40 新たなる仲間たち
獣じみた食事を終え、満腹になってようやく人間性を取り戻した少年少女たち。
「はぁ……新鮮なお肉が、こんなに美味しいものだったなんて……」
まるで憧れの芸能人と握手しおえた後、自分のその手すらも愛おしむように……。
幸せいっぱいの表情で、お腹をさすっていた。
しかし人間らしい知性も戻ってきたのか、シトロンベルがハッと何かに気付く。
「でもセージちゃん、こんなにすごいお肉、どこで手に入れたの?」
すると、チャン兄妹も我に返ったように顔をあげた。
「そ……そうだよ! こんなお肉、賢者候補生様だってガツガツ食べてるのを見たことないよ! さっきの肉に比べたら、クズみたいなのをモソモソ食べてるんだ! そ、それでも、ボクら従者候補生にとっては、ゴリゴリのごちそうだったけど……。でも、まさか、そのごちそうをクズにしちゃうようなビカビカの肉を、なんでセージがっ!?」
「セージ! アバレルから聞いたが、キミはたしか、レイジング・ブルを倒したそうだな!? まさか、その肉だったのか!?」
急に、とんでもないものを食べさせやがって、みたいにヒートアップしていく面々。
とうとうシトロンベルが、真実に気付いたような悲鳴を漏らした。
さっきまで幸福の絶頂にいたのが、不幸のどん底にいるかのように顔を青ざめさせている。
「えええっ!? まっ……! まさか……! まさかまさか、まさかっ……! このお肉……!?」
ああ……。
とうとう、俺が毒抜きできるってことが、バレちまったか……。
でも、まーいっか。
遅かれ早かれ、どーせバレるだろうし……。
俺は観念していたのだが、
「『女神の贈り物』だったのっ……!?!?」
「「ええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?!?」」
ガターンと椅子を蹴っ飛ばす勢いで起立し、仰天するチャン兄妹。
何をそんなに驚いているのかわからなかったが、聞いてみたところ、『女神の贈り物』というのは、要は超レアアイテムのことらしい。
この世界にある塔で、ごく希に宝箱に入っていたり、モンスターの素材として入手できるそうだ。
武器でいえばとんでもない切れ味を秘めていたり、防具であればダイヤのように硬い。
食材であれば、毒が含まれていないらしく、そのまま食することが可能。
毒抜きをすると、味と鮮度がガタ落ちするのだが、その過程をすっ飛ばすことができるので、最高級の食材となる。
なお、それが手に入る確率は……。
十万年に一度、あるかないからしい。
「それって、存在しないって言ってるのと同じ事じゃないのか?」
「そ……そうかもしれないけど、そのくらいとんでもないモノなのよ!?」
「本当に、あの肉が『女神の贈り物』なんだとしたら……! 私たちは、取り返しのつかないことをしてしまった……!」
真面目なクリスチャンは、とうとう頭まで抱えだした。
3人とも、完全に誤解してるな。
これは俺が『賢者の石』の力で毒抜きした牛肉なんだが、あまりにも劣化していないので、レアアイテムだと思い込んでいるようだ。
でも本当の事を言うわけにはいかないから、訂正する必要もないだろう。
「よくわからないけど、もう腹の中だからいいじゃないか。明日にはキレイサッパリだ」
「このバカセージっ! もし食べた肉が、『女神の贈り物』なんだったとしたら……。王様に献上したら、バリバリと一気に、大賢者に取り立ててもらえたかもしれないんだぞっ!?」
すっかり興奮して、食卓から立ち上がったままの3人。
宝くじの1等を燃やしてしまったヤツを見るかのように、信じられない表情をしている。
「なんだ、そんなことか」
「「「そ、そんなことって……!?!?!?」」」
「俺にとっては『そんなこと』だな。俺には王様も賢者も関係ない、どうだっていいんだ。そんなヤツらに肉をくれてやるくらいなら、こうやって、お前らと一緒に食べたほうがよほど有意義だし、ずっと楽しいと思ってるよ」
3人はしばし、ポカーンとする。
そして……まるで秘境にいる伝説の仙人に会ったみたいに、口をぱくぱくさせはじめた。
「せ……セージちゃん……。セージちゃんって、どうしてそんななの……? どうしてそんなに、何もかもスゴイの……?」
「し……信じられない……!? ボロボロに信じられないよ! 王様や賢者様よりも……ボクたちとの食事のほうを、ゲシゲシ選ぶだなんて……!」
「いや、待て、アバレル……! これほど無欲でなければ、風神流武闘術は究められないのかもしれん!」
「『風神流秘奥義』って?」とシトロンベル。
すると兄妹は本来の目的を思い出したかのように、ビシイッ! と俺を指さしてきた。
「私たち兄妹は、賢者様を護る者として、『風神流武闘術』を伝承する一族……! 生まれたときから武術を究めるべく、鍛錬に励んできた!」
「でもセージは、ボクらのお師匠様でも難しい秘奥義を使って、ボスをバッキバキのボッコボコにしてみせたんだ!」
「ああ、ソレは多分見間違いだよ。ふたりとも疲れてたから、幻覚でも見たんだろ」
と俺は誤魔化したのだが、さらにシトロンベルまで呼応した。
「そういえば……! セージちゃんって剣術の授業のとき、『落花流水剣』を使ってみせた……! それも、奥義を究めたパパ以上の、見事な剣を……!」
「「「ど……どういうことなのっ!?!?!?」」」
グワッ! と俺に詰め寄ってくる拳法兄妹と剣法少女。
俺はなんと返していいのかわからず、口ごもっていると、
「……決めた! 私やっぱり本当に、セージちゃんのパートナーになるっ!」
シトロベルは急に、決意を新たにしだした。
「……なに?」
「セージちゃんと一緒に『天地の塔』を探索して、セージちゃんのすごい所をもっともっと知りたい! そうすれば、『落花流水剣』の極意も、わかると思うの! もうみんなの前で宣言しちゃったことだし、いいでしょう!?」
ガッと俺の両肩を掴んで、ガクガ揺さぶってくるお嬢様。
触発されたように、他のふたりも俺に掴みかかってくる。
「お願いセージちゃん! 私をパートナーにしてっ! なんでもするからっ! ねっ!? ねっねっ!?」
「なら、私たち兄妹もだ! セージの戦いぶりを見れば、お前が『風神流武闘術』の使い手かハッキリする……!」
「ダメだって言っても、グイグイついて行くからな! スタコラ逃げても無駄だぞ! 地の果てだってビュンビュン追いかけてやるからなっ!」
「よぉーし、決まりね! クリスさん、あばれるちゃん! 明日は必修科目のレイドの授業だから、塔の探索は明後日からスタートしましょう! 明後日の朝いちばんに、ここに集合ねっ! せーのっ、えい、えい!」
「「「おおーっ!!」」」
俺は「ウム」どころか有無すら言うことができず、3人の手によって神輿のように担ぎ上げられてしまっていた。
次回、新たなるイチャイチャ!?