボールでも蹴るように、右足でキックしたの。


その瞬間、カッターナイフは奈緒の手をはなれてクルクル飛んで行き、第二校舎の壁ぶつかって刃がこな(ごな)くだったわ。


キックすると同時に、美波は空中で体を反転はんてんさせて、奈緒とその後ろにいた理子に、背中から激突したの。


二人は交通事故にでも会った様に、

二、三メートル吹っ飛ばされたわ。



「うーっ、ってえー」


って、畑の中に倒れ込んだ二人は、

よわ(よわ)しくうめいてた。


二人とも動けないようだった。



美波は立ち上がって、私と彩芽のそばまで

来るとこう言ったの。


「ただ今、未央、彩芽。大丈夫?」


ってね。



私が覚えてるのは、そこまで。


私はその直後に気絶して病院に運ばれたの。

気がついたのは、病院のベッドの上だった。




◇◇



あの後、桜と先生達が駆けつけて来て

大変だったらしいわ。


救急車は来るし、パトカーも来るし、

大騒ぎになったらしいの。

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