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賢者の胆石  作者: 佐藤謙羊
第1章
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03 降り立った世界

 眼下にある惑星めがけてどんどん落ちていった俺は、大気圏のあたりで白い光に包まれ、意識もホワイトアウト。

 喧噪に耳朶(じだ)を打たれてハッと意識を取り戻すと、多くの人が行き交う雑踏の中にいた。



「ここは……!? ……うわっ!?」



 見回した途端、後ろから走ってきた男とぶつかって、前に引きずり倒されるようにべしゃりと転倒。

 ぶつかってきたヤツに注意してやろうと思ったが、背中に重い何かがのしかかっていて、声が出なかった。


 子泣きじじいに取り憑かれているかのような異様な重みは、俺の身体ほどもある、大きなリュックによるものだった。


 でも、いくらデカいリュックを背負ってたからって、こんなにあっさり倒れるだなんて……。

 一度死んだから、身体が弱ってるのか……?


 地べたに伏したまま毒づいていると、視界が妙に低いような気がした。

 さらに連鎖的に、スケール感のおかしさにも気付く。


 手も足も……触れてみた顔や身体も、どれもなんだかこぢんまりしているのだ。



「まさか……!?」



 俺は殻から這い出すようにリュックから抜け出すと、人ごみをかきわけて近くにある噴水に走った。

 そして水面を覗き込んで、絶句する。



「なんだよ、これ……!?」



 ゆらめきながらそこに映っていたのは、妙に物わかりの良さそうな顔だちの、かわいらしい子供(ネンネ)だったんだ……!


 俺の頭の中に、女神の言葉が蘇ってくる。



『転生にあたり、特別にボーナスをホイホイあげちゃいます。ひとつ目は、前世での記憶の保持。ふたつ目は、年齢の選択権。赤ちゃんからオギャアとやり直すのが面倒だという場合に、好きな年齢から生まれ変わることができるの。お勧めは6歳からだけど、それでいいかしら?』



 ってことは、俺はいま6歳っ……!?

 いや、それは生返事とはいえ承諾したことだが……! なんでこんな女の子みたいな……!?


 嫌な予感が頭をよぎったので、慌てて身体をまさぐってみた。


 ……ああ、付いてる。

 どうやら、顔の作りが女の子っぽい、というだけらしい。


 俺は嬉しいような残念なような、複雑な気持ちになった。


 どうやら、あの宇宙空間のような場所で()ていた惑星(ほし)に転生したようだ。

 女神が言っていたとおり、前世の記憶を持ったまま。


 なんでそんな配慮がされたのかは、よくわからないが……。


 とりあえず深呼吸をして気持ちを落ち着かせて、改めて今いる場所を確認する。


 人で賑わうこの広場は、どうやら飛行船の発着場のようだった。

 色とりどりの飛行船がふわふわと着陸しては、中から多くの人を吐き出し、また浮かび上がってく。


 すっきりとした青空には順番待ちの飛行船が浮いていて、入れ替わりたちかわりしていた。


 まわりにある建物はレンガづくりで、かつて旅行したヨーロッパの田舎町のような趣きを感じさせるが、古臭い感じではない。

 人々の服装はもっと変わっていて、身なりの良さそうなヤツは昔の貴族みたいな格好。


 広場で働いてそうなヤツや、それほど金を持ってなさそうなヤツは、丈が長めの上着……。

 チュニックっていうんだろうか、それに簡素なズボンを履いている。


 そしてひときわ目を引いたのは、ファンタジーの世界から飛び出してきたかのような、戦士の鎧や、魔法使いのローブをまとう者たち。

 戦士っぽいのは腰や背中に剣を携え、魔法使っぽいのは樫の木の杖を持っている。


 それはさながら、コスプレ会場か映画の撮影か……。

 はたまたロールプレイングゲームの中に迷い込んだかのような光景だった。


 ちょっといろんな事が起こりすぎていて、理解がまだ追いついていないが、まあいい。

 とにかく今は情報を集めよう。


 ふと目に入った時計塔。

 文字盤は何を書いているのかさっぱりだったが、針の位置からするに、今は朝の7時くらいというのがわかった。


 ……あれ、待てよ……。


 俺はさっきからずっと、異国に来たような感覚に囚われていた。

 何もかもが以前いた世界とは違うので、そのせいだと思っていたのだが……。


 決定的な違和感に、やっと気付いた。


 言葉が、まるでわからない……!


