表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
賢者の胆石  作者: 佐藤謙羊
第2章
95/119

34 昇進試験7

 俺とリコリヌはレッド・ジャイアントの腹を通り過ぎ、胸へとさしかかった。

 ノーマークの時は一瞬で肩まで登りつめたってのに、いつ滑落してもおかしくないほどに、激しい妨害に晒されている。


 デカブツ野郎は首を限界まで前に折って、胸を這い上るいたずらハムスターを叱るように、俺たちを睨みつけ……。

 って、そんな可愛らしいものに接する表情じゃないな。


 まるでドブネズミでも見るコックのような、修羅の表情。



 ……グワアッ!



 その口が食らいついてきそうなまでに大きく開く。

 炎トカゲ(サラマンダー)のようにてらてらとした舌の奥には、赤熱したガラスのような喉彦。



 ……カッ!!



 それが直視できないほどの輝きを放った途端、思わず目がくらんでしまった。

 視界を奪われても、攻撃の気配を察することができたのは、尋常ではない熱気をはらんだ呼気を感じたからだ。


 またブレスかと思ったが、同じ吐息でも趣がだいぶ違う。

 人間で例えるなら、悪酔いの真っ最中のような……!



「こいつは……ヤベえっ!?」



 危機感が口をついて飛び出した、寸毫(すんもう)の後、



 ……ゴバァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーッ!!!!



 ヤツの口から、広大な胸一面を覆うほどの、灼熱の液体が吐き出されっ……!

 真っ赤な高波となって、襲い来たっ……!!



『イヤァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーッ!?!?』



『バッカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーンッ!?!?』



 痛ましい悲鳴と、むかつく悲鳴が謁見場内を揺らす。



『レッド・ジャイアントの口からオゲェーーーッと吐き出されたのは、なんとなんと、マグマっ!? あんな攻撃、見たことない! 初めてじゃないですカァーーーッ!? きっとレッド・ジャイアントも、醜いアリンコとノミッコに気分が悪くなったに違いないデスカァーーーーッ!? バッカッカッカッカッ!!』



 迷調子はさらに続く。



『しかしアレはよけられない! 胸を登っている最中に、上からマグマをぶちまけられたんじゃあよけられない! アリンコとノミンコ、一歩も動けず飲み込まれてしまいましたカァーーーッ!? しかもまだまだ口からマグマは出続けてますカァーーーッ!? もう胸どころか、身体じゅうビッチャビチャですカァーーーッ!? よっぽど気分が悪かったんですカァーーーッ!? あれじゃアリンコとノミッコは、骨も残ってませんねぇ! バーッカッカッカッカッカッカッカッ!!』



 観客たちは、悲痛な声を絞り出す。



『あ……ああ……』



『セージくん、死んじゃったぁ……』



『あんな攻撃、いくらリコリヌちゃんでも、よけられないよ……』



『なに言ってんだよ! 俺たちはセージがやられるところを見にきたんだろ!』



『あっ、そ……そういえば、そうだったよね』



『あーあ、でもつまんねーな! あんなマグマに飲まれたんじゃ、苦しまずに一瞬じゃねぇか!』



『あのチビが泣き叫んで、のたうち回るところを見たかったのによー!』



『でも残念だったなぁ、モフモーフ!』



『お前ひさびさに喋ったってのに、推しの犬っころが灰になって、残念でしたぁ~!』



『お前がいま一緒に連れてる犬も、一緒に焼却処分にしてもらえばかったんじゃねぇか!?』



『そーそー! その犬、近づくだけで唸るんだよ! 教室だけならまだしも、こんな所に連れてくるんじゃねーよ!』



『ちゃんと躾ができないんだったら、檻にでも閉じ込めとけよっ! ……って、なんだよ、その目はっ!?』



『……あっはっはっはっはっはっ! 甘いねぇ、若いねぇ、わかってないねぇ!』



『わあっ!? ゴーシップ様っ!?』



『どうして、モフモーフの隣に!?』



『あっはっはっはっはっ! セージくんがあの程度の攻撃で死ぬわけないじゃん! あっはっはっはっはっ!』



『ええっ!? だって、どう見たって終わりでしょう!?』



『見てくださいよ、アレ! レッド・ジャイアントはまだマグマを吐いてるじゃないですか!』



『マグマを浴びて生きてる人間なんて、いるわけがないのに!』



『はぁい、そこぉ~! 総合司会をさしおいて、もりあがらないでくださいませんカァ~? そんな五流新聞部の部長の言うことなんて、寝耳に鼻クソですカァら~。それよりも……はあいっ! ちゅーもーーーーーーーく!!』



