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賢者の胆石  作者: 佐藤謙羊
第2章
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24 教育的指導2-2

 俺は折れたツルハシの木柄を片手に、ヤツらの前に立つ。

 修学旅行の部屋の見回りに来た体育教師のように、寝っ転がった悪ガキどもを見下ろしつつ言った。



「よし、まずはお前らの飼っている犬の口輪と、首輪を外すんだ。寝たままやれ」



「なっ……なんでそんなことをっ!? (ガンッ!) ぎゃあんっ!?」



 さっそく抗議してきたモヒカン野郎の額に木柄の一撃を食らわせると、シッポを踏まれた犬みたいな悲鳴をあげた。

 額はパックリと割れ、「血が、血がぁぁぁぁぁぁーーーっ!?」と大げさに騒いでいる。



「お前ら仮にもボクサーなんだったら、額から血が出るなんて珍しくないだろう? そのくらいでギャーギャー喚くなよ。それに、もっと血が出る身体の部位なんて他にもいくらでもあるぞ? コッチの方で軽くひと突きするだけで、噴水みたいにビュービュー吹き出す場所をな……!」



 俺は木柄の折れたほうを、モヒカン野郎の顔に向けた。

 鋭く尖った切っ先を、眼球に当たりそうなほどに突きつけられ、「ヒイッ!?」と縮み上がっている。



「俺はいつだって、お前らを血の噴水に変えることができる……それこそ公園にある蛇口を捻るくらい、簡単にな。そうなりたくなければ、俺には逆らうな、いいなっ!? さぁ、さっさと首輪と口輪を外すんだっ!」



 その脅しがよっぽど効いたのか、ガンッ! と地面を打ち据えてやると、



「ひっ、ヒィィィィィィーーーーーーーーーーーッ!?!?」



 チンピラどもはバウンドするように寝たまま飛び上がり、ペットの首輪と口輪をはずしはじめた。


 すると犬たちの顔つきが、急に柔和になる。

 キュンキュン鳴きながら、ものすごい勢いで自分の身体をベロベロ舐めはじめた。


 まるで頭の輪っかが無くなった、孫悟空のような喜びよう……。

 やっぱり、口輪のほうはかなりのストレスだったようだな。


 犬は自分の身体を舐めて毛繕いをするが、それには気持ちを落ち着かせる作用もあるんだ。

 それをずっと封じられていたんじゃ、凶暴にもなるってもんだ。


 服従のポーズも忘れて舐めまくる犬たちを見て、俺は決心した。



「……よし、犬はぜんぶ没収だ。俺が連れて帰る」



 すると当然のように、



「ええっ!? ちょ、待てよっ!?」



「犬を持ってかれたら、拳闘犬(けんとうけん)ができなくなるじゃねぇーか!」



「ふざけんなよ! いくらなんでも従えるかよっ!」



 寝っ転がったヤツらから、不満がこれでもかと噴出した。



「勝ったらなにをしてもいいってのかよ! 横暴だ!」



「暴力で家族を奪おうとするなんて、許せねぇ! 愛犬家の風上にもおけねぇな!」



「そうだそうだ! 俺とコイツは10年来の付き合いなんだ! 死んでも離さねぇぞ!」



 まったく、コイツらときたら……。

 さっきまで「ひゃはははは!」とか笑って暴力を振りかざしてたゴロツキのクセして、負けた途端に弱者っぽく振る舞うなんて……。


 でも、まーいっか。

 俺はもう確信してるんだ。



「じゃあお前らの家族とやらの、犬自身に決めてもらうとするか。おい犬ども、このまま今のご主人サマのところに残って、ふたたび口輪をはめるか、それとも俺といっしょに来るか、お前らが選ぶんだ」



 すると、「ひゃはははは!」と笑われた。



「オイ、いまの聞いたかよ!? このガキ、犬に向かって『お前らが選ぶんだ』だってよ!」



「ぎゃははははは! そんなの犬に理解できるわけがねーってのに!」



「犬ができることなんて、ヤることと噛むことくらいだってのによ!」



「わんちゃんと話すだなんて、絵本の読み過ぎでちゅかぁ~!?」



「このガキやっぱり、頭おかしい! さすがは無宿生(ノーラン)だけあるぜ!」



「ひゃはははははははははははははははは! はーっはっはっはっはっはっはっ!!」



 寝転んだまま腹をよじるチンピラども。

 しかしその笑いは、すぐに凍りついた。



「ひゃはははははははっ! ……ははっ……はは……は……?」



 彼らの頭めがけて、チョイと脚をあげた犬たちが、



 ……しゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!



