58 白と黒
”爆襲龍”ドルスコイの身体にもたらされた、変化……。
それは見目としては、ほんの僅かなものであったが……。
この学園史に永遠に刻み込まれるほどの、大いなる革命であった……!
その一大事を真っ先に喧伝したのは、ようやく自分の仕事を思い出したかのように……。
むしろこの瞬間のために、いままで黙秘して、力を貯めていたかのような……。
黄色い声した、笑う太陽……!
『あはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあーーーーーーーーーーっとぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーー!?!? 見てください! 見てくださいぃぃぃぃーーーーーっ!?!? ドルスコイ君の首に入っていた、純白のタトゥーがっ……!!』
……カッ!!
と刮目される、でっぷりとした首。
汚く、そしてたるみきった肌には似つかわしくないデザインの、首輪を模したタトゥーが入っていたのだが……。
それが、なんとっ……!?
『まっ、まままっ!? 真っ黒になっているぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーっ!?!?』
客席が、悪魔の刻印でも目の当たりにしたかのように、激しくざわめいた。
「おい、あのタトゥーって、ドルスコイが生徒会役員になった時に、忠誠の証として、ショウ様から授かったタトゥーだろ!?」
「うん! あのタトゥーがあれば、この学園……いいや卒業しても、賢者としての地位が約束される、夢のタトゥーだよ!」
「それほど神聖で、絶対的なタトゥーなんだ! あれだけは何をしても汚れないし、絶対に汚せないらしいぜ! アカまみれになっても純白のままで、別のタトゥーを彫っても上描きできないらしい!」
「で、でも……その神聖なるタトゥーが、あんなに真っ黒になるだなんて……!?」
「な、なにが、いったい何があったんだ……!?」
学園じゅうの生徒たちが、いいや教師たちまでもが騒然としていた。
まるで生徒のひとりが突如としてゾンビになったかのような扱いだ。
でも俺だけは正直なところ、白いタトゥーが黒くなったからといって、そんなに大騒ぎすることかと思っていた。
が……!
次に明るみに出た、もうひつの変化については……。
1周目の人生にも感じたことがないほどに、びっくり仰天させられてしまう……!
最初に気付いたのは、やはり実況のゴーシップだった。
『あっ!? あっあっあっあっ!? あはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーっ!? ……あっ……あはっ! あっはっはっはっはっ!! あーーーーーーーーーーーーーっはっはっはっはっ!! 何アレ何アレ、何アレぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーっ!?!?』
彼女は驚愕のあまりおかしくなってしまったのか、腹を抱えて大爆笑。
呼吸困難になりながらも、ある一点をビシッと指さしている。
……カカッ!!
と再び刮目されたのは、ボンレスハムのような右腕。
俺はそのときドルスコイの正面にいたので、よく見えなかった。
まわりこんで、ぶよんぶよんの二の腕を、目にした瞬間……。
「えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?!?」
阿鼻叫喚の渦の只中に、俺は立ち尽くしていた。
『ドルスコイ君の腕にあった、「ショウ様」命のタトゥーがっ!? なんと、なんとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?!?』
セ
|
ジ
様
命
『変わってるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?!?』
俺はその声を、遠くに感じてしまうほどに、呆然としていた。
……あのタトゥーは、生徒会役員の証として、ショウ様がドルスコイ君に与えた神聖なるタトゥーです!
賢者に首輪がわりのタトゥーを与え、また剥奪できるのは……。
この世界では、光神賢者様といわれた御方だけ!
そしてこの学園でそれができるのは、生徒会長である、ショウ様だけ……!
ショウ様が、未来の光神賢者様と呼ばれているのは、そこに所以があるからですっ!!
光神賢者様のタトゥーは、絶対不可侵……!
何者も手出しできない、聖域とされていました!
でも、でもでも……!
それがなんと、破られたのです! 犯されたのです! 穢されたのでぇぇぇぇぇぇーーーっす!?!?
そんな神をも恐れぬ所業ができるのは、何者なのか……!?
悪魔王か、それとも悪霊の神々なのか……!?
いいやっ!
そこにいる、ちびっ子……!
セージ・ソウマ君なのでしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!!!
セージ君は無宿生でありながら、この学園で自由奔放に振る舞っている問題児ですっ!
今回の『スレイヴマッチ』は、そんな彼に見せしめを与えるために計画されたという噂もありました!
でも……でも彼は、勝ったのです!! はね除けたのです!! 乗り越えたのでぇーーーっす!!
それも……私たちには想像もつかないような、大胆すぎりやり方でぇーーーっ!!
なんとセージ君は、ドルスコイ君の得意技である、『相撲秘奥義・柿落とし』で、ドルスコイ君を投げ飛ばしただけでなく……!
なんとなんと、ショウ様しか使えないとされていた、神奥義……『四皇』までもを披露したのです!!
あんなちびっ子に、どこにそんなパワーが隠されてたんでしょうねぇ!?
でもそれだけでは終わりません!
セージ君は、ショウ様のタトゥーを真っ黒に塗り替えてしまったのでぇぇぇぇーーーっす!!
まるでゲームの駒を、表から裏にひっくり返すように、あっさりと……!!
これはもはや、ショウ様への挑戦としか思えません!!
賢者にいちばん無縁とされていた、落ちこぼれ……。
無宿生のセージ君が、この学園いちばんの賢者候補生に、宣戦布告をしたのですっ!!
しかしご覧ください! 天上席におられますショウ様は、この大事件を前にしても微動だにしておりません!
まるでいつでも踏み潰せるアリを笑覧するかのように、平然とされております!!
そして……!
あはぁーーーっとぉ!?
セージ君のほうも、まるでショウ様を見ておりません!
本来は『スレイヴマッチ』の勝者は、ショウ様に跪かなければいけないのですが、目もくれておりません!
まるでいつでも握り潰せる、ハエ取り紙にひっかかったハエのように……!
完全に、アウト・オブ・サイト……!
まさかまさか、最底辺と最頂点の戦いが、これから始まろうなどとは……!!
このイエローペーパー新聞部部長である、このゴーシップにも、知るよしもなかったぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!
……俺は、そろそろ煽るのやめてくれないかな……と思っていた。