 まわりにいるヤツらが話していることも、張り紙の文字も……。

 そう、時計の文字盤にあった数字ですら、読めやしない……。


 おいおいおいおい……。

 こんなんで一体、どうやって生きていけっていうんだ……?


 6歳からスタートさせるんだったら、この世界の知識もそれ相応に、一緒に脳みそに入れといてくれよ……。

 前世の知識を残してくれるよりも、むしろそっちのほうが……。


 うーん……。

 ……でも、まーいっか。


 2周目の人生なんだし、のんびりいこう。

 前世が生き急いでたようなもんだったから、なおさらだ。


 ずっと憧れてたひとり旅に、出たと思えば……。

 楽しいもんじゃねぇか、うん。


 俺は気を取り直して、ひとまずこれからの計画を練ることにする。

 そのためには、持ち物を確認しなきゃな。


 そう思って、脱ぎ捨ててきた荷物のほうに視線をやると……。



「……ないっ!?」



 大型犬くらいあるリュックが、鎖が外れたかのように忽然と消えていた。


 あたりを探すと、すぐに発見する。

 俺と同くらいの歳のヤツらが、角砂糖の欠片を運ぶアリのようにリュックを担いで、えっちらおっちらとどこかへ運んでいる真っ最中。



「おいっ、待て……!」



 と駆け出し、それを追いかけようとする。


 だいぶ遠くに持ち去られてしまったが、あんなヤツらが行く先なんて、大体見当がつく。

 ひとけのない路地裏だ、そこで観光客から奪った戦利品(おたから)を分け合うんだ。


 あんなボロキレを着ているようなヤツらの行動パターンなど、お見通し……!


 しかし俺の脚は正反対に、勢いを失っていた。


 ……まーいっか。

 ヤツらは今の人生を、強くたくましく生きてるんだ。


 こちとら人生2周目なんだから、目先のモノにこだわる必要はない。

 リュックの中に何が入ってたかは知らないが、くれてやってもいいだろう。


 俺はさっぱりした気持ちでいたが、ちょうど俺のことを見ていた子供たちは、指までさしてゲラゲラ笑っていた。

 白くてむくんだ顔に、蝶ネクタイにサスペンダーで、いかにも金持ちのお坊ちゃまっぽいヤツらだ。


 言葉がわからないので何を言っているのか分からなかったが、荷物を盗られた俺を馬鹿にしているのだけはわかった。


 ……まーいっか。

 心の中でつぶやいて、噴水のへりに腰かける。


 俺の服装は、最下層のボロキレでも、中流のチュニックでも、上流のサスペンダーでもなかった。


 大きなフードのついた、黒のゆったりしたコート。

 その中はシャツに、ごつい革ベルト、そしてハーフパンツという、全体的にラフな格好。


 コートの中にはポケットがいっぱいついていて、そのどれにも紙切れが入っていた。


 大半が、同じデザインのチケットのようなもので、それが100枚ほど。

 あとは地図と、コインが少々。


 地図の文字は読めなかったが、いかにもココに行けとばかりに目印が付けられていた。

 またしても俺の脳裏に、女神の言葉が蘇る。



『あとは、当面暮らすのに必要な荷物さんがギッシリ入ったリュックさんと、賢者学園さんまでの地図さん、賢者学園さんに従者(サーバトラー)候補生さんとして入学できる紹介状さんを、服さんの中にシュルリと入れておくわね。特に紹介状さんはナイナイしちゃうといけないから、タップリと』



 ……ああ、多分この地図に記されている場所が、賢者学園なんだろう。

 それとこのチケットみたいなのは、入学するための紹介状ってわけか。


 しかしいくら無くしたらダメなものとはいえ、100枚は多過ぎだろうよ、女神さま。


 でも、これからすべきことはできた。

 とりあえずこの賢者学園とやらに、行ってみることにするか。

リュックを持っていった子供たちは、後々にまた再登場します。

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