 別れの、一斉放尿っ……!


 家族から湯気の立つ真っ黄色の液体、出したてホヤホヤの汚物を浴びせかけられ、チンピラどもはおぼれるようにもがく。



「うわっぷ!? 何しやがんだっ!?」



「うわあっ!? 臭えっ!? 汚ぇっ!?」



「やめろっ、やめろおっ!」



「てめぇっ、今まで飼ってやった恩を忘れやがってぇ!」



「お前みたいな駄犬はこっちから願い下げだっ!」



「こうなったらブチ殺して、納品してやらぁ!」



 もはや愛犬家のフリすらかなぐり捨て、かつての奴隷に掴みかかっていくも、



 ……ガブッ……!!



 決別のドッグ・バイトを食らい、あっさり返り討ちにあっていた。



「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」



「いでぇ、いでぇよぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!?」



「噛むなっ、噛むなぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」



「許して、許してぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーっ!?」



 犬たちも、よっぽど恨み辛みが貯まってたんだろうな。

 どいつもこいつも急所である首筋を噛んで離さない。


 あそこを噛まれて牙が食い込んでしまうと、もう人間は抵抗できない。

 無理に引き剥がそうとすると頸動脈が傷ついて、大量の血が噴き出すからだ。


 頭の回転が犬以下のチンピラどもも、そのことは知っているらしい。

 噛んできている犬の背中をさすって、必死に命乞いをしてる。



「お、お願い! やめてやめてやめてっ! 噛みちぎらないでっ!」



「ブチ殺すなんてウソっ! 納品するだなんてウソウソ!」



「い、いい子だから……! ねっ!? 離して、離してくださいいっ!」



「恩なんて忘れていいからっ! いや、恩なんて元々なかったよねっ!? ごめんねっ!? ねっねっ!?」



 ……『拳闘犬(けんとうけん)』ってのは犬をけしかけて、飼い主は安全なところから攻撃する格闘技。

 敵の攻撃に晒される正面から犬を突っ込ませ、自分は背後に回り込む……そんな感じの戦い方をするんだ。


 ただ、調教師(テイマー)の戦い方としては一般的なやり方なので、それをとやかく言うつもりはない。

 大事なのは、そのあと……戦いが終わったあとだ。


 自分ひとりで倒したようなツラして、手柄を独り占めするんじゃなく……。

 勝利の立役者である犬を、最大限に労ってやる必要があるんだ。


 拳闘犬(けんとうけん)部のヤツらには、その気持ちがカケラもなかった。

 逆らうと締まる魔法の首輪をはめて、無理矢理言うことを聞かせていた。


 それじゃあ信頼関係なんて築けるわけがない。

 イザとなったらこんな風に、主従関係がアッサリ逆転してしまうんだ……!



「やだやだっ、死にたくないっ! 死にたくないよぉっ! も、もう二度と逆らいませんからっ!」



「お、おしっこでしたらいくらでもかけてくださって結構です! だ、だから命だけは、命だけはっ!」



「だから許してっ! 許してっ!! ほっ、ほらっ、服従のポーズ、服従のポーズですよぉっ!」



「あなた様に服従いたしますっ、お犬様っ! お犬さまっ……! お犬さまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーっ!!」



 恐怖のあまり、ヤツらは人間であることを、とうとう忘れてしまった。

 おむつを変えられる赤ちゃんみたいにM字開脚したまま、



 ……じょばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!



 人間の尊厳をかなぐり捨て、一斉放尿。

 無法さの象徴のような、鋲が打たれ、トゲのついた革パンを……完全服従の証に染め上げていた。


 ……とまあ、だいたいこんなカンジで、俺の教育的指導は完了した。

 ちなみにではあるが、引き取った10匹の犬たちは、のらねこ団に預けた。

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