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賢者の胆石  作者: 佐藤謙羊
第1章
40/119

40 新たなる仲間たち

 獣じみた食事を終え、満腹になってようやく人間性を取り戻した少年少女たち。



「はぁ……新鮮なお肉が、こんなに美味しいものだったなんて……」



 まるで憧れの芸能人と握手しおえた後、自分のその手すらも愛おしむように……。

 幸せいっぱいの表情で、お腹をさすっていた。


 しかし人間らしい知性も戻ってきたのか、シトロンベルがハッと何かに気付く。



「でもセージちゃん、こんなにすごいお肉、どこで手に入れたの?」



 すると、チャン兄妹も我に返ったように顔をあげた。



「そ……そうだよ! こんなお肉、賢者(フィロソファー)候補生様だってガツガツ食べてるのを見たことないよ! さっきの肉に比べたら、クズみたいなのをモソモソ食べてるんだ! そ、それでも、ボクら従者(サーバトラー)候補生にとっては、ゴリゴリのごちそうだったけど……。でも、まさか、そのごちそうをクズにしちゃうようなビカビカの肉を、なんでセージがっ!?」



「セージ! アバレルから聞いたが、キミはたしか、レイジング・ブルを倒したそうだな!? まさか、その肉だったのか!?」



 急に、とんでもないものを食べさせやがって、みたいにヒートアップしていく面々。

 とうとうシトロンベルが、真実に気付いたような悲鳴を漏らした。


 さっきまで幸福の絶頂にいたのが、不幸のどん底にいるかのように顔を青ざめさせている。



「えええっ!? まっ……! まさか……! まさかまさか、まさかっ……! このお肉……!?」



 ああ……。

 とうとう、俺が毒抜きできるってことが、バレちまったか……。


 でも、まーいっか。

 遅かれ早かれ、どーせバレるだろうし……。


 俺は観念していたのだが、



「『女神の贈り物(ギフト)』だったのっ……!?!?」



「「ええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?!?」」



 ガターンと椅子を蹴っ飛ばす勢いで起立し、仰天するチャン兄妹。


 何をそんなに驚いているのかわからなかったが、聞いてみたところ、『女神の贈り物(ギフト)』というのは、要は超レアアイテムのことらしい。


 この世界にある塔で、ごく希に宝箱に入っていたり、モンスターの素材として入手できるそうだ。

 武器でいえばとんでもない切れ味を秘めていたり、防具であればダイヤのように硬い。


 食材であれば、毒が含まれていないらしく、そのまま食することが可能。

 毒抜きをすると、味と鮮度がガタ落ちするのだが、その過程をすっ飛ばすことができるので、最高級の食材となる。


 なお、それが手に入る確率は……。

 十万年に一度、あるかないからしい。



「それって、存在しないって言ってるのと同じ事じゃないのか?」



「そ……そうかもしれないけど、そのくらいとんでもないモノなのよ!?」



「本当に、あの肉が『女神の贈り物(ギフト)』なんだとしたら……! 私たちは、取り返しのつかないことをしてしまった……!」



 真面目なクリスチャンは、とうとう頭まで抱えだした。


 3人とも、完全に誤解してるな。

 これは俺が『賢者の石』の力で毒抜きした牛肉なんだが、あまりにも劣化していないので、レアアイテムだと思い込んでいるようだ。


 でも本当の事を言うわけにはいかないから、訂正する必要もないだろう。



「よくわからないけど、もう腹の中だからいいじゃないか。明日にはキレイサッパリだ」



「このバカセージっ! もし食べた肉が、『女神の贈り物(ギフト)』なんだったとしたら……。王様に献上したら、バリバリと一気に、大賢者(ハイフィロソファー)に取り立ててもらえたかもしれないんだぞっ!?」



 すっかり興奮して、食卓から立ち上がったままの3人。

 宝くじの1等を燃やしてしまったヤツを見るかのように、信じられない表情をしている。



「なんだ、そんなことか」



「「「そ、そんなことって……!?!?!?」」」



「俺にとっては『そんなこと』だな。俺には王様も賢者(フィロソファー)も関係ない、どうだっていいんだ。そんなヤツらに肉をくれてやるくらいなら、こうやって、お前らと一緒に食べたほうがよほど有意義だし、ずっと楽しいと思ってるよ」



 3人はしばし、ポカーンとする。

 そして……まるで秘境にいる伝説の仙人に会ったみたいに、口をぱくぱくさせはじめた。



「せ……セージちゃん……。セージちゃんって、どうしてそんななの……? どうしてそんなに、何もかもスゴイの……?」



「し……信じられない……!? ボロボロに信じられないよ! 王様や賢者(フィロソファー)様よりも……ボクたちとの食事のほうを、ゲシゲシ選ぶだなんて……!」



「いや、待て、アバレル……! これほど無欲でなければ、風神流武闘術は究められないのかもしれん!」



 「『風神流秘奥義』って?」とシトロンベル。

 すると兄妹は本来の目的を思い出したかのように、ビシイッ! と俺を指さしてきた。



「私たち兄妹は、賢者(フィロソファー)様を護る者として、『風神流武闘術』を伝承する一族……! 生まれたときから武術を究めるべく、鍛錬に励んできた!」



「でもセージは、ボクらのお師匠様でも難しい秘奥義を使って、ボスをバッキバキのボッコボコにしてみせたんだ!」



「ああ、ソレは多分見間違いだよ。ふたりとも疲れてたから、幻覚でも見たんだろ」



 と俺は誤魔化したのだが、さらにシトロンベルまで呼応した。



「そういえば……! セージちゃんって剣術の授業のとき、『落花流水剣(らっかりゅうすいけん)』を使ってみせた……! それも、奥義を究めたパパ以上の、見事な剣を……!」



「「「ど……どういうことなのっ!?!?!?」」」



 グワッ! と俺に詰め寄ってくる拳法兄妹と剣法少女。

 俺はなんと返していいのかわからず、口ごもっていると、



「……決めた! 私やっぱり本当に、セージちゃんのパートナーになるっ!」



 シトロベルは急に、決意を新たにしだした。



「……なに?」



「セージちゃんと一緒に『天地の塔』を探索して、セージちゃんのすごい所をもっともっと知りたい! そうすれば、『落花流水剣(らっかりゅうすいけん)』の極意も、わかると思うの! もうみんなの前で宣言しちゃったことだし、いいでしょう!?」



 ガッと俺の両肩を掴んで、ガクガ揺さぶってくるお嬢様。

 触発されたように、他のふたりも俺に掴みかかってくる。



「お願いセージちゃん! 私をパートナーにしてっ! なんでもするからっ! ねっ!? ねっねっ!?」



「なら、私たち兄妹もだ! セージの戦いぶりを見れば、お前が『風神流武闘術』の使い手かハッキリする……!」



「ダメだって言っても、グイグイついて行くからな! スタコラ逃げても無駄だぞ! 地の果てだってビュンビュン追いかけてやるからなっ!」



「よぉーし、決まりね! クリスさん、あばれるちゃん! 明日は必修科目のレイドの授業だから、塔の探索は明後日からスタートしましょう! 明後日の朝いちばんに、ここに集合ねっ! せーのっ、えい、えい!」



「「「おおーっ!!」」」



 俺は「ウム」どころか有無すら言うことができず、3人の手によって神輿のように担ぎ上げられてしまっていた。

次回、新たなるイチャイチャ!?

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