04 笑う太陽
「ま、まさか……入学して早々、成績上位者になれるだなんて……」
「賢者候補生様のお気に入りでないと、100位以内に入るのも、ゲロゲロに難しいのに……」
俺の両隣にいた女性陣はそれだけ言い終えると、とうとう昇天。
抜け殻になってしまったかのように、くにゃりと身体を折ってしなだれかかってくる。
「お前ら、そんなに驚かなくても……しっかりしろ、シトロンベル」
まずは右側にいるシトロベルのほうを向こうしたが、
……ぷにゅり。
と、潤いのある柔らかな感触が、俺の唇の右端に接触した。
かすかなレモン味。
ああ、またこのパターンか……と思っていると、
……むにゅり。
と、唇の左側にもよく似た感触が、重さとともにのしかかってくる。
こっちはオレンジ味か。
なんて味わってる場合じゃないっ!
「お……お前ら、いい加減にっ……!」
縁の下の力持ちのように、俺は踏ん張って押し返そうとする。
その瞬間を、よりもよっていちばん見られたらマズいヤツに見られてしまった。
「あはぁーーーーーーーーっとぉ!? 緊急! 緊急! 緊急号外ですっ! セージ君が、この学園の話題をすっかり独り占めにしているちびっ子、セージ君が! 朝っぱらから見せつけてくれています! ふたりの美少女が、セージ君の唇を奪い合っているぞぉーーーーーーーーーーっ!!」
お立ち台に立っていたゴーシップが、目ざとく俺の事故現場を発見し、バッ! と指さしてきた。
号外を奪い合っていた人だかりが、一斉に振り向く。
「な、なんだよ、アレ……!」
「朝っぱらから、路チューかよ……!」
「しかも、ふたり同時だなんて……!」
いや、ただ気絶してるだけなんだけどな。
「チクショウ、穢れを知らないシトロンベルさんに、あんなことをさせるだなんて……!」
「でも見ろよ、シトロンベルさんの、あの顔……!」
「恍惚としてて……もうすっかりセージのヤツに、メロメロって感じじゃねぇか……!」
いや、ただ気絶してるだけなんだけどな。
「うう、それどころか、アバレルのヤツまで……! 俺、アバレルのこと、狙ってたのに……!」
「アイツ男みたいで乱暴だけど、なんか可愛いところあるもんな……!」
「それが、あんなにウットリして……恋する乙女みたいな表情で、キスするだなんて……!」
いや、ただ気絶してるだけなんだけどな。
「く……悔しい……悔しいよぉ……! 俺なんてキスどころか、女の子と手を繋いだこともないのに……!」
「くそっ、ブン殴ってやりてぇ! けどアイツ、ドルスコイ様をブッ飛ばすくらい強いんだよな……!」
「男は好き放題にブッ飛ばして、女も好き放題に抱きまくるだなんて……くぅぅ~っ! ムカつくけど、うらやましいぜ……!」
「しかも賢者候補生様のように無理矢理じゃなくて、女のほうから迫られてるなんて……!」
「ああっ、とうとうふたりから押し倒されたぜ! 人前でキスするだけでもヤベぇのに、どこまでやるつもりだよっ!?」
いや、だから気絶してるだけだって……!
「じ……実況はいいから、いーかげん助けろーっ!!」
俺はひっくりかえった親子亀の、いちばん上の子亀状態で……手足をバタつかせて叫んだ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
助けてくれたのは意外にも、いちばん煽っていたゴーシップだった。
「あっはっはっはっはっ! なんだ、朝から路チューしてたわけじゃなくて、気を失ってただけ!? あっはっはっはっはっはっ!!」
ゴーシップはしゃがみこみ、へたりこんでいる俺に視線をあわせて爆笑する。
ちなみに彼女の手によって引き剥がされたシトロンベルとあばれるちゃんは、我に返るなりトマトみたいな顔でどこかへ失踪した。
「しっかし、セージ君ってばほんとうに破天荒だよねぇ、あっはっはっはっ!」
「そうか? 俺にはお前の髪型のほうが、よっぽど破天荒に見えるけどな」
「あっはっはっはっ! この学園の裏アイドルのセージ君にそう言われるなんて、嬉しいなぁ、あっはっはっはっはっ!」
俺が様子見がわりのジャブをぶつけても、屈託のない笑顔で弾き返すゴーシップ。
コイツは脳天気娘のようなフリしてて、案外食えないヤツなのかもしれないな。
そして……俺がコイツに抱いた印象は、すぐに確信へと変わる。
「あっはっはっはっはっ! いやあ、セージ君がこの学園に来てから、面白いことばっかりだよ! おかげで『イエローペーパー学園新聞』は特ダネだらけで、ライバルの『レッドトップス学園新聞』にも差をつけることができたんだよね! そのおかげで、わっちが『スレイヴマッチ』のMCを任されることになったし! あっはっはっはっはっ!」
聞くところによると、この学園には新聞部がふたつあるそうだ。
ゴーシップが部長をつとめる『イエローペーパー学園新聞』。
マスゴミーとかいうヤツが部長をつとめる『レッドトップス学園新聞』。
両者は学園の事件をまとめあげ、生徒たちに報せることで競い合っている。
そして功績が認められた側の部長が、『スレイヴマッチ』などのイベントでのMCに抜擢されるらしい。
彼女の話から察するに、どうやら俺は知らず知らずのうちに、新聞部の『お得意様』となってしまったようだ。
ゴーシップはとにかくおしゃべりが大好きなのか、こっちが何も言わなくても、ラジオのようにひたすらしゃべり続けていた。
「今日も朝から、特ダネをふたつも貰っちゃった! あっはっはっはっ! さっきのキスのほうは、もうみんなに見られちゃったから意味ないけど……でもコッチのほうは特別に、内緒にしといたげる! あっはっはっはっはっ!」
彼女が懐からチラリと取り出したのは、一枚の写真。
そこには、カルガモの親子のように草原を歩く俺の姿が写っている。
しかし後ろから付いてきているのは仔ガモではなく、色とりどりの花々だった。
「……なんだ、取引しようってのか?」
するとゴーシップは、南国の太陽のような頭をブンブン左右に振った。
「うーうん! これは、わっちにイイ思いをさせてくれたお返しってコトで! あはっはっはっはっはっ!」
ケタケタ笑いながら、足元に落ちていた号外をピッと指さす。
砂ぼこりにまみれた紙面には、『賢者候補生の成績順位』の見出しがあって……。
1位 2億ポイント
”全能の”ショウ・シンラバン様
2位 1億333万ポイント
”斎妻の”ミルキーウェイ・フルムーン様
3位 5000万ポイント
“黄金の暁”ゴールデンドーン・ドーンドーン様
3位 5000万ポイント
“正鵠の”シルバーサンセット・エバーラスティン様
4位 3333万ポイント
”笑う太陽”ゴーシップ・イエローペーパー様
「いやぁ、『スレイヴマッチ』でセージ君に賭けたおかげで、333万ポイント! 賢者候補生ボーナスと、新聞部長ボーナスがついて、さらに10倍ドーンで3333万ポイント! わっち、今回のポイント集計期間はなぁんにもしてこなかったんだけどさぁ、それだけで一気に4位になっちゃった! あっはっはっはっはっ!」
ちなみに生徒会役員以外の生徒が、10位以内に入ったのは……。
この学園設立以来、一度もなかったことらしい。




