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賢者の胆石  作者: 佐藤謙羊
第2章
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05 男たちの戦い

 俺を付け狙う存在が、またひとつ明らかになった。


 『イエローペーパー学園新聞』部長の賢者(フィロソファー)候補生……。

 ”笑う太陽”ゴーシップ・イエローペーパー。


 俺の学園生活を、メシの種にせんとする少女だ。

 しかし俺はコイツに対し、あまり嫌悪感を抱かなかった。


 なぜならばコイツの行動基準が、明瞭で純粋だったからだ。

 人の一挙手一投足をあげつらって、煽って楽しむというのは褒められたものではないが、そんなヤツらは前世にも腐るほどいた。


 前世のヤツらは、自分の思想や利益誘導などの思惑を隠し、さも正義の代弁者のように振る舞う。

 しかしゴーシップの『煽り方』には、そんなヘドロのようなものを感じさせなかったんだ。


 彼女が重視しているのは……『面白いかどうか』の一点のみ。


 でなきゃ、『スレイヴマッチ』の時の実況では、生徒会役員であるドルスコイを支持するような実況をしていただろう。

 それどころか生徒会長であるショウのことを、『ハエ取り紙にひっかかったハエ』呼ばわりしていたんだからな。


 それに……彼女は『1千万ポイント山分け! 勝敗予想クイズ!』において、『風神流武闘術同好会の勝利』に投票していた。

 ということは、俺のただならぬ能力にも、気付いていたことになる。


 このゴーシップは、あばれるちゃんと比肩するくらいの、おてんば娘(フラッパー)のようだが……。

 だいぶ毛並みが違うと思ったほうがよさそうだ。


 幼稚園の子供が描いた太陽みたいに笑う、ヤツの顔の裏には……。

 とんでもない月の裏が隠されているかもしれないな。


 ゴーシップは俺の考えなど察する気もなさそうで、午前の授業の予鈴が鳴るなり、



「あはぁーーーっとぉ!? そろそろ行かなきゃ! んじゃ、今後ともヨロシクー!」



 つむじ風を起こすほどの勢いで、走り去っていった。


 ひとりぼっちになってしまった俺は、授業に出る気にもならなかったので、ひさしぶりに『天地の塔』に立ち寄ってみることにする。


 7階で妖精を捕まえたっきり、たて続けに厄介ごとに巻き込まれて、長いこと行ってなかったからな。


 すると塔の入り口のあたりで、クリスチャンとズングリムックと会った。

 クリスチャンは俺に気付くなり、気まずそうに顔をそらしたが、ズングリムックは気さくに話しかけてくる。



「おお、セージ! おんしも塔に行くでごわすか!? なら、おいどんたちと一緒に行くでごわす!」



 どうやらこのふたりは、『スレイヴマッチ』で拳を交えてから親しくなったらしい。

 今日の午前中は、仲良く塔探索をすることにしたらしいが、そのパーティに誘われた。


 特に断る理由もなかったので、俺はむさくるしいパーティに加わることにする。

 昇降機については、ズングリムックと一緒だと潰されてしまうので、クリスチャンのに入らせてもらった。



「し、シトロンベルがいないのであれば、しょっ、しょうがないな……。きょ、今日だけ特別だぞ!」



 しどろもどろになりながらも、鳥カゴに入れてくれるクリスチャン。


 ヤツは、青い戦闘用のチャイナ服を着ていたのだが……。

 その長袖の右腕を、昇降機に乗っている間ずっと、左手で押さえるようにしていたのが妙に気になった。


 しかしその理由は、すぐに明らかとなる。

 到着した7階で探索をはじめるなり、とある部屋でモンスターと遭遇した。


 相手は『ブルー・ブル』と、『チキチキン』。


 ブルー・ブルは『レイジング・ブル』のザコ版というか、小型版というか……。

 ようは普通の闘牛っぽい、牛のモンスター。


 チキチキンは鶏のボス版というか、大型版というか……。

 ようはダチョウくらいの大きさの、鶏のモンスター。



