07 豚肉ゲット
爆発することなく、まさに穴の抜けた風船のように小さくなっていくバルーン・ピッグ。
当人も不発に終わったのが信じられないようで、豆鉄砲を食らったような顔をしている。
俺は、これで地面に落ちてくれれば、ゆっくり剥ぎ取りできるな……と思っていた。
しかしバルーン・ピッグは接地するなり、すぐにシワシワになっていき……。
動画を早送りするように、あっという間に溶けて床に染み込んでいった。
なんだよそれ。
この豚は、どうしても空中で剥ぎ取らないとダメなのか?
仕方なく俺は次のターゲットに手をかける。
俺の爆音モノマネに驚いて、卒倒していた入り口のヤツらも、ようやく起き上がっていた。
「な……なんだ……!?」
「バルーン・ピッグが、爆発しなかったぞ……!?」
「ゲコオッ!? なんでゲコっ!? なんでゲコーッ!?」
「おいどんはこの学園にいて、何度もバルーン・ピッグが爆発するところを、見きてきたでごわす。でも不発なんて、初めてでごわす……!」
「お、おいっ、セージ! もうやめておけ! 今のはたまたま運が良かっただけだ! それに、『活き剥ぎ』の難しさもわかっただろう! 次こそは爆発するぞ!」
たまたまではないんだが、まあ、そういうことにしておこう。
それよりも、『活き剥ぎ』の難しさは想像以上だった。
だからこそもっと練習して、できるようにならなきゃな。
俺は新たなる気持ちで、二匹目のバルーン・ピッグに、仕込みナイフを突きたてるっ……!
……プスッ!
……カッ!
「ああっ!? セージのやつ、また失敗た! 今度こそ爆発するぞっ!?」
……ぷしゅぅぅぅ……。
……プスッ!
……カッ!
「ああっ!? またまた失敗! 今度こそ、今度こそっ!?」
……ぷしゅぅぅぅ……。
……プスッ!
……カッ!
「ゲココココ! また失敗したゲコ! もう幸運は、何度も続かないゲコ! いよいよゲコ! いよいよゲコ!」
……ぷしゅぅぅぅ……。
……プスッ!
……カッ!
「な……なぜだ……? なぜなんだ、セージ……?」
……ぷしゅぅぅぅ……。
「なぜ、何度失敗しても、爆発しないんだ……?」
「セージはよっぽど強運のようでごわすなぁ! がっはっはっはっはっ!」
「いや、そういうゲコじゃないゲコっ! もう5回もゲコってるのに、全部ゲコだなんて……ありえないゲコぉっ!?」
「な……なぜだっ!? なぜなんだっ、セージっ!?」
入り口にぎゅうぎゅう詰めになって、身を乗り出す観客たち。
これほど不発が続いているというのに、部屋に入る踏ん切りはつかないようだ。
「いやあ、今日はツイてるみたいだ。どうやら死神は、俺のロシアンルーレットに弾を入れ忘れたらしい」
そして何度目かの『活き剥ぎ』で、俺はようやくコツが掴めた。
バルーン・ピッグには触り心地が違う部位がいくつかあるんだが、その中でも微妙に違いがあって、探っていると独自の法則性があることに気付く。
その法則性に従って、触り心地が違うんだが、似ている箇所どうしを線で結ぶように、切り裂いてやると……。
……スパアッ!
見事なバラ肉が獲れた。
しかも、当人は腹の肉をごっそり削がれたのも知らないように、穏やかな表情のまま。
「よしっ……豚肉、ゲットだぜ!」
俺は思わずガッツポーズを取る。
赤身と脂身がきれいに三層に分れた、見事な三枚肉だ。
獲れたてなので、赤身はツヤのあるピンク、脂身はしっとりした純白。
まるで金塊のようなそれを、コートのポケットにしまう。
コートに生肉なんて気持ち悪いかもしれないが、このコートのポケットは特別製。
無限に物が入れられ、重さも感じないうえに、中にあるものの鮮度を保つ機能が付いているんだ
冷蔵庫のように物理的なものではなく、どうやらポケットの中にあると時間が止まるらしい。
手作りの砂時計を入れて、試してみてわかったんだ。
それはさておき、俺はさらに『活き剥ぎ』を続ける。
もうコツがわかったから、失敗などしない。
ロース、もも、そしてついに、ヒレ肉まで……!
