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賢者の胆石  作者: 佐藤謙羊
第2章
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01 招かれる客

 『スレイヴマッチ』から一夜明けた次の日の朝。

 俺はこの学園に入った当初に野宿に使っていた木の上で目覚めた。


 昨晩はシトロンベルとあばれるちゃんとミルキーウェイが三位一体となって大変だったんだ。


 ログハウスが燃えて、ミルキーウェイは自分の部屋に泊まらせようと……。

 そしてシトロンベルとあばれるちゃんも一緒に泊まろうと、俺を追い回した。


 露天風呂の中だったので、まさか全裸のまま逃げ出すわけにもいかず……。

 というか、すでにサバ折りの名を借りた、三人の少女による肉の檻に閉じ込められていた。


 その状態のまま風呂からあがり、よってたかって身体を拭かれ、人形のように服を着せられ……。

 とっ捕まった宇宙人みたいに両手を繋がれ、賢者(フィロソファー)候補生の寮に連行された。


 俺は『スレイヴマッチ』において、ドルスコイの300kg(キッロ)の巨体を投げ飛ばしたものの……。

 アレは無詠唱魔法を使って吹き飛ばしただけなので、俺自身はいまだ6歳の子供と同じ身体能力しかない。


 だから正直なところ、三人の中でもいちばん非力そうなミルキーウェイひとりすら振りほどくことができない。

 でもその女神サマは誰よりも天然だったので、それをうまいこと突いて、スキを作り出してなんとか逃げだした。


 そして、現在に至る。


 伸びをして起き上がると、なぜか俺の胸の上に妖精が寝ていて、ハムスターのようにコロリンと転がった。

 どうやら人の身体をベッドにしていたようで、地震にあったみたいに慌てて飛び起きていた。


 それは、塔の7階で見かけた妖精より、小さくて幼い……。

 少女というよりは幼女のような存在であった。


 うっすらと身体が透けて見える、薄手で緑色のミニスカワンピ。

 まとめあげた金色の髪に、背中にはカゲロウのような羽根……。


 どっからどう見ても妖精だな。


 彼女は逃げることもせず、寝そべったままの俺の腹の上で居住まいを正す。

 まるで誰かに教えられたように、ちょこんと正座をすると、深々と頭を下げた。


 なんだコイツ……と思っていると、ふわりと飛び上がり、俺を手招きした。


 俺はまだ起き抜けでボンヤリしていたので、黙って見つめていると……。

 鱗粉のようなキラキラした粉を飛ばしながら戻ってきて、俺の一張羅であるコートの襟を引っ張ってきた。



「付いてこいってのか? なんだよ、朝っぱらから……」



 やれやれと起きだし、木の上から飛び降りる。


 するとヤツは光の軌跡を残しながら、森の奥に向かって飛んでいった。

 少し先でクルリと振り向いて、こいこいと手招き。


 アクビをしながらついていくと、さらに奥へ奥へと進んでいく。

 そんなことを、しばらく繰り返していると……。


 急に、開けた場所に出た。


 蛍のような光の粒子と、蝶たちがふわふわと浮いていて……。

 その合間をウサギや鹿、リスや小鳥などの動物が、じゃれあうように走り回り、飛び回る……。


 まるでおとぎ話の中に迷い込んだような、一面の草原。


 ツヤツヤの葉緑と、色とりどりの花々が、絶え間なく吹き抜ける爽風に揺れている。


 少し先には、高さはそれほどではないが、横に大きく広がっている大木が鎮座していた。

 空を覆うように伸びた立派な枝葉が、いかにも心地よさそうな木陰を作り出している。


 俺は起きたばかりだというのに、こんな所で昼寝したら気持ちいいだろうなぁ、なんて思ってしまった。

 先客を脅かさないようにしながら、この森のヌシのような大木に近づいてみる。


 すると飛び出した一本の枝に、手作りのブランコがかかっているのを見つけた。

 急に人工的なものが出てきたので、さらによく見てみると……。


 大木には玄関扉や窓のようなものがあって、まるで家のような外観をしていた。


 ……二足歩行する、ウサギの一家でも住んでるのか?