「ブモォォォォォォォーーーーーーーーッ!!」

「コケェェェェェェェェーーーーーーーッ!!」



 重低音と超高音、真逆のふたつの鳴き声とともに迫ってくるモンスターたち。

 それを迎え撃つのも、対象的な体格をもち、趣の異なる奇声をあげる、ふたりの少年。



「どぉーーーーーすこぉーーーーーーいっ!!」

「あちょぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!」



 ドスドス、シュタタと、足音まで違う。

 俺はとりあえず、ふたりのお手並みを拝見することにした。


 まずはデカブツどうしが、がっぷり四つに組む。



 ガシィィィィィィィーーーーンッ!!



 ブルー・ブルのツノによる突進を、がっしりと両手で受け止めたズングリムック。

 さすがに牛のパワーには勝てないのか、ずりずりと後ろにずり下がる。


 しかしズングリムックは、掴んでいるツノをへし折らんばかりの勢いで上半身を回転させると、



「どぉーーーーーすこぉーーーーーーいっ!!」



 見事な首投げで、牛の巨体を捻るように投げ倒した。



 ……ズズゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーンッ!!



 衝撃で泡を吹くブルー・ブル。

 さすが相撲部(そうぼくぶ)の副キャプテンだけある。さっそく勝負あったようだな。


 そして、もうひとつの戦いのほうはというと……。



風龍(ふうりゅう)……衝波拳(しょうはけん)っ!!」



 得意の必殺技で、チキチキンの身体を大きくよろめかせていた。

 そして無防備となった敵の懐に、身をかがめて素早く入り込むと……。


 なぜか俺のほうをチラ見してから、



暴龍(ぼうりゅう)……昇撃拳(しょうげきけん)っ!!」



 カエル跳びアッパーを放っていた。


 しかしまだ全然体得できていないのか、チキチキンのアゴを捉えたものの、ノックアウトさせるまでには至らなかった。

 拳を掲げたまま高く飛び上がっている、フォロースルー状態のところを、



「コケェェェェェェェェーーーーーーーッ!!」



 羽根をせわしなくバタつかせたチキチキンに追いすがられてしまう。

 クチバシで襲いかかられ、クリスチャンはとっさに空中ガードしたのだが、服の袖ごと腕を切り裂かれていた。


 チキチキンの着地点にはズングリムックが待ち構えており、降りてきたところを『百秋撃(ひゃくしゅうげき)』によって袋叩きにする。


 結局、モンスターは2体ともズングリムックが倒してしまったのだが……。

 それはまぁ、別にいい。


 それよりも、俺にとってはもっと気になることがあった。


 ビリビリに破けてしまった、チャンの服の袖……。

 切り傷だらけの腕の、右側面には、なんと……。



 セ

 |

 ジ

 様

 命



 どこかで見た覚えのある、嫌なメッセージが……!



「お……おい!? どうしたんだよ、それっ!?」



 俺が突っ込むと、チャンは妙に格好をつけたポーズで返してくる。



「心配するな……! このくらいの傷、武道を生きる者にとっては、むしろ勲章……!」



「いや、そっちじゃない! 腕の変な文字のことを聞いてるんだよっ!」



 するとヤツは、「はあっ!?」と何かを思い出したような声をあげると、



「み……見るなっ! 見るなぁぁぁぁ!!」



 まるでハダカを見られた乙女のように、サッと身体を抱いて、手で覆い隠していた。

 そしてとうとう、



「何かの、見間違いだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!!!」



 俺がよく言う台詞を、裏声で叫びながら……。

 穴に飛び込むような勢いで、部屋から出て行った。


 俺は、今更ながらに気付いてしまう。

 この学園のヤツらって、何かあるとすぐ逃げるんだな……と。

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