ついでに豚足もゲット。なんだか酒が飲みたくなってきた。
「おい、お前らにも分けてやるから、こっちに来いよ」
入り口に向かって声をかけると、クリスチャンとズングリムックがおそるおそる近づいてくる。
他のヤツらはまだ、疑心暗鬼のようだ。
俺は獲れたての肉を、彼らにどんどん渡していった。
「ぶ、豚肉が、こんなに……!? ほ……本当にいいのか、セージ!?」
「ああ。どうせ明日には、ここのバルーン・ピッグも消えるんだろう? なら獲れるだけ獲っとかなきゃな」
「豚肉のちゃんこは最高でごわす! これを毒抜きしてもらえば、部員たちも喜ぶでごわす!」
「ちゃんこか……鍋物も、アリかもしれないな」
なんて会話をかわしながら『活き剥ぎ』していると、ふたりの両手は豚肉でいっぱいになる。
そして、とうとう我慢できなくなったのか、
「げ……ゲコったゲコっ! ここのバルーン・ピッグは、きっと爆発しないんだゲコっ!」
「なるほど、そういうことか!」
「そうにゲコってるゲコ! でなければ無宿生のチビなんて、ゲコの昔に爆死してるゲコっ!」
「そ、そうだよな! ってことは……ここは、豚肉獲り放題ってわけじゃねぇか!」
「ゲコたちも、やるゲコっ! 無宿生のチビに、独り占めさせないゲコッ!」
ずっと指を咥えて見ていた他のヤツらも、我先にと部屋に乗り込んできた。
あ……ヤバ、と俺は思う。
「よし、これだけ獲れればじゅうぶんだ。そろそろおいとましよう」
お嬢様の買い物のように、両手が塞がった執事のようなクリスチャンとズングリムックを引きつれ、そそくさと部屋を出る。
その直後、
……カッ!!
と部屋から閃光が漏れ出し、
……ドッ……!! ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!!!
俺の爆音モノマネの数倍の轟音とともに、バックドラフトじみた炎が噴出した。
「ば……爆発したでごわすっ!?」
「せ、セージがやっていた時は何度失敗しても爆発しなかったのに、今度は一回失敗しただけで……!?」
抱えた肉を取り落としそうになっているふたりに、俺は言った。
「アイツらのロシアンルーレットには、たまたま全弾入ってたんだろ」
さて、そろそろ種明かしをしようか。
俺は、クリスチャンからバルーン・ピッグの説明を聞いたときに、ある2点に着目した。
バルーン・ピッグは、身体の中に詰まった気体で浮いており、強い刺激を与えると爆発する。
バルーン・ピッグが浮いている原理は、『飛行船』に応用されている。
それで思ったんだ。
あの風船豚の中身は『水素』なんじゃないかって……。
俺の前世において、昔の飛行船というのは水素ガスで浮いていたから、それがヒントになったんだ。
なお水素ガスは、引火や高温により爆発する。
バルーン・ピッグの場合は、ヤツの怒りのエネルギーが高温になって爆発するんだろうな。
これも前世の話になるが、現在の飛行船というのは爆発しない。
なぜならば不活性ガスである、ヘリウムが使われているから。
俺は、その前世の知識を応用し、2周目の人生に活かした。
『活き剥ぎ』をする際、密かに錬金術の『変質』を使って、『水素』を『ヘリウム』に変えたんだ。
そうすれば、いくら失敗しても、爆発することはなくなるってわけだ……!