 俺はなんとなく興味をそそられたので、両開きの玄関扉にあるノッカーを動かしてみる。

 ちなみにノッカーは高い所と低い所の2箇所にあって、子供の俺でも背伸びせずにノックできた。


 ほとんど間を置かず、



 ……カチャリ。



 と静かに扉が開く。

 そこに立っていたのは……メイド服の少女だった。


 いや、人間であるかどうかも疑わしい。


 背の高さはシトロンベルより少し高いくらいで、顔立ちはお姉さん。


 かなりの美貌であるが、肌は青白くぼうっと光っている。

 顔は人間そのものだが、目には瞳がなくて、昆虫みたいにツルンとしていた。


 ようは……人間サイズにまで大きくなった、羽根のない巨大な妖精みたいだったんだ。

 コイツはもしかして……妖精より上位の精霊か?


 彼女はにっこり微笑むと、本物のメイドみたいにうやうやしく頭を下げた。

 そして俺を家の中へと招き入れようとする。


 家の中には、ここまで俺を案内してきた幼女妖精がいて、またしてもいたずらっぽく手招きしていた。


 もしかして俺は、この家に招待されていたってわけか?

 まぁ少なくとも、招かれざる客が突然押しかけたような対応ではないし……入ってみるか。


 呼ばれるがままに、大樹の腹の中に足を踏み入れると……。

 中は俺が以前住んでいたログハウスを、数倍広くしたような空間が迎えてくれた。


 大家族が住めそうな居間には、立派な木のテーブル。

 といっても人工的な調度品ではなくて、巨大な丸太から切り出したような、つなぎ目のない贅沢な逸品。


 それどころか、椅子や棚などの家具もすべてオール木製の削り出しで、金属が一切使われていない。

 丸みのある、かわいらしいデザインで統一されていて、なんともいえない温かみがある。


 俺は初めて来た家だというに、まるで我が家に帰ってきたような落ち着きを感じた。


 天井は吹き抜けになっていて、各階から見下ろせる造りになっている。

 ところどころ渡された梁には、妖精と小鳥が仲良く羽根を休めていた。


 『天地の塔』だと妖精は滅多に出ないレアキャラらしいが、この家にはウジャウジャいるな。

 もしシトロンベルがここに来たら、ケーキバイキングに来たみたいになるだろうな……。


 なんてことを考えながら、メイドに促されるままテーブルに座る。

 するとすかさずハーブティーと、木の実のお茶請けが出てきた。


 ひと口飲んでみると、すーっと鼻に抜けるような爽快感が広がる。

 これは、俺がいつも咥えているパイプに入っているのと同じ、スペアミントだな。


 偶然にも、俺の好みにピッタリのお茶だった。


 気付くと、木の実が入っている皿のそばには、なんだかヤンチャそうな仔リスがいて、皿から取ったクルミを俺に向けていた。

 「食べてもいい?」と尋ねているようだったので頷くと、ピャッとテーブルの隅に走っていく。


 そこには同じような仔リスがたくさんいて、なにやら勇気を讃え合っているようだった。

 俺は木の実が欲しいんだろうと思い、リスたちのそばに皿を置いてやる。


 するとワッと皿に群がって、あっという間にカラッポにした。

 もっちりと膨らませた頬と、つぶらな瞳で、揃って俺を見上げ……「ありがとう」とお礼を言っているように見えなくもない。


 ……ってそんな事よりも、客が来たってのに家人が出てくる様子がないな。



「なぁ、この家の主人はどこにいるんだ?」



 俺は言葉が通じるかわからなかったが、妖精メイドに尋ねてみる。

 すると、思いも寄らぬ返答が……というか、リアクションが返ってきた。


 彼女は黙って、白魚のようなほっそりとした手で……。

 まさにメイドが案内するような丁寧な手つきで、俺を示していたんだ。

ここがセージの、新しい家…!?

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