 マスゴミーは観客たちの話題を強引に刈り取ると、ステージの背後にある天地の塔を、バッ! と指さす。


 そこにはマーライオンのごとく、まだマグマを吐き続けているレッド・ジャイアント。

 そして分割された画面には、崩れ落ち泣き叫ぶシトロンベルが映っていた。



『アリンコとノミンコは、レッド・ジャイアントの軽~い攻撃によって、あっという間にやられてしまいましたぁ~! バッカッカッカッカッ! きっとシトロンベル君はこうなることを予想して、ああやって泣く演技をしているんですカァ!? 次期絶対聖母アブソリュート・マドンナの布石として、情け深いオンナノコを演出してるんですカァ!? バッカッカッカッカ! バーッカッカッカッカッカッカッ!!』



 画面に背を向け、これでもかと上背をのけぞらせて(わら)うマスゴミー。

 食堂塔にいる賢者(フィロソファー)候補生たちから、拍手喝采が巻き起こる。


 彼らが拍手をしている時には、一緒になって盛り上がらなければならない。

 下々の観客席にいた、従者(サーバトラー)候補生以下の者たちも、こぞって、否応なく、仕方なく……。


 手を打ち鳴らし、ヤジを飛ばす。



『や……やったぁぁぁ~!』



『ざ……ざまあみろっ!』



『チビのクセして、出しゃばってくるからそんな目にあうんだよっ!』



『そーそー! レッド・ジャイアントに挑むなんて、賢者(フィロソファー)候補生でも無理だってのに!』



無宿生(ノーラン)なんかが挑んだどころで、死ぬのはわかりきってたんだよっ!』



『いやぁ、全くもってその通りですカァーーーーーーッ!! 前回、五流新聞部の部長が仕切っていたスレイヴマッチの時は、観客の心はてんでバラバラでしたけど、このレッドトップス新聞部長であるこの弊誌が仕切れば、この通りっ! 最後の最後には悪は潰え、学園の生徒たちの心は、ピッタリとひとつになりましたカァーーーーーッ!! それではみなさん、恒例のヤツを、ご一緒にぃ! せぇーのっ!!』



 バッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッ!!

 バァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッカッカッカッカッカッカッ!!!!


 ……カッカッカッカッ……?


 ……。


 …………カッ?


 ………………カアッ!?


 カァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーッ!?!?


 ………………。


 …………あはっ。


 ……あはっ、あははははっ。


 あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!!


 あぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっはっはっはっはっはっはっ!!!!



 赤い馬鹿笑いは消え、あんぐりと開けた口が居並ぶ間抜け面が残る。

 そんな客席の中で、新たに起こった黄色い高笑い。


 ひとり、ぴょんぴょんと……。

 いや、りんごといっしょに飛び跳ねていたのは、笑う太陽のような少女。


 彼女が嬉々として指さした先には……。

 マグマの残りがしたたる、レッド・ジャイアントのアゴ。


 その奥にある喉元には、少年と犬が……

 まるでアゴの下で雨宿りをするかのように、ワイヤーでぶら下がっていたのだ……!



『やっぱりぃぃぃぃぃぃーーーーーーっ!! セージ君、生きてるじゃぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーんっ!! あっはっはっはっはっ!!』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
★新作小説
空気の読めない古代魔法~スマホにハンドガンに宅配ピザ!?
何の適正もなかった落ちこぼれ少年に与えられた、古代魔法…!
それは脅威のオーバー・テクノロジーであった!


★クリックして、この小説を応援していただけると助かります!
小説家になろう 勝手にランキング script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